第43回 価値観の逆転現象

服と首飾りを作って他の集落の人たちと交換するようになり、村はプチ裕福になりました。
なぜなら、8人で10人分の食料を確保しているため、服と首飾りで得ている分の米が余剰となっているからです。

600kg(生産分) + 90kg(服) + 120kg(首飾り) = 810kg
810kg(収入計) - 600kg(必要分)=210kg(余剰)

彼らは、余剰分の210kgの米を、魚や肉と交換して、ゆとりある生活を送れるようになっていた訳です。

そんなある時、一人の仲間があることを思いつきました。
それは、「服と首飾りをもっと作れば、更に良い暮らしが出来るはずだと。」
そこで彼らは、2人が服、2人が首飾りを作る作業に従事し、残りの6人は出来る範囲で米を作ることにし変更しました。

すると米の取れ高は、下のようになりました。
450kg(生産分) + 180kg(服) + 240kg(首飾り) =870kg
870kg(収入計) - 600kg(必要分)=270kg(余剰)

彼らは、余剰分の270kgの米を、魚や肉と交換して、更にゆとりある生活を送るようになりました。

そして、またまた彼らは考えました。
自分たちは米作りを止めて、全員で服や首飾りを作った方が良いのではないかと!?
誰もが欲しがる服や首飾りは、作れば作るだけ交換できるのだから、米作りは止めた方が効率的になる(より良くなる)はずだと・・・・。
そこで彼らは、5人が服、5人が首飾りを作る作業に従事するように変更しました。

せっかく作った田んぼですが、農作業するより、服や首飾りを作って交換する方が、はるかに多くの米が手に入るのです。
田んぼに雑草が生え、荒れてしまっても彼らは気にしませんでした。

その結果、取れ高は下のようになりました。
450kg(服) + 600kg(首飾り) = 1050kg
1050kg(収入計) - 600kg(必要分)=450kg(余剰)

450kgの米は、肉や魚などの食べ物だけでなく多くのモノに交換され、彼らの生活をより豊かなものにしてくれました。
塩やハチミツなども手に入るようになり、食卓の幅も広がりました。

そして、またまたまた彼らは考えました。
米作りも、服作りも止め、一番価値が大きい首飾りだけを作って交換するのが一番良いのではないか!?
誰もが欲しがる首飾りは、作れば作るだけ売れるのだから、米や服作りは止めた方が更に効率性が増すはずだと・・・・。
そこで彼らは、10人全員で、首飾りを作る作業に従事するようになりました。

その結果、取れ高は下のようになりました。
1200kg(首飾り) = 1200kg
1200kg(収入計) - 600kg(必要分)=600kg(余剰)

600kgの米は、更に多くのモノに交換され、彼らの生活をより豊かなものにした。
塩やハチミツのような調味料だけでなく、他所の集落で取れる貴重な光る石なども手に入るようになりました。

しかし、平穏な生活は、長くは続きませんでした。
ある年、天候不良によって、広い地域で凶作となってしまったのです。
どの村も、自分たちが生き延びる為に必要な米を確保するだけで精一杯な状況になってしまいました。
ですから、誰に頼んでも、首飾りを米と交換してくれなくなりました。

彼らは、悩みました。
今まで相手から頼み込まれて交換していたのだから、これからも簡単に交換してくれるものと思い込んでいたのです。
つまり、元々存在していた交換して貰えないという『risk』を、交換して貰える状況が続いたことで、過小評価してしまっていたということなのです。

仕方なく、彼らは首飾りを、これまでの半分の米の量(10kg)と交換してくれと頼みました。
しかし、自らが飢えてまで着飾ろうとする人は、誰一人としていませんでした。

そこで彼らは、交換比率を更に下げました。
首飾り1つと米5kg・・・・・。
首飾り1つと米3kg・・・・・。
首飾り1つと米1kg・・・・・。

それでも、誰も交換に応じてくれませんでした。
皆、自分が生き延びる為のギリギリの量しか確保できていないことから、交換したくてもできなかった訳です。
つまり、平常時の価値観に従うことが出来なかったのです。

平常時は、米より首飾りの方が、価値が大きい。
しかし、凶作と言う緊急時は、首飾りより米の方が、価値が大きい。
このように、平常時と正反対の価値観に変化することを、緊急時、または非常時と言います。
最近は、単に災害が起これば非常時と大騒ぎする傾向がありますが、価値観が反転していない状況では、本当の意味での非常時ではありません。
単に災害に巻き込まれているだけの状況であり、それを非常時とみなせば、『risk management』上、別の大きな『risk』を呼び込むことになるからです。

直近で、価値観が反転したのは、新型コロナ感染症が流行して、世界が経済活動をストップさせたときでしょう。
この時は、効率的な運営が求められている政府が、効率性より、即時性、つまり速さを求めて政策を実施しました。
持続化給付金の支給などは、その最たるものです。
ところが、野党はここに嚙みつきました。
入札もせずに随意契約するのは何事だと!!

このことは、野党の政策能力の低さを露呈してしまいました。
つまり、経済を止めるという大災害に対して、人命救助より手続きを重んじろと文句を付けた訳です。
前に説明した『risk』が見えない人が有能に見える、というのと同じです。
多分、文句を付けた野党は、「餓死する!!」と言っても、手続きが終わるまでの2~3ヶ月はガマン出来るでしょ、と考えていたということです。

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