せっかくなのでもう少し。

新作の漫画ですが、カメラワークは前より良くはなったけどお友達の謎の寄りとマルチアングルが目立ちますね。
メインらしい二人より目立っています,
重要人物なのであれば名前も出した方が良いですし、あくまで脇役なら相応の扱いにした方が良いと思います。
読者の混乱を招くからです。
「このお友達はキーパーソンなの? そうじゃないの?」と。

ヒーロー役が代わりにマルチアングルしなくなりましたが今度はモブ化しないようにお気をつけた方が良いと思います。
前にも言いましたがカメラワークで極端なアオリフカンとロングの行き来は読者が酔うのでよほどの必然性がない限り多用しない方が良いと思います。
見てると車酔いとかジェットコースター酔いのようになります。
以前から言うように「ストーリー上の必然性があれば」時には構いませんが、頻度がまだ多いと思いますし、今回も必然性までは感じないですね。
しかもメインキャラではなく脇キャラ(今のところ)。

私は縦漫画は一作品しかまともには読んだことがないのでそれを例に引きますが。
その縦漫画ではアオリやフカンは情景の説明、キャラクターの位置関係のわかりやすい説明のために書かれていました。
それも極端なものではないです。
とてもさりげない。
あくまで状況説明であり、作者の画力の誇示ではありません。
その縦漫画の作者の画力は大変に高いですが、わざわざ誇示せずともさりげなくあっさり書き流していてもその画力の高さが伝わってきます。
ごく普通の奇を衒わない構図でもポーズでも全く破綻がなく自然に上手いです。
安心して読めます。

さりげなく書いてると言うことは作者が黒子に徹してるからです。
大変な画力の持ち主ですが淡々と書かれてて読者にストーリーと状況とキャラの心境が途切れなく入ってきます。
表情も過不足なく、過剰すぎず紋切り型でもなくストーリー的にもキャラ立ち的にもぴったり。
あえて奇抜な画角から書いて画力誇示せずともごく普通に書いてて筆力が伝わってきます。

余談になりますがあなたの新作の「男の娘」の驚き顔が、前作の貫頭衣の男の子とほぼ同じなので、キャラの性格に合った表情というものを研究した方が良いと思います。
新作の子と前作の子の個性がちゃんと作り込まれていたらそこは自然に書き分けできるはずです。
少なくとも内向性外向性などの違いで同じ感情からの表情でも違いがあるはずです。

先程の縦漫画家の線画担当者は殊更小鼻とかをいちいち書いてませんが「あ、リアルに上手い」と即わかります。
リアル感演出のために小鼻や人中などを書かずともリアル画も書けるのがはっきりわかるのです。
個人的な好みの話になりますが、漫画の絵柄だと一般的にリアル感演出とかはない方がすっきりしてて美しい絵に見えます。
あくまで私の好みの話なのでここは流していただいて結構です。

しかし、「リアル感演出で小鼻や人中を書いた」あなたの絵よりその縦漫画家の方がリアル画を仮に書いても画力がずっと高いことは確かでしょう。
キャラの顔だけでなくカメラワークもそうです。
物語のために邪魔にならず、しかしシチュエーションがわかりやすいように工夫してますが作者の画力顕示ではない、あくまで黒子としてのカメラワークでとてもわかりやすく読みやすいのです。
読者にわかりやすいことを第一に心掛けているのだと思います。

作品は作品、作者は作者です。
作者の声がうるさいと作品の邪魔になるのです。
作品が書きたいのか、作者が自己主張したいのか、それを混同されると読者は読みづらいのです。
灰汁の強い野菜を灰汁抜きせず食べさせられてるような気持ちになります。
作者の自己主張は物語を語る上ではノイズです。
作品を物語るのであれば作者は黒子に徹していただける方がありがたいです。

それから、縦漫画の意図をご説明いただきましたが興味深く読みました。
しかしながら縦漫画の構造上、横書き台詞は向いていないと思いました。
先程から例に引いている私の唯一読んだ縦漫画は本家本元のお国の作品ですが縦書き台詞です。
縦スクロールと合っていて読みやすいです。
縦書きのあるアジア圏では向いてるでしょうが横文字圏では読みづらい形態だと思います。

