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教養を身につけるには「本」「人」「旅」の3要素が必要?『人生を面白くする 本物の教養』

出口治明さんの『人生を面白くする 本物の教養』を読みました。

ライフネット生命保険株式会社の創業者である出口さんの本を読むのは、これが2冊目。幼い頃から活字中毒だったという筆者の「読書論」を紐解いた『本の「使い方」』に対して、本書のテーマは幅広い意味での「教養」。非常に幅広いトピックを取り上げており、多方面で刺激を得られる1冊でした。

「教養」とは?

日常的にもしばしば聞く言葉ではありますが、そもそも「教養」とはなんだろう。試しにいくつかの辞書・サイトで調べてみたところ、次のような説明がされていました。

個人の人格や学習に結びついた知識や行い

教養 - Wikipediaより

㋐ 学問、幅広い知識、精神の修養などを通して得られる創造的活力や心の豊かさ、物事に対する理解力。また、その手段としての学問・芸術・宗教などの精神活動。

㋑ 社会生活を営む上で必要な文化に関する広い知識。「高い―のある人」「―が深い」「―を積む」「一般―」

きょうよう【教養】の意味 - goo国語辞書より

学問、知識などによって養われた品位

精選版 日本国語大辞典(アプリ)より

細かなニュアンスは異なるものの、「社会で生きるにあたって必要不可欠な知識や振る舞いを指すもの」だと言えそう。本筋とはまったく関係ないのだけれど、自分がこの言葉を初めて知ったのは『ルドルフとイッパイアッテナ』だった気がしますね……。

では、辞書で説明されているこれらの定義に対して、本書で示されている「教養」はどのようなものなのか。筆者曰く、それは「人生におけるワクワクすること、面白いことや、楽しいことを増やすためのツール」。教養の本質は「自分の頭で考える」ことにあるのだそうです。

辞書で示されている定義を言い換えただけのようにも読めますが、ポイントは「ツール」という表現にあるように感じた。教養とは、つまらない物事をおもしろくするモノの見方であり、人生の楽しみを増やすための道具。なくても困りはしないものの、身につけることで己の視野を広げ、選択肢を増やし、人生の幅を広げてくれる便利スキル。それが「教養」である、と。

と同時に、もうひとつの「自分の頭で考える」という視点も忘れてはいけない。ただ知識を身につけるだけでなく、他人の話を鵜呑みにするでもなく、自分の頭で考え、自分の言葉で意見を表明できること。そんな人のことを、「教養人」と呼ぶのではないかしら。

とくに最近は安直に「答え」をほしがる傾向があり、それに応じてきれいに整えられた「答え」や、一見「答え」のように見える情報が、ネット空間などにはあふれています。ランキング情報やベストセラー情報などは、その最たる例です。あるいは情報がコンパクトにまとめられたテレビ番組もたくさんあります。多くの人が、まるでコンビニへ買い物にでも行くかのように「答え」の情報に群がり、分かった気になっています。

(出口治明著『人生を面白くする 本物の教養』より)

僕らが日常的に目にしている「答え」の情報は、良くも悪くもわかりやすい。けれど、「わかりやすいから」といって、無思考に受け入れて納得してしまうのは考えもの。

ある事物に対して、他の誰かから言われるまでもなく「おもしろい」と感じられる視点を持てるかどうか、あるいは、「おかしい」「違和感がある」と感じて、その是非や妥当性を考えられるかどうか。肯定的に受け止めるにしても、否定的に捉えるにしても、「教養」がなければ難しい。

そこで、「教養」を身につけるための手助けをしてくれるのが本書である、というわけです。

筆者の教養を培ってきた「本・人・旅」の存在

では、具体的にはどういったことを心がけ、何をすれば「教養」を培うことができるのか。

筆者自身に関して言えば、「本・人・旅」の存在が教養を培うのに役立ってくれたのだそう。本書では特にこの3つの要素に重点を置いて、4〜6章にかけて解説しています。

私にいくばくか教養のようなものがあるとすれば、それを培ってくれたのは、「本・人・旅」の三つです。私はこれまでの人生で、「本・人・旅」から多くのことを学んできました。あえて割合を示せば、本から五〇%、人から二五%、そして旅から二五%ぐらいを学んできたといったところでしょうか。

(出口治明著『人生を面白くする 本物の教養』より)

4章「本を読む」で書かれているのは、「速読は百害あって一利なし」「古典は無条件で優れている」といった、筆者の読書論。これは冒頭にも挙げた『本の「使い方」』のエッセンシャル版とも言える内容なので、既読の人にとっては繰り返しの内容になるかも。

5章「人に会う」は、「相手を人脈としか考えない人は、自分もそう見られている」「必要のないおつき合いは極力省く」など、他者との付き合い方について持論をまとめた内容。ビジネスシーンでの人間関係にモヤモヤを抱えている人は、ここで学べるものもあるかもしれない。

6章「旅に出る」で話題になっているのは、「『きれいな女性』に会いたくて海外へ」「中国の書店で毛沢東の本は埃を被っていた」といった、筆者の流儀と旅先でのエピソード。バックパッカーのありがちな旅日記とは異なり、筆者ならではの「旅」の楽しみ方を知ることのできる章となっている。

元も子もない言い方をしてしまえば、これらはすべて筆者の「自分語り」であり、結果論に過ぎないという見方もできます。何百冊と本を読んでも教養を感じられない人は普通にいるし、旅を実りあるものにできるかどうかはその人次第の運次第。誰しもに当てはまるものではありません。

とはいえ、「実際にこのようにしてきた」という体験談は、それを参考にして取り入れることもできる。それもまた間違いありません。

たとえば、これまでに本を読む習慣のなかった人が、筆者の読み方を真似することで、読書に目覚めることもあるかもしれない。人付き合いに思い悩んでいた人は、シンプルな考え方を読んで気が楽になるかもしれない――。そのような処方箋として、本書が役立つ人もいるのではないかしら。

そもそも冒頭からして、本書は以下のような前書きから始まります。

この本で述べていることは、すべて私が身をもって体得した原理原則です。ですから、誰にでも当てはまるものではないと思います。「あなたも絶対こうしてください」と言っているわけではありません。あくまで「私の場合、こうしたらとても具合がよかったのでその方法を述べますが、採用するかどうかはあなた自身でよく考えて決めてください」というのが本書のスタンスです。価値観の押し付けほど、私が嫌いなものはほかにありません。

(出口治明著『人生を面白くする 本物の教養』より)

個人的な印象としては、「教養」云々は抜きにしても、「社会に出て学習欲が出てきた」「仕事とは無関係でもいつか役立つ可能性が高い知識を得たい」という人は、本書から得られる気づきも多いんじゃないかと感じました。

卒業間もない新社会人はもちろん、現役の学生さんにおすすめしてもいいかもしれない。いずれにせよ、「教養」とは何たるかを改めて考えたい人であれば、何歳の時に読んでもいい1冊です。また、「本の読み方」について特に詳しく知りたい人には、『本の「使い方」 』もおすすめです。

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元記事:https://blog.gururimichi.com/entry/2017/06/22/191913

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