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詩集 ミルテの棺

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本詩集「ミルテの棺」は2006年頃シューマンの歌曲に感銘を受けて著したものです。
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記事一覧

【序詩】輝かせよ

君は病める僕を導く光 今は死の床に臥してさえ止まぬラッパの鳴り騒ぎ 君は凍える僕を温める太…

酒井花織
1年前
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【詩】異郷で

雲が逃げて来るよ 雲が逃げて来るよ 風は震え声をあげる 「怖いよ」と こちらへおいで こちら…

酒井花織
1年前
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【詩】風の便り

羊の形をしたひつじ雲は うたたねをしている間にいなくなってしまいました 「雲って消えたり現…

酒井花織
1年前
13

【詩】てんとう虫

てんとう虫ってどう書くの? 天登虫って書くのかも ずうっと私の手のひらにいればいいのに 何…

酒井花織
2か月前
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【詩】雲の王国

街が壊れて 驚いたままの私 それきり何も言わなくなったあの子 二人で家を作るの 砂場で 積み…

酒井花織
1年前
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【詩】風の護り

激しい雨音が聞こえる 嵐に庭の木の枝が折れ飛ぶ カラカラとプラスチックのバケツが転がって …

酒井花織
8日前
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【詩】いばらの王子

ばらさん、ばらさん! とげがなくてはいけないの? 僕の母さまが笑うのです 「ばらにはみんなとげがある おまえの笑顔は気に食わぬ 触って怪我をすればいい 泣いたら大事にしてあげる かわいい子供はどこにも出さぬ」 僕は泣いたことがありません お城に閉じ込められるから 笑ったこともありません 母さまにばかにされるから 夢の中で出会ったばらにはとげがありませんでした かわいいお姫様みたい 摘んでやさしく口づけたけれど 目覚めるとどこにもいませんでした 「ばらにはとげがあるもの

【詩】凍傷

初めて泊まったあなたの部屋 聳え立つ夕暮れの城 けぶる大理石のバスルーム 柔らかいあなたの…

酒井花織
1年前
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【詩】青と白の庭

白妙菊の葉は不思議 真夏の雪の結晶のよう 「老いた人」という名があるそうだけど あなたの庭…

酒井花織
1年前
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【詩】炎の爪

百合の花は食卓に置いてはなりません なぜならあまりに芳しすぎて 食べ物の匂いを消してしまう…

酒井花織
1年前
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【詩】二夜の月

スラム街の一角 おんぼろな部屋は糞尿だらけ まだおしめをつけた子もいる とうに捨てられた子…

酒井花織
1年前
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【詩】すみれは夢む

あなたたちは春の訪れを歌うのが好きね そんなに春は素敵なの? それとも冬が厳しすぎるの? …

酒井花織
1年前
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【詩】ダブルデライト

薄くまぶたを開いた どこにいるのか分からなかった ただあの人が側にいて 窓から射す光か あの…

酒井花織
1年前
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【詩】ノスタルジー

(※アイヒェンドルフ「月夜」の影響の強い作品です。あらかじめご了承ください。) 「あなたの片隅に住まう星 その地の香りを分けてください」 「あなたの地表に住まう花 その光を捧げるならば」 地はすべての花々を咲かせ 月の明かりで照らしてみせた 夜空は地平に口づけた 叶わぬことなら私の夢で 風はやさしく野を吹き抜け 穂は密やかに遊び揺れ 森は静かにざわめいた 星の明るい夜だった 街人達は夜風と言った 野山の獣は鳥だと言った 私の心は翼をひろげ 見知らぬ故郷へ飛び立った ま