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フリーライターの本棚

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フリーランスのライターとして活動する筆者が、読んだ本の感想や読書メモ、おすすめのKindle本セール情報を収めていく「本棚」です。
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記事一覧

『「世間」とは何か』感想|それは日本人にとって個人や社会よりも大切な存在

「世間をお騒がせして申し訳ありません」 改まって考えてみると、まっこと不思議な言葉に感じる。企業の不祥事や芸能人の身内の失態など、主に記者会見の場などでよく耳にするこの文句。 特に後者は、謝罪している人自身にはまったく非がないにも関わらず、身近な人間のあやまちについて頭を下げている。たしかに、感覚的にはそこで謝るのもわかるような気もするが、理屈で考えると、途端に違和感がわきあがる。 あやまちを犯した人間が身内である――ただそれだけの理由で、無関係の人が謝罪をする。そこに

池上彰さんが語る“伝え方”とは?『相手に「伝わる」話し方』感想

池上彰さんの『相手に「伝わる」話し方』を読みました。 そのわかりやすい解説で定評のある池上彰さんが、数十年ものあいだ試行錯誤してきた「伝え方」を、自らの手でまとめた本。 見方を変えれば、池上さんの「NG集」というか、失敗を殊更に記録した経験談と言ってもいいかもしれません。Amazonのカスタマーレビューに「本自体が、伝え方の見本」と評している人がいらっしゃいますが、まさしく。 失敗を繰り返す中、考え続けた記者時代本書の前半部分は、池上さんが記者として働いていた頃の話に焦

『不屈の棋士』感想|人工知能があぶり出す「人間らしさ」とは

最近、将棋がアツい。 将棋と言えば自分でも指してなんぼ、という声もすっかり聞かなくなり、最近は「プロの対局を観戦するのが好き」という人も少なくありません。また、漫画やラノベ、小説などで描かれる、棋士の物語を楽しむことだってできる。将棋の楽しみ方はさまざまで、本をきっかけにその世界にハマる人も多いと聞きます。 このたび読んだ大川慎太郎著『不屈の棋士』は、まさにそういった人でも楽しめる将棋本だと言えます。観戦記者である筆者さんが11人の棋士にロングインタビューを敢行し、プロの

『珈琲の世界史』感想|知的好奇心が満たされる「コーヒー」の文化史

ここ数年、毎日のようにコーヒーを飲んでいる。それ以前――営業職として走りまわっていた頃――はたまに缶コーヒーを飲む程度だったけれど、近頃はほぼ毎日。出先で小休止するとき、あるいはパソコンに向かって作業をするときには、喫茶店のコーヒーが欠かせない。 最初はマクドナルドの100円コーヒーに始まり、ドトールのアメリカンコーヒーを経て、最近はスターバックスに落ち着いた格好。味はドトールも悪くないのだけれど、日中は大声で話すお客さんが多くてどうにも落ち着かないのよね……。席を取るため

「かわいい」が幸福度を高める!?研究によって明らかになったKawaiiの力を紐解くビジネス書『Kawaii経営戦略』

近年、自分の中で「サンリオ」がアツい。 きっかけは、2021年末の「SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland」。VR世界のサンリオピューロランドで開催された、バーチャル音楽フェスでございます。 VTuberやサンリオキャラクターだけでなく、リアルで活躍するおなじみのアーティストやアイドルも多数登場したライブイベント。当時はお世辞抜きに「今までで一番のバーチャルライブ」だと感じていたし、このためにVR機器を買う価値があるとすら思っていました

メモを活かす14の手法!仕事にも生活にも役立つ『すごいメモ。』の記し方

営業員時代から、「メモ帳」は必携ツール。 業務上のスケジュールや上司からの指示を書き留めるのはもちろんのこと、商品管理に営業文句、さらには顧客とのやり取りや各々の性格や話題の傾向まで、ありとあらゆることを記録していた。 とはいえ、その多くは自分が忘れるのを防ぐための「走り書き」のようなもの。長期的に見て役立つ、「アイデア」となるようなメモではなかった。そもそも仕事が忙しく、日々の予定や注文をメモしては捨てることの繰り返しであり、見返す暇もあまりなかったように思う。細かな顧

「罪なき者のみ石を投げよ」は詭弁?ロジカルシンキングを疑う『論より詭弁』がおもしろい

『論より詭弁』を読んだ。 ロジカルシンキングを扱う本が数多く書店に並んでいる現代においては、否が応でも目に入る尖った書名。なんたってまず、序章のタイトルからして「論理的思考批判」である。「論理なんぞ知ったこっちゃない」と言わんばかりの言葉が並ぶ本書の第一印象は、あまりにも鮮烈だった。 「あまりにもぶっちゃけすぎでは!?」と驚いてしまうものの、だからといって「論理」を完全に蔑ろにしているわけではない。それどころか、筆者自身は論理的思考の研究と教育に携わってきた立場にある。

教養を身につけるには「本」「人」「旅」の3要素が必要?『人生を面白くする 本物の教養』

出口治明さんの『人生を面白くする 本物の教養』を読みました。 ライフネット生命保険株式会社の創業者である出口さんの本を読むのは、これが2冊目。幼い頃から活字中毒だったという筆者の「読書論」を紐解いた『本の「使い方」』に対して、本書のテーマは幅広い意味での「教養」。非常に幅広いトピックを取り上げており、多方面で刺激を得られる1冊でした。 「教養」とは?日常的にもしばしば聞く言葉ではありますが、そもそも「教養」とはなんだろう。試しにいくつかの辞書・サイトで調べてみたところ、次

文章を書けないのは、そもそも「読めない」から?「書き方」以前の「読み方」を学べる本『わかったつもり』

「文章が下手な人は、そもそも文章を読めない」という指摘がある(参考リンク)。 ひとまとまりの長い文章を読む習慣がないから。文脈を読み取る力に欠けているから。読めても自分なりに曲解してしまうから。だから、文章を読むことができない。 他人の文章を「読めない」人が、自分の文章を「読める」はずもない――。 たしかにその指摘には、一理あるように感じる。自分ではいくら「書けた!」と思っても、「読む」ことに慣れていない人は、己の文章の誤りに気がつきにくい。客観的に文章を見直すことがで

相手に伝わる文章を書くには?「問い」から始める文章術『伝わる・揺さぶる!文章を書く』

いつだったか、「文章力は社会人の基礎体力」だと書かれている本を読んだ。 たしかに、企業勤めの人間は「文章」に触れる機会が多い。それも、学生時代とは違った意味で。読み書きに割く時間はレポートや論文を執筆していた学生時代のほうが長いかもしれないが、会社では文章を介したコミュニケーションが日常的に行われている。 メールをはじめ、報告書・議事録・稟議書・始末書などなど。会社で目にし、時には自分で書くこともあるこの手の「文章」は、思いのほか多岐にわたる。しかもそれらは、それぞれに異

“おまいら”と過ごした平成のインターネットをゆるーく振り返る本『平成ネット史 永遠のベータ版』

平成最後の2019年の1月。NHK Eテレにて2夜連続で放送された特別番組『平成ネット史(仮)』を知っているだろうか。 Windows95の発売から始まり、電話回線でつながっていたインターネット黎明期を経て、テキストサイト、ブログ、2ちゃんねる、iモード、mixi、YouTube、ニコニコ動画、ボーカロイド、LINEなどを紹介。日本のインターネット史に名を刻むサービスと、ネットカルチャーを振り返る番組だ。 そもそもこの企画、放送前の2018年秋頃にはすでにネット上で話題に