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むかしむかし、人々が物々交換をしていたころ‥

むかしむかし。人々はのんびり暮らしていました。

平等で、平和で、ずっと150人以下くらいの仲間で、どんぐりを拾ったり、マンモスを狩ったりしていました。彼らの労働は1日に4時間ほどで、残りの時間は輪になって太鼓を叩いたり、キャンプファイヤーをして過ごしていました。

ところが彼らはとんでもなく不便な生活を営んでいました。というのも、彼らの生活は物々交換で成り立っていたからです。Aさんが土器が欲しいと思って、土器をたくさん持っているBさんのところに行ったとしても、Bさんは猪肉としか土器を交換したがりません。Aさんは猪肉を持っておらず、かわりに鹿肉しか持っていませんでした。Aさんはわざわざ鹿肉と猪肉を交換してくれる人を探し出して、ようやくBさんから弓矢を交換してもらえます。土器を手に入れたいというだけで、こんなにも大変だったのです。

ところがある日、一人の天才が思いつきました。

「この貝殻を何にでも交換できる媒介にしよう。そうすれば交換が楽になるよ」

彼の天才的なアイデアにみんな大賛成。それから彼らは貝殻を使うことで、便利な生活を営み始めました。

こうしてお金が誕生しました。

さて、また別のある日のこと。どこかの誰かが野生の小麦の種を集落に持ち帰ろうとしたときに、ボロボロとこぼしました。その場所を観察していた一人の天才は、小麦が芽を出すことに気づきました。そして、とあるアイデアを思いついたのです。

「もしかして、たくさん種を蒔けば、たくさん小麦が収穫できるんじゃないか?」

そこで天才は小麦を蒔きました。そして、いろいろと試行錯誤した結果、土を耕し、石を取り、雑草を抜いた方がよく育つことに気付きました。

その方法をみんなに伝えたら、人々は狩猟採集生活を放り投げ、我先にと農業に取り組みました。そして、たくさん食べ物をつくれるようになったので、たくさん子どもを産めるようになりました。

人口はどんどん増えていきました。しかし、人口が増えていくと、小麦の生産や分配を管理する必要が生まれたり、小麦を奪おうとする人を懲らしめたり、揉め事を解消したり、水路づくりなどの公共工事を行ったり、外部の侵入者を防いだりする必要が出てきました。

そこでみんなで話し合って、リーダーと、その周りの兵士たちを選出しました。彼らが自分たちの仕事に専念できるように、人々は自分たちのお金を少しずつ出し合い、リーダーたちを養うことにしました(お金はその頃、貝殻から金や銀でできたメダルに変わっていました)。また、鉄をつくる人や家をつくる人など、専門職の人々もたくさん現れ、さまざまな発明が行われました。こうしてのちに国家と呼ばれる都市が誕生したのです。

人口は順調に増えていきます。しかし、人口集中による疫病や、管理防衛の必要性の増大によって、人々は楽になるどころか、労働時間がどんどん伸びていきました。それに単一作物への依存は定期的に飢饉をもたらす上、運悪く自分勝手な王様が即位したら彼は重税を課します。そのため人々の生活は飢えと隣り合わせでした。

また、分業は身分の格差も生み出しました。分業は世襲制だったので、貧乏な家庭に生まれたらお金持ちになるチャンスもありません。

しかし不満があったとしても、とっくに狩猟採集民としての暮らし方を忘れた人々は、今さらもとに戻ることはできず、農民として国家のもとで暮らし続けざるを得ませんでした。

時代は移り現代。人口は増え続けていて、いまさら狩猟採集生活に戻ることは夢物語です。とはいえ、分業によってテクノロジーが発展し、疫病や飢饉といった課題はほとんどが解決に向かっています。また、身分の格差はなくなり、努力次第で誰でもお金持ちになれる時代になりました。政治家も世襲ではなくなり、民主主義によってコントロールされているので、かわいそうな独裁国家を除き、過去のような暴君はもういません。稀に裏金を懐にしまう議員も現れますが、彼らがいなければ国家は大混乱に陥るのでやむを得ないでしょう。せいぜいしっかり監視するか、もし文句があるなら自分で立候補すればいいのです。

たしかに狩猟採集生活と比べれば労働時間は長いかもしれませんが、iPhoneやゲーム機、遊園地、ファストフード店のある生活を維持するためにはやむを得ません。身分の格差がなくなった代わりに貧富の格差は残っていますが、頑張った人にたくさんお金を与えなければ、誰も頑張らなくなるので仕方ないでしょう。それもこれも、もうじきAIロボットが労働を代替してくれるので、それまでの辛抱です。金持ちがプライベートジェットを乗り回す一方であなたは中古の軽自動車しか乗れないのだとしても、彼らのおかげでAIとロボットが発展しあなたを労働から解放し、インターネットと娯楽で溢れた生活をもたらしてくれるなら、なんの不満があるのでしょうか?

暴君も、疫病も、飢饉も、身分制もなく、テクノロジーが発展した現代社会に生まれた私たちは幸福です。もし、幸福だと思わないのなら、それはあなたが欲張り過ぎているからです。あるいは他人のせいにしてまったく努力をしていないからです。

幸運な時代に生きていることに自覚して、きちんと努力をして社会に貢献し、お金を稼ぎましょう。間違っても、ニートになんてならないように。最近はブルシット・ジョブだとかなんとか言って、世の中に無駄な労働があると主張する人もいます。確かに一円にもならない無駄な会議で時間を無駄にする管理職はたくさんいます。それは非効率な組織文化、ひいてはなにもせずとも出世できる年功序列が原因です。DX化や実力主義の導入によって、努力を促すべきでしょう。みんなが努力すればテクノロジーはもっと発展し、もっと生活は豊かになり、もっと楽になるのですから。

めでたし。めでたし。



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