第42回 絶対的価値(首飾りの制作)

隣の村人が喜んで帰った後のこと。
隣の村から別の人が来て、米15kgを出すから同じ服を作って欲しいと頼まれました。
そして、そんな人が次から次へとやってくることになりました。

そんなある日、また別の一人が、美しい石を磨いて、首飾りを作りました。
首飾りは、素晴らしい服と合わせることによって、その人を魅力的に見せました。
だから、他の9人の仲間たちも首飾りが欲しくなり、服と同じように自分の分も作って欲しいと頼みました。
しかしその首飾りは、かなり手の込んだもので、簡単には作れません。
素晴らしい服と同じで、自由な時間だけで9人分を作るとなると、いつ作り終えられるか分かりません。
そこで10人は、服を作ってもらった時と同じように、首飾りを作ってもらう代わりに、その人の農作業も免除することにしました。
8人で農作業をすることにし、1人には服作り、もう1人には首飾り作りに専念してもらうことにしたのです。

ある時、10人で素晴らしい服に首飾りを付けていると、服を交換した隣の村人がまたやってきました。
隣の村人は、その首飾りの美しさに気付いて、自分の分も作って貰えないかと、またまた頼んできました。
10人は相談した結果、服と同じように物々交換で首飾りを作ってあげることにしました。

さて、ここでまた問題発生です。
それは、交換レートをどの位に設定するかです。
先ほどの話で、1人の農作業で年間米60kgが生産できます。
首飾りは、1人が製作にかかりっきりで年間6つ作れるとします。
つまり、作業量としては、首飾り1つと服1着、米10kgが同じになるわけです。

この条件の時に、首飾り1つを、米何kgと交換するかが問題になる訳です。
考えられるのは4パターンです。
等価交換の10kg!?
等価交換より低い5kg!?
等価交換より高く服と同じ15kg!?
等価交換より高く服より高い20kg!?

常識的に考えれば、15kg以上との交換になります。
服は交換『risk』の関係で、米15kgと交換しているからです。
そうなると、服と同じ15kgか、服より高い20kgかという2択になります。

服を等価交換しなかったのは、キャンセルに基づく危険負担という『risk』の発生を考えたからです。
ですら、同様に首飾りでも、キャンセルに基づく危険負担という『risk』を考えれば良い訳です。

服と首飾りの実用性を比べれば、当然ながら服の方が高いです。
服は着ないと寒さで凍死するでしょうし、直射日光で日焼けしてしまうことになってしまいます。
ところが、首飾りは、首から吊るしていても日除けにはなりませんし、凍死することを防ぐ力もありません。
見た目がキレイという心理効果だけです。
つまり、不要と判断されてキャンセルされてしまう『risk』は、服より高いと想定できるのです。

だから、キャンセルされてしまう確率、その『risk』の大きさで判断すれば、首飾りは服と同じではなく、服を超える量の米と交換するのが妥当と考えられるのです。
つまり、ここでは20kgとの交換が正解ということです。

このように社会では、需要が確実な商品ほど安くなり、不確実な商品ほど高くなる傾向があります。
消費者としての一般国民からの視点で考えれば、生活必需品だから価格が安く誘導されていると考えがちですが、実はそうではありません。
生活必需品は、安定した需要を生みます。
安定した需要は、生産『risk』を低減させます。
生産『risk』が低いと、新規参入がしやすくなります。
新規参入がしやすいと、競争が激しくなります。
競争が激しいと、必然的に価格が下がるという構図になるからです。

ディフェンシヴ銘柄の象徴的なセクターは、食品セクターです。
人は食べないと生きていけませんし、贅沢してもそれほど食べられないから、需要の変動幅が小さいのです。
このため、株価は安定的である反面、利益率は低くなり、成長力も乏しくなります。

一方、成長銘柄の象徴的なセクターは、ゲームでしょう。
ゲームなんて無くても生きていけますし、面白いゲームの課金は凄くなりますが、旬を過ぎると抉るように課金をしなくなります。
3765ガンホーのパズドラや2121MIXIのモンストによる株価急騰劇はちょっと経験のある投資家なら知っていると思います。
ゲーム一本ヒットするか、しないかで、業績が大きく変動するのがゲーム会社です。
このため、株価は不安定で暴騰、暴落を繰り返す反面、利益率は高く、成長力もあります。

「ゲームの会社がなんでこんなに儲かるんだ!!」と思う人が多いですが、『risk management』的には当たり前の話なのです。
ある意味、社会から全く必要とされていないものほど、高く売れるものなのです。

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