かえる小説文学賞_おかゆの日

=====以下本文=====
「パパ活相手が宇宙人だったら」

「こんばんは。明日13時に会えるのを楽しみにしています。緊張しちゃいます!ところでお会いする前に確認しておきたいのですが、明日のデートでは、おいくらいただけますか? 先払いのみでお願いしていますが大丈夫でしょうか?」
 きれいな色と形に整えられた爪先は淡いピンク色で年齢に似合わず大人びた印象を与える。
 トボトボ歩きながらこのテンプレート化したメッセージを数人に送信する。ノルマは10人。テキストの陽気さと裏腹に、単純作業を繰り返すことに空きが生じており気分転換がしたくなった。まだ夜は上着が欲しくなる季節は星が良く見えるだろう、と夜空を見上げる。
「あ!」
 流れ星だ。しかも大きい。明日はいいことがあるかもしれない、と軽やかな足取りで帰路についた。
「初めまして! 今日はよろしくお願いします!」
 どこに行っても恥ずかしくないきれいめな服装に身を包んで、口角をきれいに上げて挨拶をする。
 頭から足の爪先まで手入れをしっかりと行い、派手すぎない化粧を施した私の姿をみるとほっとしたような表情を見せる相手。
 今日デートをして代金を支払ってもらう相手である。
 初めて会うこのおじさんの服、靴、鞄そして装飾品までを一通り確認する。
 プロフィールは40代って書いてあったけどかなり若く見える。スーツは着ているがそんなに高級そうな身なりでもない。本当にお金があるのかな。あるならこの人、あたりかもしれない、と品定めをする。
「こんにちは。土屋といいます。きてくれてありがとう。お昼ご飯は近くのお寿司を予約しています。そこでよろしいですか?」
 自分の分を好きな物を好きだけ注文できるお寿司は、正直一番ありがたい。元気に同意の返事をする。
 しかし、同意を得て満足そうに歩き出そうとするおじさんを引き留める。
「土屋さん、すみません。先払いをお願いしていますので、今日のデート代お支払いいただけますか?」
「すみません、こういうのは初めてでして。おいくら払えばいいのでしょうか」
「んー、じゃあ100万円で!」
「わかりました。ではこれでお願いします」
 帯の付いた一万円の束が軽く手のひらに置かれる。
「へ……?」
 呆然とする私に不安そうな表情を向ける。
「すみません、カード払いでしたか?」
と、クレジットカードを取り出すおじさん。
 な、なにこのひと?

「なんだ、冗談だったんですね」
 本気で私が100万円を請求したんだと勘違いしたおじさんは、冗談だと私から告げられ、少し焦ったようにそう返した。店で着席をしてやっと鞄に入れていた100万円を返すためにとりだす。あんな金額を受け取ったらいきなり身体の関係を迫られるのかもしれない、しかも人には言えないとんでもない変態の可能性もある。そう思うと恐ろしくて受け取れる金額ではなかった。しかもこのデートも無料ではないので帯から一枚だけを引き抜いて残りをおじさんに手渡す。
「すみません、見当違いなことをしてしまって」
 困った笑顔を見せるおじさん。目がなかなか合わず店内を見回している。
 気兼ねなくあんな大金を渡せるなんて相当なお金持ちなのか? すこし探りをいれるために質問を投げかける。
「土屋さんってどんなお仕事をしているんですか?」
「仕事はしていません」
「そうなんですか?」
「仕事、した方がいいですかね?」
 質問の意図がわからない。仕事をしていないということは株などで稼いでいるのか? それとも実家がお金持ち? いろんな可能性が頭のなかに浮かんでくる。お寿司を食べつつもう少し様子をみることにしよう。と考えて居たらおじさんの方から質問が飛んできた。
「他の方とお寿司にはきたことがありますか? 皆さん何をよく食べていましたか?」
「お茶手食事のたびに何杯ほどのみますか?」
 不思議な質問が続く。
 初対面の相手には普通何をしているとか、好きなことは何か、などの質問が多いものだ。
このおじさんからの質問は私のことを知りたいにしては的外れな内容ばかりである。
「なんだか不思議な方ですね。変わってるってよく言われませんか?」
「え⁉ そ、そうですか⁉ 言われたことはありませんでしたが……。変わってますか? どこらへんが変でしたか?」
 つい口をついて出た質問に、人によっては不快に思うかもしれないと箸を止めて様子をうかがっていたが、予想以上の動揺を見せるおじさんにこちらも困惑する。
「どこって言うか。質問の内容が変わってるなーって。他のパパさんたちのことが気になるですか?」
 そう聞くと図星だったのかさらに動揺の色を濃くするおじさん。
「いえ、その、決してほかの方が気になるというわけでは……」
 少しの沈黙が流れる。
 その後何かを決意したのか、しっかりと目を合わせてこちらを見据えてきた。
「お食事のあと、まだお時間ありますか? 少しご相談したいことがあるのですが」
 これはもしかすると……。
 にっこりと笑顔を向けて了承を示すと、食事を終えて店をあとにした。

「ご相談というのは?」
 店を出て少し歩いた物の何も言い出せないおじさんに痺れを切らしてそう質問する。
「どこか二人きりになれるところが良いのですが……」
 え? ホテルってこと? 私の口から言わせて同意だと言い張るつもりか? とふと頭によぎったがそんな様子ではなかった。近場のカラオケ店に案内し個室に入る。明らかに歳の差のある男女の入店に若い店員の視線が刺さったが今は気にしないでおこう。
 室内で腰をかけるやいなや本題についておじさんが話し始める。
「話というのはですね、びっくりしあにでほしいのですが」
 口を開けたり閉じたり、なかなか次の言葉が出来ない様子である。
 静かに次の言葉を待つ。
「じつは、この星について私に教えて欲しいのです」
「星……ですか?」
「はい」
「星というのは、地球と言うことですか?」
「はい」
 一つ一つの言葉を慎重に確認しながら話を進める。
「その、実は私は他の星からきたんです。いわゆる宇宙人というやつでして」
「他の星……ちなみになんて名前の星ですか?」
 すんなりと受け入れた私に、下に向いていた目線を上げるおじさん。
 驚いたようだがそのまま話を続けてくれる。
「他の星の言語なので聞き取れないかもしれませんが”〇! ※▢◇#△!といいます」

「2×22年4月15日 〇! ※▢◇#△! 星人の侵入を確認、捕獲します」
「えっまっまさか!」
「すみません、そのまさかです。地球は我々がすでに保護観察中です。ほかの惑星の者に邪魔されては困ります。これから我々の星に移送させていただきます」
「そんな!」
 まばゆい光とともにおじさん、いや、異星人は消えた。
 この星、地球に一番はじめに到達した私たちは、この星の利用価値を計るために観察中なのだ。
 様々なシステムを駆使してこのパパ活用アプリを異星人から見つけやすいよう設定することに成功した。
 このアプリでパパ活女子として潜伏することで、異星人の侵入を発見しやすくなるということだ。

「今回は簡単だったなぁ。昨晩地球に到着して人間に擬態したばかり、というところかな。ノルマまであと9人。早く星に帰るためにがんばろう!」
=====以下講評=====
 タイトルからパパ活の相手が宇宙人であることは容易に想像がつくが、主人公も宇宙人であったというのは意外性があってとても面白かった。話の構成も綺麗にまとまっており、セリフ文と地の文の配分も丁度良く、今回の応募作のなかでは最も小説らしい作品だった。大賞候補であったが、今回大賞を逃したのは単純に選考者の好みからわずかに外れてしまっただけだと思う。

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