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木曽駒ヶ岳 伊勢滝ルート(うどんや峠・うどん坂)

この記事は2023年8月10日〜12日の山行をレポしたものです。木曽駒ヶ岳へ行こうとしている人にとって参考になれば幸いです。


計画

今回の休みは連休に重なるので山行は控えようと思っていたが、予報ではよく晴れそうだったので木曽駒ヶ岳へ行くことにした。 かなりの混雑が予想されたので一般的なルートは避けて、今は廃道扱いになっている伊勢滝ルートで登り、下りはうどんや峠まで降りて、そこからうどん坂で伊勢滝ルートへ復帰する計画とした。このコースだとうどん坂の下で沢(黒川)の渡渉がある。沢が増水していると渡渉は困難なので、登るときに立ち寄って渡渉が可能どうかを確認し、ムリと判断したなら下りはうどんや峠のルートではなく、往路と同じルートをピストンすることにした。

往路の伊勢滝ルートについてはネット上にも情報があまりなく、行ってみないと分からない状況だったので、途中ムリなら引き返すつもりで出かけた。また、うどんや峠から降りるうどん坂については情報はまったくなく、「かつては使われていた」ということしか分からなかった。ただ、うどんや峠から渡渉点までは直線距離で 400 メートルほどなので、最悪でもロープがあれば降りられると見込み、12mの8mm ロープ 2 本とハーネス、カラビナ、テープ、下降用デバイスを用意した。

前乗り〜伊勢滝避難小屋泊


伊勢滝ルートの登山口へは、駒ヶ根バスターミナルから黒川沿いに15kmほど歩くか(一般車通行止め)、宮田村キャンプ場まで車で上り、そこから20分ほど歩くかの二択になる。舗装路を15km歩くのは避け、短くて済む宮田村キャンプ場まで車で行くことにした。
宮田村キャンプ場までは国道から舗装された林道を15kmほど車で上がる。暗くなる前に前泊予定の避難小屋に着くように出かけ、駐車場に着いたのは16時半過ぎ。この時点でキャンプ場にあった車は1台のみだった。
宮田村のキャンプ場を17時前に出て、ほぼ平坦な道を歩く。途中山側から谷側へ大きく崩れている箇所があり、足元も脆くなっているので慎重に通過する。出発してから15分ほどで駒ヶ根方面からの林道と合流、この地点が一応の登山口となる。ここから沢沿いの林道を進む。途中、山側の岩が大きく崩れ落ちて道を塞いでいたり、倒木や流木と土砂が道を覆っていたり、路肩が欠け落ちて道幅が20センチくらいになっていたりするところがあるが、これらは通り抜けできないほどではなく、それ以外は歩きやすい。

宮田村キャンプ場からの取付道路
崩落に伴う落石(登山道)


落石や倒木による通行支障箇所

登山口から小一時間のところにログハウス風の避難小屋(伊勢滝避難小屋)がある。小屋の前はちょっとした広場になっていて、テントも張れる。すぐ近くに沢があって、流れる音が聞こえる。

伊勢滝避難小屋

中に入ると30㎡ほどの板の間になっており、薪ストーブもある。内部はとてもキレイに管理されている。たたきで靴を脱ぎ、置いてあったスリッパに履き替え、荷物を広げる。
備え付けのノートを見ると利用者は少なく(というか月に数人?)、今日も誰もいない。汗で濡れたシャツを干してから、夕食の準備にかかる。

詰めれば15人ほど泊まれる
洗濯紐が張ってあったので使わせてもらう

この避難小屋は、駐車場(宮田村キャンプ場)から1時間ほど。小屋から稜線上がるまでは3〜4時間なので、木曽駒ヶ岳に登る時に前泊するにはちょうどいいロケーションと言える。何より夏休みのこの連休中にもかかわらず人がいないことがありがたい。
この日の夜は雲ひとつなく、満天の星それに天の川を見ることができた。

往路:伊勢滝避難小屋から木曽駒ヶ岳へ


翌朝5時に小屋を出て、沢沿いの道を登る。廃道とは言っても踏み跡はわりとしっかりしている。勾配が比較的緩めであること、それに大きな岩が少なく自分の歩幅で進めることで、とても歩きやすい。途中、道が崩れている所がいくつかあるが、特に問題となるような箇所はない。

