浅草演芸ホール下席〜成金メンバーと私小説落語〜

 浅草演芸ホールでの、笑福亭羽光さんの初主任興行2日目。
浅草演芸ホールらしいバラエティーに富んだ番組。さらに、成金メンバーが引張り、それに若手が食らいついていくという芸術協会の今後の形を表すかのような興行だった。

 冒頭、弟弟子の笑福亭希光さんが新作「レジスタンス」で会場を温める。マクラの進め方が上手くて、お客さんの層を捉えるスピードも早い方だ。爽やかな語り口で、上方落語だがそんなに押しの強さがないのもいい。
 前半は、やはり柳亭小痴楽師匠の「強情灸」が印象的だった。威勢が良く、様子のいい江戸っ子をこれほど楽しく演じられる方は、もう小痴楽師匠しかいないんじゃないだろうか。この噺から一気にお客さんが聴く態勢になっていた。その後のコント青年団さん、元ヤクザの警備員とその弟分のネタ、久しぶりに観た気がする。綺麗な展開でよく出来た話だ。しかも、舞台の使い方が上手い。やはり、二人の距離感と客層に合わせたアドリブ具合が絶妙だった。

 仲入り後
ここからの勢いがさらに凄かった。
三遊亭小笑師匠の「町内の若い衆」。小笑師匠にすごく合っている噺でテンポ感が心地よい。自由奔放でアドリブ満載のエレキコミックさんを挟み、桂伸衛門師匠の「マスクの女」。その風貌とはアンバランスな新作も良かったが、マクラの間に入って来たはとバスのお客さんを座らせるために、のらりくらりとつなげる会場整理芸の巧みさに感動した。元からいるお客さんを飽きさせず、かといって(まだ本編に入っていないので)大爆笑もさせずに静かにはとバスのお客さんに席に付いて頂く配慮がさりげなくてカッコいい。相当な実力と芸歴がないと出来ない芸当だと思う。その後、春風亭昇也さんが研ぎ澄まされた漫談をマクラに「洒落番頭」で沸かせていた。「洒落番頭」で会場が温まって、次のねづっちさんの謎掛けの反応も良く、テンポ良く進み主任に繋がっていく流れに。

 そして、主任の羽光さんの「私小説落語〜青春篇part1」
みんなの流れを受け止めて、主任らしくじっくりと聴かせていた。
途中で、会場を見渡すと特に、中高年以上の男性のお客さんが真剣に聞き入っている。みんな子供の頃を思い出しているようで楽しそうだ。映画でも、ドラマでも小説でも漫画でもない、まさに落語で語るからこそ見える世界観があるのだと思う。それを羽光さんの実体験を投影して見せていくわけだから、「私小説落語」とはすごいジャンルの落語を作ったものだ。哀愁とか切なさとか、哀しさとか、懐かしさとかを笑いとともに語ってくれる羽光さんが、一際カッコよく見えた興行だった。

「私小説落語」の今後にも期待ができそうだな。
落語の可能性と幅の広さを感じた。

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