第40回 「損切り」する投資(8245丸栄)

今や死語となっている言葉に、「仕手」というものがあります。
仕手とは、本来は能や狂言で主人公を演じる人のことです。
これが転じて、人為的に相場を作り出して、短期間に大きな利益を得ることを目的に、株式市場で大量に売買して相場操縦を主導する人のことを言います。

この仕手ですが、現在ではSNSの普及により、完全に姿を消してしまいました。
なぜなら、相場を作ろうとすると、直ぐにSNSで情報が拡散されてしまうからです。
まだまだ多くの投資家が、情報弱者であったことから、通用したと言える存在なのです。

なぜなら、仕手筋が作る相場は明確です。
適正価格200円程度の銘柄に対して、噂を流して買い方を集め、株価を押し上げていくのです。
株価は、買い方と売り方の需給で決まります。
買いたいと思う人が多ければ多いほど、株価は騰がります。
そう思い込ませることが、仕手筋の仕事になる訳です。

当然、株価は一本調子で騰がりません。
なぜなら、投資家が警戒すれば、売り方が増えてしまうからです。
このため、適度に調整を交えつつ、株価を上昇させていき、最後には空売り筋が音を上げて損切りするタイミングで、自分たちの保有株を売り抜ける訳です。

売り抜けた後は、完全ノータッチになります。
すると、当然ながら株価は適正価格に戻って行きます。
高値を維持する理由も必要性も、何も無くなった訳ですから・・・・。
株価が上昇して有頂天となっていた投資家は、売り時が分からず、ただひたすら持ち続けるということになります。
すると、まだまだ騰がりそうと思って2,000円で買った株が、その後200円まで下がって微動だにしなくなるのです。
つまり、仕手株は騰がる動きだけを利用すれば、「low-risk =high-return」となります。
ところが、損切り出来ない人が買ってしまえば、「high-risk」と言うより、単なる「danger」になってしまいます。

さて、この仕手、最後の仕手筋と言って良いのが、「K氏」でしょう。
彼は、「兜町の風雲児」と呼ばれ、昭和、平成を股にかけて活躍しました。
ところが最後は、4406新日本理化と言う企業の売買に自らも参加し、逮捕されてその生涯を終えています。
興味のある方は、ネットでググれば直ぐに出てくると思います。
それほど有名な方です。

私は、2003年当時、「K氏」が「泰山」というグループを立ち上げたときに、参加しました。
8029ルック、1929日特建設、7995日本バルガー、1866北野建設、8245丸栄など、多くの銘柄が短期で、交代に急騰しました。
その動きに、飛び乗り、飛び降りを繰り返して、初期の財産を築き上げた訳です。
この中でも、私にとって最も印象的な銘柄が、8245丸栄でした。

平成15年前半は、「K氏」銘柄が吹き荒れた年でした。
4月4日(金)、寄り付きに成り買い10,000株の注文を入れ、始値の299円で約定しました。
「K氏」銘柄は値動きが大きいことから、指値注文にこだわると、約定せずにそのまま上昇して傍観者とされてしまう「risk」が多々ありました。
だから、買いも、売りも、基本的に成り行き注文にしていたのです。

この日の8245丸栄の動きは、常軌を逸していたことを覚えています。
買い気配から始まり、299円で寄り付いてからも、買いの勢いが全く衰えなかったのです。
買うから騰がる、騰がるから買うという言葉は、この日の8245丸栄のためにあったような言葉でした。
大引けまで買われ続け、前日比+46円の340円で、高値引けというおまけまで付いたのです。
こうなれば、翌週の4月7日(金)の展開も大いに期待できるところです。

そして、その7日(月)、運命の日です。
この日も、8245丸栄は、買い気配のまま、値付かずで時間だけが過ぎていきました。
昨日の棒上げの動きを受けて、大きな買い呼び込みながら、ドンドン気配値を切り上げていたのです。
「今日はストップ高かもしれない。そしたら、明日は成り売りしよう。最低でも450円くらいになっているだろうから、150万円以上儲かるな。」と私は一人喜んでいました。

ところが前引け後、株価を見て唖然としました。
なんと312円と表示されていたのです。
本気で二度見したのは、私の中では最初で最後の経験だと思います。
しかし、312円は現実の数字でした。

この日の8245丸栄は、買い気配で始まり380円で寄った後に400円まで一気に買われました。
ところが、そこで買いが消え、抉るように急反落したのでした。
急騰銘柄にはよくあることなのですが、まだ専業になっていない私にとっては、どうしようも無い出来事出した。
それでも、前日に299円で買っていましたから、後場成りで撤退してもプラスでした。

ところが、1日違いでこの日に成り買いしていれば、大損で目も当てられないところでした。
なんせ、380円が312円にまで急落していたのですから・・・・・。
当時は、今みたいに逆指値という素晴らしいシステムは無く、更に資金拘束があり、同じ銘柄の売買を繰り返すことはできませんでした。
場が見られずに損切りできないというのは、「high-risk」でしかないということですね。

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