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    ミステリです。

  • 第一回かえる小説文学賞

    spoonで開催した小説コンテストの応募作品集です。

記事一覧

下書き

 あるところに1人の男がいた。男は事務用品を卸売る会社の品質管理部門に勤めていたが、5年ほどたって営業職に異動することになった。  希望の異動ではなかったが、男は…

かえる
2日前

3月27日より導入されるSPOONの新機能についての考察

 3月27日よりコラボ機能とキャスト保存機能が有料化される。  この情報がspoon運営より発表された2月28日から本稿を執筆している3月1日未明まで約2日だが、すでにXでは批…

かえる
3か月前
16

手紙

 父の遺品整理に行くと伝えたとき、母は案の定良い顔をしなかった。 ーー離婚して縁は切れてるんだから真希が行く必要ないでしょ。  そんなことわざわざ言われなくても、…

かえる
7か月前
2

天職

 小学校の用務員という仕事。それが自分にとって天職なのだと気付いたのは、この仕事を始めて3年たったころのことだ。  総合商社を65歳で退職した私は、ただひたすらに繰…

かえる
8か月前
5

Insomnia 2話

 自動ドアの抜けた先には等間隔に扉が並んでいた。復温室、処置室、診察室、救急隊員待機室、霊安室と続く。どれも木製の扉にプレートが打ち付けられているだけで覗き窓が…

かえる
10か月前
5

Insomnia 1話

 北城JCTを抜けたあたりから積雪量が明らかに増えた。もはや道の半分は雪に埋もれ、かろうじて除雪されている道路幅は車一台半程度しかない。押しつぶされるんじゃないか…

かえる
10か月前
5

コラムニストと母

 西條さくらはコラムニストになることを決意した。22歳の秋のことだった。  布団のなかからじっと空を見上げていた。お日様はとっくに空の高いところまで登っていて、さ…

かえる
1年前
1

かえる小説文学賞_残飯

=====以下本文===== 『雨』  雨は嫌いだ。私はいつから雨を嫌うようになったんだろう。かなりの雨女な私は雨とは切っても切れない縁でうんざりしている。  唯…

かえる
1年前
4

かえる小説文学賞_たぴちゃん

=====以下本文===== 『無題』 「みくー! 帰るよー!」  娘に向かって大きめの声を上げた。  真夏とはまだ言えないにしろ、日陰にでも行かなければこの日…

かえる
1年前
1

かえる小説文学賞_ねむむ

=====以下本文===== 「幸せ義務国家」 はじめに  「幸せ」しか許されない世界。  「幸せ」とは欺瞞である。「幸せ」なんて存在しない。もし、「幸せ」を感じ…

かえる
1年前
3

かえる小説文学賞_おかゆの日

=====以下本文===== 「パパ活相手が宇宙人だったら」 「こんばんは。明日13時に会えるのを楽しみにしています。緊張しちゃいます!ところでお会いする前に確認…

かえる
1年前
4

かえる小説文学賞_たけしゅん

=====以下本文===== (無数の刺し傷と、ちゃんこ鍋…?)  遺体にはナイフで刺されたかのような傷跡と、煮え切ったちゃんこ鍋がいくつも並んでいた。 (おいど…

かえる
1年前
6

かえる小説文学賞_くせっけ

======以下本文======  遠くの街でのんびり過ごそう 25時に思い立って私は車のエンジンをか けた。 とにかく自分だけの時間が欲しい、折角の 休日にまで知…

かえる
1年前
1

下書き

 あるところに1人の男がいた。男は事務用品を卸売る会社の品質管理部門に勤めていたが、5年ほどたって営業職に異動することになった。
 希望の異動ではなかったが、男は遮二無二に働き、得意先のいくつかを1人で任されるようになったころ女と出会った。
 女は得意先のひとつであるA社で受付をしていた。目立った美人というわけではない。しかし、どこか儚げでミステリアスなその女に男は次第に惹かれていった。
 女への

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3月27日より導入されるSPOONの新機能についての考察

 3月27日よりコラボ機能とキャスト保存機能が有料化される。
 この情報がspoon運営より発表された2月28日から本稿を執筆している3月1日未明まで約2日だが、すでにXでは批判意見一色であり、これまでにない大炎上に発展しそうな不穏な気配が漂っている。
 本稿ではタイトルの通り、この新たに施行される新機能の是非について考察をしていきたい。

 まず2月28日にspoon運営から発表された情報の整理

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手紙

 父の遺品整理に行くと伝えたとき、母は案の定良い顔をしなかった。
ーー離婚して縁は切れてるんだから真希が行く必要ないでしょ。
 そんなことわざわざ言われなくても、私だって20年も前に父親を辞めた男の家に進んで行きたいとは思わなかった。私たちを捨て、ありもしないものを追い求めて出て行った父への情などとっくに冷め切っているのだから。
 父は私の妹、翼がトラックに轢かれてこの世をさってからおかしくなって

