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CLOSED



〜 poemサイド 〜





冬の背を送る

春の訪れ

飲み口を拭った
親指は染まる

茶托は一枚

待ち人を探し
似た香りに
想いは揺れる

薬指に結んだ
紅色の約束も

果たされぬまま

淡く解けては
薄れゆく

ささくれた胸

波打つ想いを
拭う指先
紅いは透ける

長いまばたき

馳せた恋は

紅の色





end


by kabocya

〜 SS(ショートストーリー) 〜







平日と変わらず朝六時に起きてまずは、猫のポーズ。
実家の飼い猫が行ったり来たりと記憶を横切ることもあるなかで、息の流れに脈流が続くよう部位ごとに伸ばし足裏まで意識を戻した。


ひとつ


深呼吸。


素足で受ける冬の残り香に悶えながらも、エンジン音を走らせる新聞屋さんの後押しを受けて足先をスリッパに通した。





結んだ髪を解いては結い直し、襟足で遊ぶ後毛に急かされるままにトレンチコートに袖を通した。
短いまばたきに意気込みを乗せてドアノブを捻り手前に引けば、春一番の重圧と言う名の洗礼が迎え撃つ。


胸を弾ませていた後毛でさえも春風に背筋を正されるように、靡いては流され今にも髪留めに掠めていく。
ほどける髪がしだいに乱れていくさまに、歩幅は小さく怯んでは足取を重く軋ませた。





向かい風を超えて駅までの道のりを辿れば次のルーティンまで、そう時間は掛からない。


私達の秘密基地。


商店街に並ぶ、ブリキ製の看板の矢印に沿って目指す先は"土日限定の喫茶店"。


今日からは


これからは


私だけの秘密基地。





彼と別れた冬の終わり、風通しのいいアンバランな食器棚に靴箱。
合わせた暮らしに重ねた心持ちまで、思い出が記憶に色褪せる。


珈琲の黒い香りとミルクの優しさが行き違うように、私達が生き違う様子を重ね見ていた。





マーブル色した珈琲に唇をあてれば、暖かくて薬指にできた一つの溝も喪失感も霞んでいく。
湯気の五線譜を目で追えば、アニタ・オディが音をヒップするようにレコードを駆けている。


クラシック


だけじゃないんだ。


カウンター越しのマスターに目配せをして伺ってみるものの、マスターは伏し目がちにサイフォンの具合に追われているようだった。





すかさず今日は一人だと伝えオーダーを確かめても、マスターは顔をサイフォンから背けることもなく卒なくカップにお湯を注ぎ温めていた。



カップとソーサーが音を合わせてテーブルに着く。
その流れにのるようにマスターが隣に腰を据え、自分のですと私の息とアニタ・オディの息をヒップさせた。





街ゆく人を


窓辺からみれば


見向きもしない。


ブリキ製の看板は


春の風に吹き荒れ


裏返し。





悪戯な
東風の香りは


頬を掠め


ほのかに


色付く。





end

kabocya




※こちらのpoemはXにて投稿しています。

※最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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