角田裕毅2022年振り返り 前半戦

0.はじめに

前回、2022年振り返りの記事を書こうとして結局なぜか2021年の振り返りを書いてしまったので、今回こそはしっかり本筋に沿って書けるといいなと思いましたが、書いてみるとやはり書きたいことがたくさん出てきてしまいました。というわけで角田裕毅選手の2年目振り返り、前半戦と後半戦に分かれます。まずは前半戦をご覧ください。

1.2022年はどんな位置づけのシーズンだったか

様々なアップダウンのあったルーキーシーズンを終え、1年間の経験値を持って臨む。前年からさらなる成長を見せることが求められたシーズンだった。
ご参考までに、1年目、角田選手がどのような戦いを見せたのかを先日書いた記事がありますので、良ければ合わせてご覧ください。

2.レースごとに振り返る 前半戦

第1戦 バーレーン 予選P16 決勝P8

開幕戦、新レギュレーションの車体に関してプレシーズンテストで走り込んだとは言え、まだまだ理解は浅い状態。この状況で予選前最後の走行機会であるFP3をトラブルで走れず。影響は大きく、予選はQ1敗退となります。正直、見ていた時は昨年中盤のQ1敗退が続いた時期を思い出し、「こんなはずじゃない・・・」と不安になりましたが、決勝ではスタートで混乱に乗じ4ポジションアップ、その後も安定した走りを見せ前方のマシンのリタイアもありP8でフィニッシュ。2年連続の開幕戦ポイントで2年目の飛躍を感じさせるスタートとなりました。

第2戦 サウジアラビア 予選DNS 決勝DNS

思い出したくもない(笑) 決勝を見るために深夜、仮眠から目を覚ますとスタートしてないのにレースが終わっていた・・・。
予選はウォーターシステム、決勝はPUのトラブルで1周もせず。
フリー走行のタイムの出方を見ていても(FP1:P6、FP2:P10、FP3:P10)、おそらく予選Q3、決勝ポイントは十分にあり得たかなと思いますし、昨年の角田選手の走りを考えても期待できるレースだったと思います。走らなければ何も起きないわけで、予選も決勝も走れず悔しいの一言でした。

第3戦 オーストラリア 予選P13 決勝P15

予選までは悪くなかったと思います。アルファタウリAT03と相性が良いとは言えないコースでしたが、初走行ながらガスリー選手(P11)とも近い位置の予選ポジションを獲得。決勝もオープニングラップにボッタス選手(アルファロメオ)を豪快にオーバーテイクし、上手く走れればポイントもあるか?と思いましたが、その後ペースが上がらず。

一説によると予選でコースオフした際にフロアにダメージを負っていたとのことで、その影響があったと考えないと説明が付かないくらいには不可解な決勝での失速でした。(こんなことがこれからも何度も起こるとは想定してませんでしたが・・・。)

第4戦 エミリア・ロマーニャ 予選P16 スプリントP12 決勝P7

個人的、2022年ベストレース。角田選手担当エンジニア、マッティア・スピニ氏いわく「何も言うことがない。完璧だ」。全くの同意見です。

予選は乾いていく路面のタイムアップをチームとして読み切れず、まさかの地元レースで2台ともQ1敗退の憂き目に遭いましたが、角田選手はスプリント→決勝と着実に順位を上げていきます。特に決勝では見事なレース運び。
序盤のウエットコンディションではペースが上がらない中、ポジションをしっかりキープする粘りの走り。そしてドライタイヤに交換後、最初はペースを抑え、タイヤに熱が入ると一気にペースアップ。前を走るマグヌッセン選手(ハース)、ベッテル選手(アストンマーティン)を立て続けにオーバーテイクし、終盤は中団勢トップクラスのペースで走り切ってP7フィニッシュ

昨年、予選でクラッシュし一気に自信を失ってしまったイモラ。しかしプライベートテストでは走り込んでおり本来は得意なサーキットでもありました。チームの地元でファクトリーから多くのスタッフが見に来ている中で最高の結果を残し、ゴール後の無線ではチームへの感謝も伝えました。1年間での大きな成長を見せるとともに、得意なサーキットであればこれだけのパフォーマンスを出せるのだというポテンシャルの証明にもなりました。