ところどころピンクテープ
6合目あたりまでは樹林帯

1時間ほど歩くと勾配が少しずつきつくなってくる。それでも、そこまでのルートが歩きやすかったせいもあってあまり苦にならない。ピンクテープや道標もあり、迷うことはない。

6合目を少し過ぎたあたり

6合目を過ぎてしばらくすると木々の間から稜線が見えるようになる。

岩清水は7合目とあるが、手前10分くらいの地点にも7合目の看板があった。

7合目には「岩清水」という水場がある。このあたりにはいくつか小さな水の流れがあり、手に取るととても冷たく、口に含むととてもおいしい。

7合目過ぎたあたりから見上げる稜線

正面左には、伊那前岳から乗越浄土への稜線が見える。このあたりは標高が 2,500mほどで稜 線は 2,800m~2,900mなので、あと300m〜400mの標高差を登ることになる。

8合目あたりから南側を見る

樹林帯を抜け振り返ると空には雲ひとつなく、遠くに南アルプスや八ヶ岳の稜線がよく 見える。手前の左は辻山から将棊頭山へ続く稜線、下に見える沢は黒川の源流。下の街並みは宮田村。

黒川の源流部

8 時過ぎに駒飼ノ池に着く。ここからは天狗荘がよく見え、稜線の近いことが分かる。抜けるような青空で、乾いた風が心地よい。
カール部分に人はいないが、稜線上には登山者が確認できる。ちょうど始発のロープウェイを降りて乗越浄土に人が着き始める時間。夏休み中の連休なので稜線やテント場は賑わうことが予想された。

駒飼ノ池あたりから稜線を見上げる。
駒飼ノ池から見る中岳

8時半過ぎに乗越浄土に着く。宝剣山荘前は多くの人で賑わっている。千畳敷カールの方を見ると次々に人が登ってきている。夏休みということもあってか家族連れも多い。

乗越浄土

駒ヶ根側から木曽駒ヶ岳・宝剣岳へ登る人の多くはロープウェイを使う。北御所から伊那前岳を経て登ってくる人、桂小場あるいは伊那のスキー場から将棊頭山へ登り稜線を来る人も一定数いる。伊勢滝ルートで登ってくる人は極めて少ない。

今回伊勢滝ルートを使ってみて思うのは、(テント泊でも小屋泊でも)上で 1 泊するのであれば、このルートはとても有効だし魅力的であるということ。ロープウェイは簡単に 2,600メートルまで上がれてしまう手軽さはある。日帰りで時間に追われるならロープウェイの利用もいいが、一歩一歩進んでいって稜線に近づいていくのを感じたいのであるなら、このルートを選択肢の最優先にしてもいいだろうと思う。なによりこのルートは人が少ない。少ないと言うかほとんどいない。ただし、今回起点にした宮田村キャンプ場へは公共交通機関の運行がないので自家用車が前提となる。

復路:伊那前岳からうどんや峠・うどん坂へ


復路は、宝剣山荘から伊那前岳を経てうどんや峠へ向かうルートを選択。このルートはそのまま下れば北御所登山口へ至る。(北御所登山口は駒ヶ根バスターミナルとロープウェイ駅の中間にある。)
テント場を5時半過ぎに出て中岳を巻き、宝剣山荘へ出て乗越浄土から伊那前岳に向かう。

テント場はほぼいっぱいだった。
中岳の巻き道分岐あたりから宝剣岳を見る。

今日もよく晴れていて、遠くに富士山も見える。乗越浄土から伊那前岳までは15分ほどの緩い登り。稜線を歩くルートなので360度の展望がある。北側は将棊頭山への稜線、南側には空木岳・南駒ヶ岳へ続く稜線が見える。遠くには南アルプス、北アルプスの眺望がある。

手前右に将棊頭山。奥には北アルプスの稜線
空木岳・南駒ヶ岳へ続く稜線

6時過ぎに伊那前岳を過ぎる。徐々に両脇のハイマツの背が高くなってくる。登山道はやがて稜線を外れて降り始め、それからくらいで樹林帯に入って樹木が展望を遮るようになる。樹林帯は風が来ないこともあり暑く、汗が出てくる。

