オランダのテック×デザインカンファレンスに参加したら、人間性のデザインとコスパの革命を見た - Border Sessions 2018 Report(1)
オランダのハーグで6/13-16の日程で行われたテック×デザインカンファレンス「Border Sessions」に参加しました。
今回が7回目の開催、僕自身は初めての参加でしたが、結論から先に書くとこんなにコスパの高いフェスは他に類を見ないのでユーロ握りしめて参加すべし、です。
もともと、ボーダーセッション自体はSXSWにヒントを得てスタートしたフェスのようで、その流れを受けてかハーグ市のエリアを広く扱ったものになっています。(ハーグ市のレベル感として、アムス、ロッテルダムに続く第三都市となっており、SXSWの中心地であるオースティンもテキサス州の第三都市であることを考えると、少なからず近しい印象を受けます)
7回目となる今回のボーダーセッションに参加して感じたことは、現在では全くSXSWとは異なるスタンスであり、ある意味ではSXSWよりも深く学べ関係が持てるイベントである、ということです。その辺も含めながら、今回のボーダーセッションレポートをまとめたいと思います。
まず、ボーダーセッションは5つのメイントラックで構成されています。
人間性、社会性、都市との関係性、自然との共生、未来への発展性、からなる5つのテーマトラックを中心に、主に2つの主要プログラムに落とし込まれています。それが「Lab」と「Conference」です。
この二つについては後述しますが、ボーダーセッションを包括する全体的なテーマとして「サスティナブル=社会的持続性」があげられます。これはボーダーセッションが、というよりオランダ全体に根付く考え方として、市民レベルから国家レベルまで、あらゆるところで持続性のある社会ってなんだっけ?を考え実際に行動に起こす(=社会実験の)土壌が行き届いている印象を受けます。この辺りを踏まえながら5つのテーマトラックを通じボーダーセッションの主要コンテンツを覗いていくと、より深い理解と体験価値が得られるフェスであるでしょう。
(1)Labについて
開催の4日間の中で、13、15、16日の3日に渡って開催されました。つまり最も主だったコンテンツ軸です。さらに今年から大きな方向転換があったようで、昨年まではカンファレンスが3日/ラボが1日の逆ボリュームだったものを今年はラボ中心に組み替えた模様。この辺りから他のテックフェスと差別性を図り、参加者の深いコミットを求める姿勢が強く伺えます。
今年のラボは30の数に渡り、それぞれがハーグに点在する研究機関、美大、公共施設といった様々な施設で行われています。
開催は1日のうち朝10時〜夕方5時までの、およそ7時間に渡って行われます。言ってしまえばワークショップなのですが、大体は1日のみ、いくつかのラボは2日間に渡って開催されています。
内容も多岐に渡り、デザインメソッドを活用した社会との接点構築、流通におけるブロックチェーンの活用、新しいコミュニケーションとしてのVRの活用、はたまた崩壊すると仮定した地球の中で新しい星を目指すとしたらどうしたらいいかの未来と惑星のデザイン、食べられる虫との共生、新しい都市型農業と社会との関係構築、そして自転車で巡るハーグのスタートアップツアー・・・
これだけ書いてても捉えどころがないですが、基本的に「遠い将来に来るかもしれない仮説」を据えながら、現在から仮説未来に至る道のりのストーリーをデザインする、というのがラボの本質であると感じます。このバックキャスト型のストーリーラインの描き方は近未来のテックとビジネスの関係を深掘りするSXSWよりも、どちらかというとアートを通じて未来社会との接点を探るArs Electronicaにスタンスが近く、参加者全員で未来への道のりを描くことでこれから来る状態にどう備えるべきかを、地域性、人のポテンシャル、技術の発展性、そして社会持続性から読み解いて個々のスキルアップに繋げていく、人間性/人間力のデザインに繋がるなぁとぼんやり感じた次第です。
私自身もラボに参加したので、その辺りに関しては次の記事にまとめたいと思います。オランダの都市型農場、マジでやばいよ・・・!
(2)Conferenceについて
前述のように、今年は1日のみの開催でこちらは26のセッションが催されました。なんと、今回そのうちの1つのセッションを僕も担当することになりこの辺りも別途記事にしたいと思うのですが、長くなるのでひとまずスルーします。
ご覧のように、カンファレンス会場は2つだけ、そのお互いが隣接してる施設なのでとても近いです。ですので、カンファレンスが行われた14日は基本会場にずっといる形になります。
4つのステージに分かれ、冒頭に述べた5つのテーマトラックに分かれたセッションが行われます。内容はラボと同じく、社会、環境、人とテックの関係について提言がなされます。ステージと観客の距離も近いのでバンバンとディスカッションされるようなセッションが多く、参加者巻き込み型の状況が伺えました。
個人的に面白いのは、ステージの設えです。インテリア性が高く壇上に登ってもリラックスできる空間なんですね。公式の写真でも掲載されているようにあぐらかいて円座でディスカッションすることが可能だったりなど、ステージと観客席の状況をフラットに、地続きになるような工夫を見ました。この辺りの姿勢にも社会テーマについて市民や外部の人と一緒に向き合い議論をスタートさせるキッカケを作っていく、オランダモデルの片鱗が見えるようでした。
コスパの革命が起きていた
そんなボーダーセッションですが、4日間のエントリーパスはなんと60ユーロ。1日あたり15ユーロ。ワークショップに参加し、バックキャストで未来を作るデザインに触れ、最新の事例を見ながらディスカッションできる濃密な4日間が、たった60ユーロ。円に換算して8000円弱・・・
この衝撃を伝えるために、過去に参加したフェスの参加費用をグラフにしてみました。
カンヌ高杉ィ!
いまちょうどこのタイミング(6月20日現在)でカンヌライオンズが行われていますが、今年からエントリーフィーが減額されたとはいえ、この差は凄まじいものがあります。(ただし、日程やテーマが全く違うので、金額だけで比べるものではない、とは述べておきます)
ボーダーセッションのディレクター、ミシェルさん曰く「60ユーロ、高いかなと思ってるんだけどどうかなぁ・・・」とのことで(EyesJapan 山寺さん談)、金儲けよりも社会提言の可能性をガチガチで広げて行こうとするその姿勢に、テックフェスにおけるコスパの革命を見ました。
この金額なら学生でも、ちょっと面白そうな海外フェスに参加したいけどフィーが気になる人も、同僚誘いたい人も、カップルも家族連れも、みなさんお金を気にせず気軽なノリで海外フェスに参加できるのではないでしょうか。
また、オランダは英語が第一言語ではないので、英語があまり上手でない方も少なからずいます。「英語のワークショップってハードル高そう・・・」と思っても、たとえ日常会話も怪しい文法がめちゃめちゃな英語でも、飛び込んで中に入ればなんとかなります。オランダの(そして周辺各国から参加している)皆さんはマジで優しいですし、マインド的な言語バリアを取っ払うことさえできれば多くの学びを得ることができるでしょう。
ちなみに今年は、僕が知る限りでは日本からのボーダーセッションの参加は6名。SXSW2018の参加者が1500名であることと比べると割合的に0.4%の人しか参加していないことになります。
「SXSW、みんな行ってるし食傷気味・・・」と感じている方々も、まだ日本からの参加が少ない未知なるボーダーセッションは、新しい発見とユニークな体験、出会いを届けてくれるのではないでしょうか。
今回は長くなったのでこの辺りで。
次回は実際に参加したラボ「LOW & HIGH TECH FOOD LAB 」を中心とした内容に触れていきたいと思います。
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