妖の舌
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〜 poemサイド 〜
虹の尾っぽ
引き摺りの衣
単衣に靡く時
引き潮に裾元浸し
洗うひと
遊女の息は
色もなく
海霧に溶け
寄せる波を合図に
声を掛けても
横ずっぽうは
一文字
黙りをきめた
擦れた口元を
指の腹で
拭ってやれば
ひとつにふたつの
分かれ道
覗かせる舌先
辿ってみれば
艶めくは
蛇女(じゃじょ)の
鱗
かたわれ時に
透かした
妖(あやかし)の
色
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end
by kabocya
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〜 SS (ショートストーリー) 〜
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静かな海は心地がいい。
荒れる心音に、不穏な色恋沙汰をも馴染ませてくれるから。
砂浜にかかる細波を迎えては送るを繰り返し夜も更けた頃、陸風に華やぐ白梅の香りが耳を掠めた。
香りの先には、着崩した単衣の着物を纏う遊女が遊ぶ裾に構うこともなく闇夜に溶ける海原を見据えている。
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出立ちを見るや否や、肩から出した息を皮切りに足抜けした遊女さんに海が好きかと声を掛け試しみた。
眉一つ動かすこともせず黙りを決めている姿に"そろそろ牛三つ時だ"と"海に食われちまう"そう釘を刺して顔色を覗けば、白い頸(うなじ)から薄い紅まで艶っぽいったらない。
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見惚れていたいたのも束の間、薄い紅が留まる口角に目を凝らせば、また違った紅が滲んでいた。
手前に袖口をはためかせ口元を拭ってやれば、遊女さんは気恥ずかしそうにして頬を背けようとする。
付かず離れず、そのやりとりに月は愛想をつかせて陰っていくようだった。
笑みを浮かべる遊女さんがどこか懐かしく、波にのまれた亡き母の面影を重ね愛らしさを覚える。
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陰る月が月影現象であればと泡沫の想いを馳せて波に預けていたその矢先、こぼれる笑みから顔を出す舌先を垣間見た。
淡い舌は、二股に別れうすく波をたてている。
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そろそろ牛三つ時だと砂浜に足を取られながらも後退り、ざわつく胸の冷や汗を滲ませて遊女さんの靡かせる裾の先を横目で追い辿った。
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煌めく水面(みなも)は煌めく虹色をした鱗と知り、ごくんと一つ喉が鳴る。
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冷や汗から脂汗まで滴る
静かな夜
蛇女の香りは
艶めく
妖の色。
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end
by kabocya
※作中の月影現象は"満月の夜の終わりに死者と再会できるかもしれない"という現象のことを指し示しています。
※poemは自身のX内にて投稿したものを、一部修正をかけたものです。
見つけてくださり、ありがとうございました。
失礼します。
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