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半地下とGAFA

映画「パラサイト 半地下の家族」を観てきました。韓国では実際に、北朝鮮からの攻撃に備えるために作られた半地下が住居として格安で貸し出されているのだそうです。ネタバレはしませんが、この映画の大きなテーマは格差社会です。重いテーマにも関わらず意外な展開や俳優のどこかコミカルな好演もあり、対照的な半地下と豪邸のリアルで美しい映像が印象的で素晴らしい映画でした。

先月こんなブログを書きました。

実はこのブログを投稿してから、年が明けてもずっとモヤモヤしていて、ブログもSNSもほとんど何も書くことができませんでした。いつもだったら、さあ年も明けたし新しい気持ちでやったるかみたいになるのですが、Twitter にあけおめと書くこともなく年が明けてずいぶんたってしまいました。何をモヤモヤしていたのか、なかなか言語化するのが難しいのですがこのブログを書くことで整理できればと思います。まず先月の記事にも書いたように、去年は改めて自分たちの生活がGAFAに依存していることを思い知らされた年でした。わたしは起業してから個人ひとりひとりが自立して活躍できる世界を夢見て、活動を支援するサービスや集客のためのノウハウを提供してきたつもりです。それが先月ブログを書いてからふと、これらは本当にお客様のためになっているのだろうかと思ってしまいました。

というのも、わたしは日頃から、これからは個人や少人数のチームの時代だ。なぜならわれわれにはスマホとクラウドがあるからだといっています。スマホとクラウドがあれば営業も販売も自分でできる。SNSで集客してスマホから決済することもできる。大企業が1億円かけて作ったシステムよりも使い勝手の良いサービスを月千円で使うことができる。費用や手間隙をかけなくても名刺もホームページも作れるし確定申告もできるクラウド万歳!といっています。それは本心からそう思っていて世の中が大企業から個人にシフトしていることを確信しているからなのですが、スマホとクラウドに頼ってビジネスをするということは直接的、間接的にGAFAに利益をもたらすことになります。スマホのアプリを使えば Apple や Google が、SNSで集客をすれば Facebook や Twitter が得をします。そして世の中の多くのクラウドサービスは Amazon のデータセンターを使っているので、ユーザーがサービスを使えば使うほど Amazon にお金が入るしくみになっています。もちろん弊社のサービスも例外ではありません。

グーグルやフェイスブックにお金なんか払っていないよという方も多いと思いますが、実は無意識に提供している大事なものがあって、それはデータです。データにも氏名や住所などの個人情報やいつ何をしたといった行動データ、アップロードした写真などいろいろありますが、どんなデータであれAIが学習するには有効なものになります。これまでのテック企業やどんなアルゴリズムを使っているかが重要でしたが、これからはどんなデータを持っているかが重要になります。なぜならアルゴリズムがあってもデータがなければAIは学習することができず、したがって明日の天気を予測することも歩行者をよけることもタガログ語を翻訳することもできません。だから世の中のテック企業は今あらゆるデータを収集しようとしています。そのデータによってどんなAIが生まれるのか誰もわかりませんし、生まれたAIが何を根拠に明日は雨だといっているのかもわかりません。ただAIが適切なデータで学習を行えば人間より格段に正しい判断ができるようになることがわかっていて、多くの仕事が置き換えられるだろうといわれています(例えば人材採用や融資査定などの大事な判断で人間は感情的なバイアスによって間違いを犯しがちですが、AIならそういうことはありません)。

でもWin-Winなら良いじゃないか。その通りです。YouTubeの閲覧数を増やすために激辛坦々麺を食べる動画をアップロードするのも、検索で上位に表示するために大衆の目を惹くブログのタイトルを考えるのもすべては自分の利益のためです(例えそれ以上の利益を Google が手にしているとしても)。ただ名もない人たちが自由になりたいと思って頑張ろうとすればするほど、GAFAのような巨大なテック企業が儲かるというのはなんとなく皮肉な感じがするのです。そしてこの先GAFAがさらに成長を続けていくとしてどんな未来が待っているかというと、AIや仮想通貨をはじめとしてなんだかよくわからないけど嫌なことが起こるかもしれないという不気味さも感じます。そしてわたしのようになんだかよくわからない不安を感じている人が他にいたとしても、わたしたちにはもうこの流れを止めることはできません。

友人に愛媛在住でカナダ人のプログラマーがいるのですが、彼は企業に情報を渡すのを極端に嫌がっているので、SNSを一切やりません。連絡をとるにもEメールやSMSすら拒否するので、アメリカの上院議員ご用達というセキュリティに配慮したアプリを使わないといけません(ほとんど使わないのでわたしはいつもそのアプリを削除しそうになります)。そんなことは普通の人にはできません。SNSは今や集客になくてはならないツールになっていますし、お客様や取引先とやりとりをするために LINE や Facebook を使うこともあるでしょう。わたしは一時期 Google を使うのをやめて DuckDuckGo に乗り替えてみたことがありますが、やはり長続きはしませんでした。Amazon のない生活は想像すらしたくありません。GAFAへの依存はウェブ関連のビジネスをやっている限りどうやっても抗えないので、ありがたく使わせてもらっているのが実情です。Google が明日なくなったとしても、別の例えば Baidu みたいな企業が同じことをやるでしょう。まかり間違って政府が我々の情報を管理することに比べたらずいぶんマシという気もします。

グローバルな自由競争が行き着くところまでいった結果、どういう世界にたどり着くのかはわかりませんが、わたしたちは近い将来それを見届けることになるのだと思います。わたしは今こそ日本企業が立ち上がるべきだみたいな現実味のないことがいいたいわけではなくて、単純に、美味しいお店がなくなって格安のチェーン店ばかりになったり、AIにあれこれ指示されたり、税金が払えなくて半地下に住まないといけなくなったり、欲しいものがどこにも売ってなかったり、美しいものが見られなくなったり、子供にドライアイスを食べる動画を配信させたりするのは嫌なので、そのために自分ができることをやっていきたいと思っています。

最後に江戸幕府の官僚であり明治の実業家でもあった渋沢栄一の「論語と算盤」から一文を引用します。

およそ人として、その処世の本旨を忘れ、非道を行なっても、私利私欲を充そうとすることがあったり、あるいは権勢に媚びへつらってもその身の栄達を計らんと欲するは、これ実に人間行為の標準を無視したもので、かくのごときは決してその身、その地位を永遠に維持する所以の道ではないのである。いやしくも世に処し身を立てようと志すならば、その職業の何たるを問わず、身分の如何を顧みず、始終自力を本位として、須臾も道に背かざることに意を専らにし、しかる後に自ら富みかつ栄ゆるの計を怠らざるこそ、真の人間の意義あり、価値ある生活ということができよう。今や武士道は移してもって、実業道とするがよい。日本人は飽くまで、大和魂の権化たる武士道をもって立たねばならぬ。商業にまれ工業にまれ、この心をもって心とせば、世界に勇を競うに至らるるのである。

今年もよろしくお願いいたします。