伊那前岳を過ぎたあたりの稜線ルート

稜線を外れて下り始め1時間ほどでうどんや峠に着く。うどんや峠の名前の由来はかつてこのあたりにあった落書きらしい。うどん屋があるわけでもなく、あったわけでもない。
ルートは清水平(北御所登山口方面)へ続いており、伊勢滝方面へは緑色のロープが張られている。

うどんや峠にうどん屋はない。
「伊勢滝へ」の道標の向こうに緑のロープ

うどんや峠から伊勢滝に抜ける「うどん坂」は今は使われない。緑のロープは進入規制の意味だろうが、「伊勢滝宮田方面」を示す道標は残されたままになっている。

「伊勢滝宮田村」の道標

うどん坂を伊勢滝方面へ下り始める。時計は7時30分。しばらくは踏み跡が何となく残っていて、そのまま簡単に渡渉点まで降りられるように思えた。

一応の踏み跡はある
このあたりまではなんとなくルートが分かったが…。

途中、朽ち果てた木のハシゴもあってルートは間違っていないことが確認できる。

いつごろ作られたものだろうか

ところが半分ほど降りたあたりから、倒木や流木、崩れた跡が出てきて、踏み跡があやしくなる。

倒木や流木が増えてくる
もうルートは見つからない
踏み跡はなくなり土石流の跡になっている

ルートを探しながら進むと土石流で斜面がえぐられている。斜面の角度がきつく、これをそのまま歩いて越えるのは少し難しく危険に思えた。しばらくルートを探して回ったが、見つからない。あちこちに倒木・流木があり、何本もの小さな土石流跡がある。土石流跡の足元は非常に脆く、踏ん張りが利かない。

踏み跡らしい部分があってもその先はストンと落ちている
どちらへ進んでもこんな感じ

ちなみに、うどん坂は、標高差が約220mで、直線距離は約350m。直線的に上り下りするなら、角度は32度くらいのかなりの急斜面になる。この角度では一度落ち始めると止まることができない。

倒木や流木が多い

ルートを探して歩いて降りるか、ロープを使って土石流跡を降りるかを考え、後者を選択した。これは、渡渉点の沢の音が聞こえており、降りようとしているところまでの距離があまりないと思われ、周囲の斜面の荒れ具合からルートは見つからない可能性が高いと判断したことによる。
ロープは1本12mを2本継いで、しっかりとした木を支点とした。3回繰り返して、斜度が落ち着いてきたところでロープは収納。その先は木を掴みながら歩いて降りることにした。

丈夫そうな木を支点にして降下する。
このあたりでロープは収納

降りていくにつれ沢の流れる音は次第に大きく聞こえるようになり、やがて沢が見えるようになった。

この小さな沢(土石流跡)を降りた。
黒川渡渉点より50~60メートル下に着く

8時を少し回ったころ、沢に着いた。黒川渡渉点よりも少し下流部分。岸を少し登って渡渉できる箇所を探す。水量は多くないので、最悪、膝まで濡れて渡ればいいが、できたら濡れずに渡りたい。50mくらい上流に行ったところで跳んで渡れそうな石の並びを見つけ、反対側の岸へ移動して、すぐに昨日通った伊勢滝ルートへ戻ることができた。
あとは伊勢滝避難小屋に立ち寄り、昨日置いていったゴミを回収するだけ。

うどん坂側の岸から沢の上流を見る。
右の大きな岩から左の岩へ跳んで沢を渡った

うどん坂は、下(黒川渡渉点)から登るのは、ルートが荒れており(見つけることはできないと思う。)かなり難しいと思われる。直登するには傾斜がきつすぎる。うどん坂を通る周回ルートを取るなら、今回のように伊勢滝ルートから反時計回りとして、うどん坂は下りに使うのがいい。その場合、ロープがないと苦労するし危険だが、ロープを使って直線的に降りるなら、安全で、かつ、時間も短縮できる。下降と言っても垂直の壁を降りるわけではないから、ロープに不慣れなら熟練者にビレイしてもらうことで楽しく速く降りられると思われる。

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