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【コラム】ゲートウェイドラッグ詐欺

日本の刑務所では、フィンランドなんかとは違ってインターネットにアクセスすることができないので、モデムの時代からインターネットの住民である私にとっては、今までとは情報の入手源が、もう全然違うので、そんな非日常感も楽しい要素の一つなのです。基本的に社会で何が起きているかというのは、新聞か、NHKの「ニュース7」から知るしかなく、非常に偏った視点のものしか入ってきません。

私は大麻の専門化なので、大麻に関係するトピックには敏感なのですが、2021年の夏に捕まってから今までに見た大麻関係のコンテンツで、一貫して「ゲートウェイ(ドラッグ)理論」という言葉が、大麻の社会的悪性を担保する根拠として使われていることが気になっています。

先に言っておくと、「ゲートウェイ(ドラッグ)理論」などという理論はありません。

「理論」というのは、原因と結果の構造についての仮説が、化学的根拠によって説明されたもののことです。

ゲートウェイ(ドラッグ)仮説とは、大麻(何故かこの仮説は大麻に限って論じられる)の使用が、その他より有害な違法薬物(何故か「違法」薬物に限られる)を使用するきっかけ(ゲートウェイ)になる、という仮説だ。

詳しく批判して行く前に言っておくと、この仮説の言い出しっぺである、当時はニクソン率いるアメリカ合衆国政府は、この後50年以上の期間、多額の税金を使って仮説の正しさを証明しようとしましたが、結果として現在アメリカの国立薬物乱用研究所(NIDA)は、「ゲートウェイ仮説は間違いでした」という結論を出しています。NIDAのホームページにも書いていますよ。

NIDAのページのスクリーンショット

大麻取締の歴史については、ホメオスターシスとカンナビノイドの話の後に話そうと思ってますが、この状況でゲートウェイ”理論”を論拠に大麻の悪性を主張するのは、例えば今からSTAP細胞の医療利用について論じる様なことで、滑稽ではないでしょうか。それを日本を代表する様な新聞社やNHKがやっているのですから、これはとても恥ずかしいことで、ちゃんと声を上げて止めさせるべきだと思います。

さて、そもそも違法薬物の設定やランク付けが恣意的なものと言わざるを得ないし、大麻以外の物を入り口としたゲートウェイ仮説が語られることが一切ないので、実際の所乗っけから意味不明なのですが、仮にゲートウェイ理論が成り立つとしたらどうなっているはずでしょうか?
あなたもご存知のとおり、日本では何年も前から大麻取締法違反が増え続けていますよね。ということは、日本では伝統的に大人気のハードドラッグである覚せい剤の使用者は、大麻に連動して増え続けているはずです。しかし現実には、覚せい剤の摘発数は減り続けています。これはゲートウェイ仮説を反証する定量的エビデンスになりますが、どのメディアでも大麻犯罪が増え続けていることと、ゲートウェイ理論があるから大麻は危険だということと、覚せい剤犯罪が増えていないことを同時に発信しています(あるいは、覚せい剤犯罪が減っていることを発信するメディアはほとんどありません)。これはどう考えても確信犯で、視聴者・読者をバカにしているということでしょう。

次に、ゲートウェイ理論が成り立つのであれば、それが大麻のみに当てはまるという特別な因子がない限り、他の物にも同じ傾向が現れて然るべきですよね。私は30年以上生きてきましたが、「酒飲んだからタバコ吸おう」「タバコ吸ったから大麻吸おう」「コーヒー飲んだから覚せい剤しよう」「ロキソニン飲んだからモルヒネ打とう」とか、そんな話は一つも聞いたことがありません。それに、例えばコンサータとかモルヒネとか、医療麻薬と呼ばれるものは合法ですし、他の物(例えば大麻)からエスカレートするならそういう選択肢の方が捕まるリスクも無いし、品質もバッチリで合理的だというのは自然な心理だと思いますが、そういう話も聞いたことがありません。

この様に色々ツッコミ所があって、全然科学的ではないゲートウェイ仮説ですが、大麻取締擁護論者がゲートウェイ理論(笑)一本槍で戦っているのと同じく、ゲートウェイ論者の唯一の寄りどころとなっているエビデンス(笑)があります。

それは、大麻使用者が、非使用者と比較して、その他の違法薬物を使用する割合が高いという数字です。

「さっきの覚せい剤犯罪との相関の話と矛盾するじゃあないか」と思われたかも知れませんが、この二つの数字は矛盾しません。覚せい剤犯罪は減っていますが、その中に占める大麻使用者の割合は、非大麻使用者と比較して高いはずです。

つまりゲートウェイ仮説は否定されるのですが、あなたはこう思ったかも知れません。「ゲートウェイ仮説が成り立たないのは分かったけど、結局大麻と他の違法薬物には関係があるんじゃ?」

その通り。大麻と他の違法薬物は関係があります。当たり前です。
だって大麻も違法薬物なんだから。

合衆国政府(というかNIDA)はそれを自ら証明したことによって自滅し、負けをみとめたのです。
すなわち、「ゲートウェイ理論が成り立つのは、大麻が違法だからである。」

考えて欲しいのは、大麻使用者ってどんな人?ということです。実態がどうかは別として、統計で大麻使用者としてカウントされる人は基本的に犯罪者です。つまりゲートウェイ論者の一本槍エビデンスは、「犯罪者と非犯罪者を比較すると、犯罪者の方がハードドラッグの使用率が高い」ことの証明になっています。

そう考えれば当然の数字ではないでしょうか。偏差値の高い学校出身の方が社会的レイヤーが高いことや、医学部出身の医師が文学部出身の医師より多いことと同じです。

また、大麻と他の違法薬物の流通ルートが同じラインということも大きな因子です。
例えば、タバコを吸う人の肉まん消費量は、タバコを吸わない人より高いはず。両方コンビニのカウンターが主な流通ルートだからです。ビールを飲む人のウイスキー消費量も、同じ理屈で高いはずです。
大麻を売ってる人と覚せい剤を売ってる人が同じ人なら、その使用者は相関性はあって然るべきですし、大麻が合法化されて流通ルートが確立されると、この相関性がなくなることも既に分かっています。

こういった因子を否定できず、むしろ裏付けにしてしまったことで、NIDAは敗北を宣言し、ゲートウェイ仮説は否定されたのです。

大麻関係の報道を見ると、法や警察機関の自己目的化や、政治の責任逃れといった意図を感じざるを得ません。日本は言語障壁があって、外国からツッコミを受けることは少ないですが(ツッコまれても気付けないというのもある)、私はこういうのを恥ずかしいと思うので、あなたも見かけたら大いに反応して欲しいと思います。ゲートウェイドラッグ詐欺に反対しよう!

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