第5戦 マイアミ 予選P9 決勝P12

角田選手の強み、弱みがそれぞれ出たレースだったと思います。初開催のストリートサーキットということでFP1からチームとして様々なことを試し、金曜日の段階では角田選手のペースは決して好調とは言えない状況でした。しかし土曜日FP3から調子を上げ、予選ではセッティングを思い切って変更したことも功を奏し今季初のQ3進出を果たします。このような、週末を通してマシンを仕上げていくビルドアップは昨年には無かった強みであり、角田選手が今年大きく伸びた点と言えます。

一方で決勝ではまたしても不可解な失速が起きます。後にブレーキトラブルがあったと角田選手が明かしましたが、トラブルが改善したと思われる終盤には十分戦えるペースで走れていただけに勿体ないレースでした。ただトラブルがあり快適に走れない状況で、角田選手自身も無線で冷静さを欠いていた部分も感じられました。もちろんドライバーがどのように感じ、対処していたのか外からでは分からないため、どれだけ難しい状況であったか推し量ることは難しいですが、「悪いなりになんとかする」というところはまだ伸びしろがあると(一ファンが生意気ながら)感じた一戦でもありました。

第6戦 スペイン 予選P13 決勝P10

出てきた課題をすぐにクリアする。角田選手の高い適応力がまたしても示されたレースでした。本格的なヨーロッパラウンド開幕ということで多くのライバルチームがアップデートを投入してくる中、イモラで先行してアップデートを入れていたアルファタウリは特にマシンに変更を加えず臨みました。この状況から想定された通り週末を通して決して好調なペースとは言えず、FP3時点ではQ1敗退もありえるか・・?と思うレベルでした。

しかし予選では何とかパフォーマンスを引き出し角田選手はP13。決勝では前戦で特に序盤のペースに苦しんだこともあり心配もありましたが、今回はしっかりと中団で戦えるペースを見せ、第一スティント終盤にはリカルド選手(マクラーレン)をオーバーテイクします。その後はアロンソ選手(アルピーヌ)に先行を許すも、最終スティントでシューマッハ選手(ハース)をパスしP10でフィニッシュ。今シーズン3度目の入賞となりました。マシンが決して好調とは言えなかった週末に、粘り強く戦い抜きチームに貴重なポイントをもたらしたことは、前戦で出た「悪いなりになんとかする」という課題に対しての早速の回答でした。この改善の速さがジュニアカテゴリ時代からの角田選手のストロングポイントであると感じます。

第7戦 モナコ 予選P11 決勝P17

難しい週末でした。ストリートサーキットとAT03の相性はよく、特にこのコースを得意とするガスリー選手は中団トップの速さを持っていたと思います。ただ予選では角田選手のウォールヒットによる赤旗後、チームがアタックに送り出すタイミングが悪くガスリー選手はまさかのQ1敗退。角田選手も良いアタックを見せますがP11で惜しくもQ2敗退。ガスリー選手の結果に関して角田選手の責任は一切ないと個人的に思いますが、角田選手としては少し気にしていたようでした。日曜日にはその悪い流れが続いてしまったのかもしれません。

決勝はウエットでのスタート。下位グリッドで失うものの無かったガスリー選手は思い切って早々にインターミディエイトへ交換。これが功を奏し順位を上げますが、それを見てアルファタウリは角田選手のタイヤも交換。するとポイント圏内のすぐ近くを走っていた角田選手は他車がウエットでステイアウトしたことで大きく順位を落としてしまいます。角田選手もこれで気落ちしてしまったのか、終盤はターン1で2度飛び出すなど集中力を欠いたレースになってしまい、良いところなく終わってしまいました。

第8戦 アゼルバイジャン 予選P8 決勝P13

思い出したくもないPart2(笑) 前戦モナコに続き、AT03と相性の良いストリートサーキットで初日から好調。予選ではマイアミに続く2台Q3進出で角田選手も今期ベストのP8を獲得しました。