グローバル展開を視野に入れての横書きかもしれませんが、縦漫画とは絶望的に相性が悪いと感じました。
ましてやそれが五月雨状の弾幕になっていたらこれはもう読者に「読むな!」とブレーキをかけているのと同じと思います。
縦スクロールで読む構造上、横書き台詞はブレーキです。
それが五月雨状になっていたならそれは読者に「これ以上進むな!」と何度も強力にブレーキを踏んでいるのと同じ効果になります。

もしどうしても横書き台詞にこだわるのであれば非常に練られたシナリオが必要になると思います。
無駄の一切ない、しかし背景事情も全てそのたった一言で理解できるほどに練られた最低限の台詞回しが。

例えば吉田秋生先生の漫画の台詞回しが非常に秀逸で最低限になっています。
最低限であることでやり取りのリアルさも感じます。
映画のシナリオのように非常に練られていると思います。
絵で見せて台詞は最低限。
表情で見せて言葉を発しない。
そんな緊迫感あるシーンも秀逸です。

吉田秋生先生くらいまでタイトに台詞を絞り込まないと横書きは難しいと思います。
これはあなたが悪いのではなく縦漫画の構造上の問題です。

先程から例に引いている縦漫画はとても重厚な作品世界です。
スケールが大きく設定や世界観も一般読者にはあまり馴染みのない世界ですが説明台詞ではなく物語りとして書かれています。
考証もきちんとしています。
もちろん本家本元の分業制縦漫画ですから、考証は線画担当ではないと思いますが。
しかしカジュアルな内容ではない秀逸な縦漫画も存在することは確かです。

個人で分業制縦漫画と同等のクオリティは無理だと思います。
でも少なくとも「物語を通して伝えたいこと」があるなら物語そっちのけの自己主張(こんなに書けるのよ! このキャラ魅力的でしょ! 作者の目論見通りに思って!)ではなく「物語を読者にわかりやすく案内」してほしいと思います。

絵が上手いか下手かなら上手い方がよりいいかもしれませんが、物語を語る最低限書けていればそれでいいと思います。
一般的には「進撃の巨人」は画力が売りの漫画とは言えないでしょう。
特に最初期は本当に拙かったです。
しかしそれを上回る「この物語を伝えたい! この生き様を伝えたい! このシーンを伝えたい!」という意欲と鮮烈なイメージ喚起力で最後まで書き切りました。
もちろん連載中に上達もして行きましたが、いわゆる「画力の高い」漫画家では無いと思います。
上手いことより「伝えたい気持ち」の方がずっと読者に訴えるという良い例だと思います。

作品世界を一番知る、例えるとバスガイドが作者だと思います。
作者は作品世界をわかりやすく楽しく読者に案内する役目だと思います。
そのバスガイドが作品世界より「私の歌上手いでしょ! 私アイドルみたいに可愛いでしょ!」とか言い出して案内もせず歌って踊ってバスツアー客にアピールし出したらバスガイド失格と思います。
作者が作品で自己主張という行為はこの勘違いバスガイドのようなものです。

しかし正直あなたが短期間であのように漫画を書き上げるとは思ってもみませんでした。
私の指摘に対して作品で返すというある意味王道で返してきたのは意外でした。
最初の反応が言い訳でしたしその後もその延長線上でしたので。
ですから比較的私の指摘に沿ってもう一本書くとは思いませんでした。
反発心から意地でも私の指摘など無視する可能性が高いと思ってましたので。
また、あなたには私の指摘通りにする義務もありませんし(私も問題提起はしましたが、選択するのは本人次第ですから)。
とりあえず私の指摘が出鱈目なただのクレームではなかったことがご理解いただけたのなら良かったです。
正直前作よりかなり読みやすいです。

過去のいくつかの記事しか読んでませんがその印象通りあなたは前向きでパワフルでいい人なのでしょう。
そのパワフルさを作品上では自分アピールや読者軽視ではなく読者への分かりやすい道案内に使っていただければと存じます。

無理してお体など壊すことのないよう、そしてこれからのご活躍をお祈り致します。

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