かえる小説文学賞_残飯

=====以下本文=====
『雨』

 雨は嫌いだ。私はいつから雨を嫌うようになったんだろう。かなりの雨女な私は雨とは切っても切れない縁でうんざりしている。
 唯一、嫌いな雨でも雨音は好きだ。特に雨がやみかけているときの徐々に消えていく雨音が。
 六月中旬、梅雨入りをして雨は強くなった。
 田舎の山奥に住んでいるため雨が降りやすく、毎日が憂鬱で仕方がなかった。梅雨のせいか授業はほぼ雨関連の話や課題、美術なんて雨をテーマにした作品を作れと。ああ、なにか雨を忘れるような刺激的なことがないか、逆に雨を好きになれるような刺激的なこと……。
 昨晩、家の近くで殺傷事件があった。犯人は刃が20センチの業務用アイスピックを使い複数刺した模様。田舎のためこの噂はすぐに出回り、どこを歩いてもこの噂で持ち越しだ。警察によると犯人はまだ捕まっておらず捜索中。その事件で使われた凶器も見つからず不明なままらしい。
 物騒なことが身近に起きたもんだと少しワクワクしている自分がいた。その日の夜、私は死体を見た。あの噂の通り刺されたような跡があり出血もしている。私は激しい雨に打たれながらその場を走り去った。
 昨日は一睡もできずに寝不足なまま登校した。死体が脳裏にこびりつき気を緩めると死体の映像と感覚を思い出してしまう。
 その日の夜、私はまた死体を見た。数か所刺しじっくり観察をする。この人は血の量が多く流血した血が雨のせいで広がり彼岸花を連想させた。我ながら綺麗な作品を作り出した。高揚感でその日も一睡もできずに寝不足なまま登校した。どこを歩いてもニュースの話ばかり、噂は私の作品の評価にすぎない。
 その日の夜、また私は人を刺した。私の作品に寄り添ってみた。そう、この雨がやみかけるときの徐々に消えていく雨音が好きでたまらない。冷え切った作品を後にし満足気に私は去っていく。その日の雨はなんだか気持ちよかった。
 止まない噂、テレビで取り上げられる殺傷事件。提出物は雨をテーマにした作品だっけ?
=====以下講評=====
 第一回で唯一のサスペンスものである本作。終始主人公の独白でセリフ文が一切ないので日記感が出てしまったのが惜しいところ。作品にされてしまった被害者と主人公のやりとりがあればさらに緊迫した雰囲気が出たように思う。


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