決勝も良いペースで周回を重ね、アルファタウリはP5,P6で大量ポイント獲得のチャンスが目の前に来ていましたが、なんと角田選手のリアウイングが破損、ブラック&オレンジフラッグを提示されピットで修復、P13でのフィニッシュとなりました。後から振り返ると、ここで逃した8ポイント(P6)はあまりにも大きすぎた。単純なランキング争いへの影響はもちろん、このあとのシーズンの流れにも影響が出てしまいました。

第9戦 カナダ 予選P20 決勝DNF

初走行のモントリオール。PU交換のため予選は最初にタイムを出してすぐ終了、最後尾からスタートします。決勝は非常にペースが良く、VSCのタイミングを生かしてピットインしたことで最後尾からポイント争いまで上がります。

しかしストロール選手(アストンマーティン)、周選手(アルファロメオ)のトレインに引っ掛かり、次第にタイヤを消耗させてしまいます。2ストップ作戦ならば早めにピットに入りアンダーカットで前に出ることを狙うのかと思いましたが、トレインの中で長めにステイアウトしタイムを失ってしまいました。そしてようやく2回目のピットに入った直後、ピットレーン出口でブレーキを遅らせすぎウォールに直進、リタイアとなってしまいました。

このとき、無線で「ピット出口でガスリーとバトルになるよ」と伝えられ、前に出ようと焦ってしまったことがクラッシュに繋がったように思います。シーズン中盤、このあたりで焦りが見えるようになってきていました。

第10戦 イギリス 予選P13 決勝P14

予選はウエットコンディションの中P13。アルファタウリには合っていない特性のコースですが、雨に助けられ悪くないグリッドを獲得できました。
チームメイトのガスリー選手(予選P11)は雨寄りのセット、角田選手は晴れ寄りのセットということで、ドライコンディションでは角田選手が有利になりそうな状況でした。

そんな中で迎えた決勝、オープニングラップで起きた大クラッシュの混乱を抜けたアルファタウリ勢はなんとP7とP8につける絶好のチャンスが到来。苦手と思われたコースでポイント獲得できれば非常に価値のある結果となる…はずでした。

しかしこの日も上手くいかず。ペースの上がらないガスリー選手に対し角田選手が後方に迫り、前に出ようとします。チームオーダーを出さないアルファタウリは自由にバトルをさせますが、激しく順位を争った末にターン3で強引にインに飛び込んだ角田選手とガスリー選手が接触。最悪の形で2人のレースを失ってしまいました。

チームとして最善の結果を求めるなら順位をキープするなり、入れ替えるなりオーダーを出すべきだったでしょう。ただチームが自由にバトルさせるなら、角田選手は安全に追い抜きをするべきでしたし、ガスリー選手も必要以上に粘る意味はなかったように感じます。接触の場面は角田選手に責がありますが、全体として最大の利益を追求することができていなかったと感じました。

第11戦 オーストリア 予選P14 スプリントP16 決勝P16

前戦に続きアルファタウリの車には合わないサーキット。それでも予選パフォーマンスは悪くなく、Q3争いに絡めそうなスピードがありました。しかし角田選手のQ2ラストアタックの直前、順番待ちをしていた角田選手をガスリー選手が追い越し。余計に長く待たされた角田選手はタイヤが冷えてしまいターン1でコースオフ。タイム更新できずP14で終わりました。実はアウトラップでの追い越しはマイアミに続き2回目であり、チームのコントロールには少し疑問が残りました。ガスリー選手としてはイギリスでの接触に対する行動の意味もあったかもしれません(あくまで私の想像です)。

その後、スプリント・決勝ともにアルファタウリはレースペースがなく大苦戦。角田選手はミスなく我慢強く走り続けましたがペースが圧倒的に不足、ポイント争いにはとても絡める状況ではなくレースを終えました。

第12戦 フランス 予選P8 決勝DNF

ここまで苦戦の続いたアルファタウリでしたが、このレースでついに待望のアップデートを投入。フロアの改良により慢性的なダウンフォース不足へ対処しました。特にこの効果が大きかったのは角田選手。予選でアゼルバイジャン以来のQ3進出、P8を獲得します。アルファタウリとは相性が良くなさそうだったダウンフォースの必要な高速コーナーがあるサーキットで、このパフォーマンスは非常に期待を持たせるものでした。

