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「受刑者の肉声(仮)」のコーナー! Vol.3

 サンノさんは多分50歳くらい。特徴的な三白眼と灰色よりの肌から、魔術的な雰囲気がある坊主頭ですが、実際のところ穏やかな良い人です。彼のパーソナリティについてはあまり知らないですが、捕まったのは彼いわく、会社が違法なやり方で資金調達していたので詐欺罪になったということでした。

 サンノさんと私は「ビジネス会計科」という職業訓練を共に受講していて、その講義の休憩時間に話を聞くことができました。

 刑務所では、施設によって様々ですが、職業訓練の他にも任意で参加できる取り組みが色々あります。私はいくつかの理由から、任意参加の取り組みは全て参加する様にしています。
第一に、刑務所は犯罪者の犯罪性を下げて人材の再生産を意義とする教育機関でありながら、我々受刑者は自分が刑務所からどう評価されているのか、フィードバックが一切ないという謎のシステムで運営されているため、せめて評価される機会を最大化しようという狙いからです。方向性やイデオロギーが全く示されていない状況で、自分の取り組みに対して客観的なフィードバックを一切得られない中、主体的に自助努力できる様な人物は、そもそも犯罪性が低く、刑務所にはほとんど居ないということを、どういう訳か長い長い歴史を持つ刑務所という事業体は認識していないらしいです。

 第二に、刑務所という貴重な体験を彩り豊かなものにして、経験値を最大化するためです。刑務所では、「こう在れ」という追求可能、持続可能なイデオロギーは示されず、「これをするな」という規範さえ守っていれば、基本的に何も起こらず、機械的な、悪い意味で穏やかな時間が過ぎて行く様になっています。これが一般社会での社会不適合性を助長して、高い再犯率の一因になっているのは間違いありません。そんな中で日々に少しでも変化をつけることと、色々な経験をすることの一石二鳥な方策として「全参加」の精神で受刑生活をエンジョイしているという訳です。

 さて、そんな中でサンノさんはこう言ってました。

J「サンノさんは何か、この刑事司法体験から、そういうことに馴染みのない一般人に言いたいことはありますか?」

サ「なんだろう。難しいですね。」

J「ですよねw僕もこのインタビューの質問をどうしたら良いかまだ考え中でw何か例えば、一般人に対するアドバイス的なことでも良いですよ。」

サ「自分は逆らわないってことですかね。」

J「それは刑務所ではって事ですよね?」

サ「そうです。よく分からないことでも、とりあえず従っておく」

J「あ~それ分かります。結局出ることが決まってる身としては、早く出ることを最優先の善としたときに、いちいち不条理なことに反応してたら損しますもんね。」

サ「そうそう。逆らっても意味がない。」

J「これからさあ刑務所入るぞって人は少ないと思うので、アドバイスとしては役立たなくても、刑務所の空気感が伝わる良いコメントでした。ありがとうございました。」

サ「w。それはそうとJさん、暗号通貨のこと教えてくださいよ」


 刑務所はもちろん、刑事司法全体に言えることですが、本質を無視して自己目的化してしまっていて、私やあなたの金を使って、ほぼ付加価値を産まない事業を無意味に回す制度になってしまっているので、刑事司法は対外的にも体内的にも、我々受刑者に対しても意味不明なことを言って、無意味なことをやっていることが多いです。

 「本質的にロジカルに考える」(←この全共闘のスローガン、良いですよね)と、究極的には刑事司法なんて無い社会が理想ですよね。そんなものは無くても問題が起きない、あるいは自浄作用のある社会が目指すべき方向なのは自明の理であるし、そういう社会は実際にいくらでも存在します。そんな事は当事者が自覚して、新たな存在意義を定義して、企業が普通にやっている様に有機的に変化し続ける持続可能な事業体になるべきなのですが、実情としては腐り切っていて、そのつもりはないようです。しかもセキュリティ的な理由から、ステークホルダーであるあなたに情報が公開されておらず、外部のコンサルタントを入れたりもできないという性質も悪循環を加速させています。

 刑事司法は自らの存続を目的として存在していて、そのために必要な「食事」のようなものとして、ストックしてある犯罪者を必要な分食べて、足りなくなったら立法や新たな法解釈で食料を調達する、ガン細胞と病原菌の合体みたいなものになっています。

 この自己目的化を目の当たりにして、アメリカに於ける禁酒法→マリファナ課税法の流れを思い出して、ぜんぜん他人事じゃねえなと思いました。

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