『ノヴァセン』で宇宙について考えたあとに、生活費のことを考える。

100歳の天才、ジェームズ・ラヴロックの最新作。この本は衝撃だった。

この本との出会いのきっかけ

本屋でたまたま目にして、今どき珍しいハードコアな装丁に興味をそそられた。手にとって表紙を眺めれば、落合陽一がなんだか難解なコメントをしている。「ほうほう、面白そうだ。」と思った僕は、目次を開いてみた。

1 孤独な人類
2 絶滅の縁
3 直観的思考を身につける
4 なぜ人間はここにいるのか
5 新たなる理解者
6 トーマス・ニューコメン…

なるほど、これだけを見れば意味不明だ。しかし、意味不明なものからしか、きっともう衝撃は感じられない。ありきたりな自己啓発や社会への提言、事実の羅列にはもう飽きた。というわけで、怖いもの見たさで買った。

何が衝撃だったのか。

作者のジェームズ・ラヴロックは宇宙人だ。いや、宇宙の外側から宇宙を覗き込んで、その中に地球を見つけて喜んでいる神だ。『ノヴァセン』はその視座から、「宇宙って、地球ってこうだよね。多分これからこうなるよね。ワクワクするね。」みたいなことを、楽しそうに書いている本なのだ。

ユヴァル・ノア・ハラリは、宇宙にも、人間の物語にも、意味などないということを説いた。


一方でラヴロックは、宇宙(この本ではコスモスと呼ばれている)の目的は、宇宙自身を認識する過程だったと考えているようだ。つまり、意識をもち、宇宙について理解できる人類が生まれることは、宇宙にとって大きな意味のあるできごとということになる。そして、炭素型コンピューターである人類はケイ素型コンピューターを生み出した後、主役のタスキを渡す。タスキを渡した後の時代が『ノヴァセン』というわけだ。すでに人類は、ノヴァセンへの一歩を踏み出している。

日常は、奇跡だったということに気づく。

なるほど。面白い。宇宙が生まれ、軽い原子が生まれ、星が生まれ、星の中で重たい原子が生まれ、地球が生まれ、原子のスープからアミノ酸が生まれ、生命が生まれ、人類が生まれ、自分が生まれ、エントロピー増大の法則の中で、動的平衡を保っている今現在までのプロセスが、途端にイキイキしたものに感じる。そして、人生が奇跡のように思えてくる。生きているのが、楽しくなってくる。息子が愛おしくなってくる。世界が輝いて見える。

こういう本で学んだことが、繋がってきた。


ラヴロックはこの世界を「直感的」に理解したという。直感的思考を突き詰めた仏教がもつ世界観と、ラブロックの世界観が重なるのは偶然ではないと思う。

特に道元が考える宇宙観に、似ている気がする。

さて、日常は奇跡だということがわかった。息子も奇跡だ。息子のために、学費を貯めようか。まず生活費を見直さなければ。

スケールの大きな物語を知った後にも、相変わらず僕は日常を生きていく。僕は油断すると意識がだんだん浮世離れしていく。しかし、仏教の十牛図でいう入鄽垂手、つまり社会で生活するところに戻ってこなければならない。あっちにいって、こっちにいって、視座を切り替えながら、楽しく生きていこうと思う。

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