しかし決勝は早々に終わりを迎えてしまいます・・・。オープニングラップ、一つ順位を落とした角田選手はターン8でオコン選手(アルピーヌ)にイン側から接触されてしまいスピン、大きくダメージを負います。なんとか順位を取り戻そうと走り続けますが、周回を重ねるごとにダメージは広がり、タイムも遅れていったためやむを得ずリタイアすることとなりました。
接触の場面、角田選手はイン側を閉じて入られないようにすることもできたと思いますが、インタビューでは「(インに寄ると)その後のターン9で不利になるためアウトから行った」と話していました。

あくまで個人的な感想なのですが、もしかすると好調なときの角田選手ならばターン9で不利になろうとも、後から前に出れば良いという考えでターン8はインを防ぎに行ったのではないかと思いました。ここ数戦の流れの悪さから、少し自信を失っていたのがこの場面に出たのかな、とも感じました。(実際どうだったかは分かりません。素人の戯言と思ってください)

接触の責はオコン選手にあり、彼には5秒ペナルティが出ましたが、それでも角田選手のレースが返ってくるわけではなく、数少ないポイントのチャンスを序盤で失ってしまい非常に悔しいレースでした。

第13戦 ハンガリー 予選P16 決勝P19

何も語ることのない週末・・・。金曜日FP1の段階から角田選手はしきりに「グリップがない!」と訴えていました。新品タイヤを履いて十分なグリップがあるはずの状況でもマシンは至る所でスライドしてしまい、まともに走れない状態でした。オンボードを見ても、とにかくマシンをコースにとどめておくのが精一杯で、ドライなのにまるでウエット路面を走っているかのように見えました。

こんな状態ではまともに戦えるはずもなく、予選はQ1敗退、決勝も完走した中では最下位のP19で終わってしまいました。前戦の接触のダメージが修復しきれていなかったのか、それとも他に要因があったのか詳細は不明ですが、全体を通して非常に苦しい週末でした。

3.前半戦を振り返って

短い間に色々なアップダウンがありました・・・。開幕当初はいいパフォーマンスを発揮できていたように思います。角田選手も6レースで3回の入賞を果たし、一時はガスリー選手をポイントで上回り、順調な2年目の蹴り出しだったと言えます。

しかしバクーでのトラブル以降、流れが悪くなってしまったのは明白でした。また、モナコでレッドブルのペレス選手が契約延長を発表、それに端を発しガスリー選手の移籍の噂が流れました。それを受けカナダの後にアルファタウリはガスリー選手の来季残留を発表しました。一方で角田選手は来季の契約がこの時点で決まっておらず、このことも焦りを生む要因だったかもしれません。(山本雅史さんのインタビューでも角田選手本人にその焦りがあったであろうということを触れていました)
【F1インタビュー】同士討ちを喫し、レッドブルの優勝争いを妨げた角田は「今までで一番へこんでいた」と山本雅史氏 | F1 | autosport web (as-web.jp)

車体のアップデートが遅れたことやトラブル、アクシデントによる影響もありスペイン以降はポイントが取れずにサマーブレイクを迎えることになりました。角田選手自身もカナダ、イギリスではミスをしてしまいました。この2戦に共通しているのがガスリー選手とのバトルを意識しすぎてしまった点で、DAZNのインタビューではその点を本人も触れていました。
今シーズンは開幕からガスリー選手と近い位置を走ることが多く、昨年にはあまりなかったケースであり角田選手がパフォーマンスを向上させたが故に生まれた新しい課題であったと言えるかもしれません。

終盤の流れがあまり良くなかったため、難しい前半戦だったという印象になりがちですが、総じて言うと角田選手自身は昨年と比較し大きくパフォーマンスを向上させたこともよく分かる前半戦でした。バーレーン、イモラ、スペインでの入賞もそうですし、フランスでアップデート投入直後にQ3進出を果たして改良の効果をはっきりと証明して見せたのはチームに対してもプラスの印象をもたらしたのではないかと感じました。一方マイアミやモナコでフラストレーションの溜まる状況になったとき集中力を欠く場面はあったため、後半戦に向けた課題として残ったかもしれません。このあたりがシーズン終盤に向けてどうなっていったのか、続きは後半戦振り返りで見てみましょう。


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