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【運命なんかに、負けるな】『精霊の守り人』上橋菜穂子/著(偕成社/新潮社)

運命に翻弄されないように、しかと立って、歩いて、未来を掴み取れ。
日本で生まれた王道ファンタジー。


おすすめ度・読者対象

おすすめ度:★★★★★
読みやすさ:★★★★★

・小学6年生・中学生〜どの年代も
・ファンタジーを読みたいが、想像しにくく躊躇している人(日本人作家ということもあり、日本文化が馴染みやすい)

もちろんファンタジーにもいろいろある。正統派なら、いつの時代ともどこの土地とも知れない世界を扱う。
上橋さんの作品もそうである。
その世界の地図があって、さまざまな約束事がある。
読者はそれに慣れなければならない。
それに慣れると、次が読みたくなる。せっかく変な世界に慣れたのに、話が一つでは、異世界の約束事に慣れた甲斐がないではないか。
だから正統派のファンタジーは長い。

『夢の守り人』上橋菜穂子/著(新潮社) 解説より

あらすじ

短鎗遣いの女バルサは、川に流れてきた第2皇子チャグムを助けた。彼はなんと、異世界の精霊が卵を宿しており、何者かから命が狙われている。
チャグムの母に、チャグムを連れて逃げるように頼まれ、バルサは彼と異世界に詳しい呪術師のタンダ・その師匠トロガイに助けを求めるため、旅を始めるのだった。

好きなポイントと注意点

まず、書籍媒体を選ぶこと。
読書感想文で読もうとしているなら、必ず単行本で読むこと。

単行本と文庫本では、上橋さんがわざと文体を変えている。
単行本は児童書として、挿絵も多く、漢字表記も抑えられている。読みやすい構成をしている。
文庫本は漢字が多く、挿絵は一切ない。しかし、あとがきが豊富で、読む前にはネタバレになるのでやめたほうがいいが、読了後の気持ちをさらに高めてくれるだろう。

ファンタジーを読むコツは、想像しにくいものでない限り映像などを見ないことだ。
(もし映像を見た方がいい作品であれば、そう紹介する)
この作品は漫画も映画もあるが、内容に変更がある部分が多々あるので、必ず小説から読んでほしい。
この作品は表現が豊かで、想像が容易い。
それに、固定観念がつかない方が、自分らしく楽しめる。

好きなポイントは、主人公達の暮らしが豊かに描かれていること。
情景の描写が鮮やかで、まるでその世界がそこにあるかのような存在感がある。
ファンタジーが苦手な人にも、和風ファンタジーではない普通のファンタジーとして大変お勧めできる作品だ。

「守人シリーズ」の1作目である本作は、他作品に比べ、より子供目線で描かれ、読書感想文を書く世代にはうってつけだ。

主人公は、なぜ自分が卵を宿してしまったのか、やり場のない憤りに苦悩している。
時折意識も異世界へ引きづりこまれ、度々命を危うくする羽目になる。
その度に、バルサは彼を守り、そして運命に嘆く彼を励ます。

バルサは主人公の母代わりではない。けれども護衛とも言い難い。
しかし運命に共に立ち向かってくれる仲間であり、家族になる。

バルサはとにかく格好いい。その槍捌きは(目にしているわけではないが)目に見えるようで、そして主人公に向けられるまっすぐな問いかけは、そのまま読者へ響く。

最後には別れが待っているが、思わず読み手も涙を浮かべてしまうほど、この作品にのめり込める。
迫力のあるファンタジー小説だ。絶対に楽しめる。

余談

日本のファンタジーといえば、上橋さんの右に出る人はいない。(今のところ)
最近では『鹿の王』『香君』が発売されて日が経つが、それらよりも文量・文体共に、比較的子ども向けに作られている。

守人シリーズは結構長い(全10冊+外伝)が、1冊目だけでも十分楽しめる作品だ。その区切りの良さはハリーポッターに似ているかもしれない。
もちろん、面白ければ、シリーズなので、ぜひ続きを読んでほしい。

私はこの作品は昨年の夏の特集で手に取ったのだが、寝食を忘れてしまい、伴侶に怒られた始末だ。
ちなみにそのまま全巻購入してしまったのは言うまでもない。

そして、あまりに集中して読んでしまったので、引用のメモをすることを失念してしまった。すみません。
それだけ面白かったということで、どうか許してほしい。

上橋さんのファンタジーは、日本人作家のなかでは一番引き込まれると言ってもいい。
なぜこんなに違和感なく読めるのか?
食べ物の名称も何もかも違うのに、味が伝わってくる。不思議な感覚である。

そう、上橋さんのファンタジーの私のイチオシは、とにかく食べ物が美味しそうなのである。
それはハイジのたべる山羊のチーズをのせたパン、ラピュタのパズーが出してくれるハムエッグトースト…その他諸々にも負けない。

これにハマって他にも読んでみようと思ったら、よければ次は「獣の奏者」を読んでみてはいかがだろうか。
私の高校生活の一部を不眠症にした作品である。
またどこかの機会に紹介したい。

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