かえる小説文学賞_たけしゅん

=====以下本文=====
(無数の刺し傷と、ちゃんこ鍋…?)
 遺体にはナイフで刺されたかのような傷跡と、煮え切ったちゃんこ鍋がいくつも並んでいた。
(おいどんはまた事件に巻き込まれたようでごわす)
 ー遺体が見つかる三刻ほどまえー
「…ダメでごわす」
 大量の整髪料を手に付け、髷を結う男が1人。
「髷とは奥が深いでごわすな!」
大関鳥子。力士界にその名を知らぬほど、大業を成し遂げた男だが今は細々と探偵業に勤しんでいる。
大関「今日も結えなかったでごわす」
 残念そうに手を洗う大関の後ろから、「また髷を結んでたんですか、関さん!」
 宇茶理太。大関が相撲界を離れるときに、一緒についてきてくれた付き人である。
大関「事件も起きないし、髷も結えない。今日もいつも通りでごわす」
宇茶「平和が一番じゃないですか! でもさっき、封筒が届いてたんですけど、中身みました?」
大関「ぬ?」
 今朝新聞と一緒に紛れ込んでいた封筒に目を遣る。
大関「どうせまたイタズラの類でごわす。おいどんは朝の四股踏みに行ってくるでごわす」
宇茶「えー、じゃああっしが開けちゃいますからね」
 宇茶が封筒を開けると同時に関の四股が始まった。
宇茶「あー! これ掬井菜夏至さんからですよ!」
 関の足が180度あがったところで動きが止まる。
宇茶「何々、今日の18字に自宅にてパーティを開くので、ぜひ参加してください。ってこれ、パーティの招待状じゃないですか! 今どき手紙って…」
 ドンっ!!!
「…!!!」
大関「てめぇ、掬井のこと悪くいったか…」
宇茶「い、言ってませんよ! 手紙で来るなんて珍しいなぁって思っただけです!」
(関さんは掬井さんのことになるとすぐこれだ…)
 掬井菜夏至。大関鳥子の旧友であり、幼馴染である。今は大関と渡り合った横綱と婚約している。
大関「すぐ用意するでごわす」
宇茶「え、でも集合時間18時ですよ」
大関「二度言うのは嫌れぇって教えなかったか…」
宇茶「すみませんでした! すぐ用意いたします!」
(関さんと掬井さんが結婚していたら今頃関さんは横綱だったんだろうなぁ。まさに鬼に金棒だな。いや、力士にちゃんこ鍋だな)
 この後事件に巻き込まれることも知らずに、浮かれる大関であった。
 次回、関取物語っ!!!
「『しこふみ』をおこなうでごわす」
「四股踏み?」
「いや関さんのは『四股』ではなく『死孤』!死とは孤独なものと取り、犯人を追う前に必ず行う作法みたいなものだ!」
「地下室なのに溺死!?」
「刺し傷からの流血の量が少ない」
「馬鹿野郎…お前が落ちぶれたんだよ。身体もちゃんこの味もな…」
次回
『さらば横綱、あんたが犯人!」
=====以下講評=====

 力士×ミステリという異色の組み合わせは着眼点が鋭く題材として普通に面白い。セリフ回しも力士のそれを意識しておりユーモアに富んでいる。四股を死孤にしてみたり、ちゃんこにかけた決めセリフなど意味不明な組み合わせはまさしく馬鹿ミスというひとつのジャンルに尖っており、未完であるのが非常に惜しい。キャラクター造形も上手く、これだけ短い文章でキャラが立っているのは他にない強みだった。
 小説の作法がなっていないのと、未完なのが足を引っ張り受賞は逃したものの、個人的には好きな作品でした。

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