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【ショートショート】記憶冷凍(391文字)

僕は何か大事なことを忘れている。
でも、それが何かは、思い出せない。

そんな状態が、もう何十年も続いていた。
始めの頃は周囲の人に「思い出した?」と何度も聞かれたから、必死で思い出そうとしていた。

でも、最近はもう聞かれることもなくなった。
きっとそんなに大事なことでもなかったのだろう。
いつしか僕はそう思うようになっていた。


忘れた記憶があることすら忘れていたある日のこと。
僕の前に、彼が現れた。

彼は、僕のことを遠くから見ているようだった。

おそらく、初対面なら気づかなかっただろう。
でも、僕は彼とは初対面ではなかった。

僕にはやはり忘れていた記憶があったのだ。
みるみる溶けて出てきた記憶は、それはそれはおぞましいものだった。

当時の僕には、受け止めきれなかったが、何十年も経って大人になった今、僕はその記憶を客観視することが出来た。

僕は男を指さして言う。

「あいつが僕の家族を皆殺しにした犯人です」



*たらはかに(田原にか)さんのこちらの企画に参加しております。

https://note.com/tarahakani/n/n6c4b88834666

「記憶冷凍」→「解離性健忘」をイメージしてしまってから脱せず、結局そんな感じで書きました。

※サムネイルはAIによるものです。

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