見出し画像

ペーパードライバー脱出奮闘記②講習編 鉄の塊をわたしが動かす

↑こちらの続きです

エンジンのかけ方も、シフトレバーのアルファベットの意味も忘れている私。(バックがRって腹が立つ。相場はBだろうよ)まずは車に乗ってみよう、というのはあまりにも危険すぎる。それくらいはわかる。
というわけでペーパードライバー講習を受けることにした。

わたしが住む横浜でペーパードライバー講習を受けられる場所は星の数ほどある。
いくつかピックアップして値段と時間を照らし合わせ、口コミを見て、どれにしようかなと考えるが…いかんせん数が多すぎる。色々調べてるうちにちょっとダルくなって、もう運転とかいいかな…という気持ちにさえなってきた。
これではいけない、まだ運転席に座ってもいないのに。軽やかに飛び込む!!と自分に言い聞かせ、吟味する。しかし見れば見るほどよくわからなくなって、正直に言うと最後は勢いで適当に決めた。(最悪すぎる)(次の日にちゃんと口コミを調べてそれなりに良さそうで安心した)

担当の方から電話が入り、どの程度運転をしていないのか、どんな場面で運転をしたいかなどをヒヤリングされる。

教習所の経験から運転教官≒鬼だと言う潜在意識があるので戦々恐々と電話に出たが、とても朗らかな男性の方で安心した。「目標に向かって頑張りましょうね」と優しい声かけ。あなたとなら頑張れるかもしれない、と思った。しかし教習所の教官も中3のときの担任もはじめは優しかったからな。油断は禁物だ。

ちなみにペーパードライバー講習は、①教習所で行うもの②教官が教習車を持ってきて一般道で行うもの の2種類に分かれる。
どちらにするか迷ったが②出張型をえらんだ。圧倒的に値段が安いことと、はじめは人や車通りが少ない場所から始めるという注意書きがあったからだ。
以前わたしが利用したのも②出張型のものだったが特に問題がなかったと言うのも大きい。

ドキドキしながら待ち合わせ場所に向かった。
そこには軽自動車に乗ったサカモトさん(仮)がいた。ちょっとキツそうなスーツを着て白い手袋をしてハンドルを握っている。年齢は4〜50代の男性。電話の声の通り優しそうな方だ。「マルチェさん、よろしくお願いします!緊張しますよね、頑張りましょうね!」と笑顔。安心する。
しかし、よく考えたら私は知らない男性と車に乗るんだな、ちょっと怖いなと思いつつ乗車。悪いのはサカモトさんではなく危険を孕んだこの社会、というかそういう状況で加害をした人たちなのだけれど。一応やや警戒しながらサカモトさんとアイドリングトークをし、近くのショッピングモールの大型駐車場の屋上に辿り着いた。平日のこの時間なら人も車も少ないので、ここで練習することが多いのだと。

運転席にわたしが入れ替わりで座り、扉を開けた状態でサカモトさんは隣に立ち、おもむろにスケッチブックを開いた。
そこには「マルチェさんの今日のスケジュール」と手書きで記されていた。
オーダーメイド!?!?と驚く気持ちを隠しながらサカモトさんの話を聞く。
よく晴れた立体駐車場の屋上で、スーツでスケッチブックを持った男性が必死でわたしのためにフリップ芸さながら講義してくれている。なんかその様があまりにもシュールでちょっと笑えてきたけど、とても真剣に話してくれているサカモトさんに失礼がないよう集中して聞いた。お買い物に来ていた人たちはどう思ったのかな…。

座席の位置やエンジンのかけ方、ウインカーやライト、ハザードの付け方などをフリップでいちから細かく説明してくれた。なにもかも忘れているわたしにとって本当にありがたい。
そして所々にサカモトさんの手描きであろうかわいいイラストが登場する。ハンドルやライト、車のキーのイラスト。車のキーのイラストの横には小さな小さな字で"カギ"と書いてある。「これちゃんとキーに見えるかな…」って不安になったのかな。お見せできないのが残念だが、あたたかみがありとても趣深い絵を描かれる方だ。

一通り講義が終わり、「早速車を動かしてみましょう」と言われる。車を!?動かす!?このわたしが!?!?と大声でツッコミたくなるけど、わたしは今日運転しに来たんだ。サカモトさんのイラストを見に来たわけではない。
サカモトさんの指示に則り確認をしながらサイドブレーキを解除し、シフトレバーを動かし、ゆっくりブレーキから足を離す。

動いてる。動いちゃってるよ。でっけえ鉄の塊が動いちゃってるよ。

「怖い怖い怖い怖い!!!!!」と声に出してしまった。サカモトさんは笑っている。笑ってる場合か。数メートル動かしたところでまたブレーキを踏み、シフトレバーをRに変えて軽くアクセルを踏み、また元の位置に戻った。(ちなみにブレーキのところには杖がついていて、それをサカモトさんが押せばいつでもブレーキをかけられるという仕組みになっている)

サカモトさんは「動かせましたね!上手にできていました!」と褒めてくれた。
まだハンドル握ってるだけなのに、すごい褒めてくれる。この教育方針はありがたい。

そのあとは立体駐車場の屋上をぐるぐると回った。
右左折するとき、どうしても小回りになってしまい焦ってしまう。
そんなわたしにサカモトさんは
「マルチェさん、もっと視野を広くしてみてください。曲がる角を見るんじゃなくて、曲がった先を広く捉えて見るんです。視点を集中させずに、道全体を見てください」と優しく言ってくれた。
なるほど!!!!わたしは今目の前にある角を曲がるためにハンドルを切ることに精一杯になっていたが、その先も捉えること。サカモトさんの一言を意識すると視野がぶわっと広がった。自分が見るべき場所はこんなに広かったのか…と目から鱗が落ちた。視野が広くなるとハンドルの塩梅もなんとなくわかってくる。えっこれわたし運転できてるかも…とちょっと調子に乗ってくる。嬉しい。嬉しくてたまらない。

そのあとも立体駐車場をひたすら走った。
「角を曲がる前には少し速度を落とし、曲がりかけるときに軽くアクセルを踏むこと」などとても具体的に言語化して教えてくれる。わたしとサカモトさんの相性はかなりいいのではないか。ちょっと楽しいかもしれない。

立体駐車場で50分ほど過ごし、だいぶ自信もついたところでサカモトさんが一言。
「では、そろそろ公道に出てみましょうか」

!!!??!?

次回、「ドキドキ公道編」をお送りする予定です!


ドライブができるようになったらかけたい曲

波乗りジョニー/桑田佳祐

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?