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[韓ドラ★Kシネマ]主役は<漢江>だ! 「漢江の怪物」と「殺人の追憶」の巻

(↑トップ画像)民主化運動を経験したフリーターの次男演じるはパク・ヘイル)は、手製の火炎瓶で<グエムル>に決死の闘いを試みるが……。おそらくポン・ジュノ監督の分身と思われる役柄のパク・ヘイルは、皮肉なことに「殺人の追憶」では不気味な第一容疑者という憎まれ役を演じている。

STOP THE WAR!
NO NUCLEAR WEAPONS!

「殺人の追憶」が与えた衝撃

「グエムル」は、公開当初、“ハリウッド調の娯楽作品にすぎない”などと “韓国ヌーベルバーグ”(新しい波)の一部の監督から “(商業主義に)堕落した”かのように、ポン・ジュノ監督は批判されたそうです。
 
それは、前作の「殺人の追憶」(2003年)が、あまりにエッジの利いた先鋭的な出来栄えだったからでしょう。
 
ここで、<漢江>とは関係がないのですが、「殺人の追憶」を未見のかたにはぜひおすすめしたいので、ちょっと触れておきたいと思います。

(↑)第一容疑者に物証がないまま自白を迫ろうとするソン・ガンホ(左)とキム・サンギョン「殺人の追憶」の一場面)。余談ながら、キム・サンギョンはドラマ「王になった男」(ヨ・ジング主演、イ・セヨン共演、2019年)で先王を演じ、メイキング映像で“刑事から今度は王様の役だ”と冗談まじりに語っていたが、うまい役者なのになかなか作品に恵まれないのが惜しまれる。

――冴えない地方刑事(ソン・ガンホ)がソウルから派遣されたエリート刑事(キム・サンギョン)とタッグを組み、その二人が綾なす人間模様をときに滑稽に描きながら、(実際に起きた)連続女性殺人事件の犯人逮捕に執念を燃やすという「殺人の追憶」が、そのストーリーの裏で、兵役から退き一市民に戻った青年の暗い心理を殺人の動機としてほのめかすという重層的な構造をもつ作品でした。
 
この殺傷を訓練される兵役と残虐な犯罪との関係については、ポン・ジュノ監督とも交流のある阪本順治監督が作中の一瞬のカットを目ざとく見つけて指摘(*)しており、また時効後の2019年になって服役中の男が真犯人だったことが判明しましたが、サイコパスによる連続女性殺人事件というだけで、軍隊生活と事件との関連は、伝わってきてはいません。
(*)『韓国映画 この容赦なき人生』(2011年、鉄人社刊)のなかで阪本順治監督は、第一容疑者の個人アルバムに貼られた一枚の写真(あえてそのカットは載せませんので、お見逃しなく)に触れ、そう語っている。

「ゴジラ」と同じ反核感情

いずれにしても、映画「グエムル」もまた重層的な構造をもった作品で、在韓米軍による毒物投棄のほか、アメリカ政府が皮膚に腫瘍ができる健康被害を野外生物を宿主とする<ウィルス説>にすり替え、ホルマリンによる真因を隠ぺいするためメディアを使ってフェイクニュースを流し、そして<グエムル>を退治するため米軍がベトナム戦争で使用した猛毒性の化学兵器(劇中の名称は「エージェント・イエロー」)を<漢江>河岸の「市民公園」で散布するという、アメリカの巨悪をとことん暴く政治・社会的なメッセージが込められ、たんに怪物を退治するというだけの物語ではないわけです。

(↑)<グエムル>撃退に在韓米軍が介入し、猛毒性の「エージェント・イエロー」散布作戦に対しては、学生・労働者が漢江市民公園で抗議デモを行うのだが……。
(↑)初期のころの「ゴジラ」(AmazonPrimeVideoより)

本多猪四郎監督(共同脚本)・円谷英二特撮監督の「ゴジラ」(シリーズ第1作は1954年公開)がアメリカの水爆実験による放射能汚染によって生み出された悲劇の産物であるように、「グエムル」もまた在韓米軍(およびアメリカ政府)が創り出した怪物だったからです。
 
つまり、戦中派の「ゴジラ」製作スタッフと同様、戦後民主派のポン・ジュノ監督も、国家悪を批判し、平和を希求するメッセージを娯楽作品に込めたのです。
 
(つづく)


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