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夢のカタチ|ショートストーリー

 煌びやかな街のあかりが、僕の瞳を渇かしていた。誰よりも優しく、誰よりも強く。それは誰もが目指しているであろう、己のあるべき姿だった。
 はじめまして、こんばんは。笑顔を貼りつけた貯金箱が、今夜もそんな台詞を吐いている。あろうことかこの僕も、そんなモノの一部ではある。

 ネオンに溶けて無くなっていきそうな、そんな後ろ姿だった。思うよりもさきに、僕の両の足は歩みを速めていた。
 僕と一緒にいくか? そんな台詞に足を止めた彼は、俯いたままで固まった。つぎにゆっくりと振り返り、俯いたままで小さくうなづく。

 今日から、お前の面倒は僕がみる。こんな街のこんな雑踏のなか、こんな灯りに溶かしてしまいたくはない。
 死にたがりが、ひとり……増えた。またそれも、この僕自身なのだろうか。同情とか、優しさとか、そんなものでは無いと感じた。

 僕は処女ではありません、そんなことを笑って話せる女をみつけた。この地のものではないであろう、掌で浮遊する小さな女だった。
 女は夜更けに何処からともなく現れては、朝陽を避けるように消えていく。必ず最後に腹が減ったとケタケタ笑い、おやすみも言わずに去っていく。

 女が、消えた。ときどき見かける女は留まらず、僕の掌へ乗ることはなかった。僕も己の在るべき姿のため、新しい土地を目指してあるく。
 渇いた瞳と涸れかけた心に、すんっと清水が流れ込む。これが愛というものだろうか、ぎゅっと胸が苦しくなった。

 夢、を思い出した。忘れかけていた、夢だった。同じ笑顔をしていた、僕は弟をえらんだ。きっと上手くいく、思った通りになる。
 去られることに怯えていた、愛されることを忘れていた。僕はどこで間違ってしまったのだろうか、なぜ今になって思い出してしまったのだろうか。

 守りたいものがある。そして護りたいものがある。絶望よりもさきに絶望が、僕の思考を呑み込んでいく。
 怖くないは、嘘になる。だけども僕は、怖くはない。それよりもおおきな不安が、僕の身体を蝕んでいく。

 護りたいものがある……、守りたかった約束がある。僕は必ずそれを守る、どんなカタチであったとしても。

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