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天職

 小学校の用務員という仕事。それが自分にとって天職なのだと気付いたのは、この仕事を始めて3年たったころのことだ。
 総合商社を65歳で退職した私は、ただひたすらに繰り返される焼き増しの日々に飽き飽きしていた。在職中はあんなに楽しかった釣りやゴルフが途端に億劫になり、日がな一日惰眠を貪るか家のベランダから通りを行き交う車を眺めるばかりいた。そんな私を見かねた妻が伝手を頼りに取ってきた仕事が用務員だっ

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Insomnia 2話

 自動ドアの抜けた先には等間隔に扉が並んでいた。復温室、処置室、診察室、救急隊員待機室、霊安室と続く。どれも木製の扉にプレートが打ち付けられているだけで覗き窓がないため扉の向こうがどうなっているのかは分からない。なかにはプレートのない扉もある。それらを物珍しくて眺めていると、羽鳥さんが気づいて歩を緩めた。
「救急車の受け入れを一部ここで引き受けていたらしいね」
「一部、というと普段は別の場所で受け

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Insomnia 1話

 北城JCTを抜けたあたりから積雪量が明らかに増えた。もはや道の半分は雪に埋もれ、かろうじて除雪されている道路幅は車一台半程度しかない。押しつぶされるんじゃないかと錯覚するほどの圧迫感。無意識的にスピードを落としてしまうが、前後左右どこを見渡しても他の車なんているわけがないのであまり気にしないことにした。
 冬入りまでに終わらせる予定の仕事に手間取っていたらあっという間に11月になっていた。恋人の

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コラムニストと母

 西條さくらはコラムニストになることを決意した。22歳の秋のことだった。
 布団のなかからじっと空を見上げていた。お日様はとっくに空の高いところまで登っていて、さくらはその様子をひたすら眺めることに午前中の大部分の時間を費やした。
 さくらはニートだった。大学を「つまらないから」という理由で中退し、呆れる両親を横目に「いつかでっかいことやってやるんだから。これはただの充電期間!」と息巻いた。それ以

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かえる小説文学賞_残飯

=====以下本文=====
『雨』

 雨は嫌いだ。私はいつから雨を嫌うようになったんだろう。かなりの雨女な私は雨とは切っても切れない縁でうんざりしている。
 唯一、嫌いな雨でも雨音は好きだ。特に雨がやみかけているときの徐々に消えていく雨音が。
 六月中旬、梅雨入りをして雨は強くなった。
 田舎の山奥に住んでいるため雨が降りやすく、毎日が憂鬱で仕方がなかった。梅雨のせいか授業はほぼ雨関連の話や課

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かえる小説文学賞_たぴちゃん

=====以下本文=====

『無題』

「みくー! 帰るよー!」
 娘に向かって大きめの声を上げた。

 真夏とはまだ言えないにしろ、日陰にでも行かなければこの日差しのなかにそう長くは立っていられない。
「まだ遊んでないよ」
 娘は私のところまでは来たものの、帰ることを渋っている。
「滑り台、五回したら帰る約束でしょ?」
「だから、まだしてない」
 そう言ってみくは、下唇を噛んだ。
 それをみ

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かえる小説文学賞_ねむむ

=====以下本文=====
「幸せ義務国家」

はじめに
 「幸せ」しか許されない世界。
 「幸せ」とは欺瞞である。「幸せ」なんて存在しない。もし、「幸せ」を感じるのならそれはあなたが「幸せ」を演じているだけだ。
 ここは世界で最も幸福度の高い国。
 国民は幸福に生きれば生きるほど裕福な暮らしを手に入れることが出来る。ここでは「幸福」こそが正義。幸福のために繰り返される死は正しい。
 幸福度増進

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かえる小説文学賞_おかゆの日

=====以下本文=====
「パパ活相手が宇宙人だったら」

「こんばんは。明日13時に会えるのを楽しみにしています。緊張しちゃいます!ところでお会いする前に確認しておきたいのですが、明日のデートでは、おいくらいただけますか? 先払いのみでお願いしていますが大丈夫でしょうか?」
 きれいな色と形に整えられた爪先は淡いピンク色で年齢に似合わず大人びた印象を与える。
 トボトボ歩きながらこのテンプレ

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かえる小説文学賞_たけしゅん

=====以下本文=====
(無数の刺し傷と、ちゃんこ鍋…?)
 遺体にはナイフで刺されたかのような傷跡と、煮え切ったちゃんこ鍋がいくつも並んでいた。
(おいどんはまた事件に巻き込まれたようでごわす)
 ー遺体が見つかる三刻ほどまえー
「…ダメでごわす」
 大量の整髪料を手に付け、髷を結う男が1人。
「髷とは奥が深いでごわすな!」
大関鳥子。力士界にその名を知らぬほど、大業を成し遂げた男だが今は

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かえる小説文学賞_くせっけ

======以下本文======
 遠くの街でのんびり過ごそう 25時に思い立って私は車のエンジンをか けた。 とにかく自分だけの時間が欲しい、折角の 休日にまで知り合いに会って要らぬ気を遣う など面倒くさいことを感じたくないと思った。
 友達はいないが知り合いの多い私は常に誰か に気を遣って生活していて、そろそろ気が狂 いそうな予感がしていた。 車内には昼間の熱がずっと残っていてエア コンの生温

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