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Starting Point

ふと去年のいまごろは何をしていただろうかと気になり、カレンダーを眺めてみた。2020年1月4日土曜、彼女と初もうで。ランチにちょっと高い回転寿司を食べたあと、明治神宮を参拝した。前日家族で引いたおみくじの結果が悪かったので引き直したかったのだが、ここにあるくじはどれも吉凶の占いがない。知らない神様の詠んだありがたい和歌が書いてあったが、もう内容は忘れた。あと、神前式を挙げる和装の男女が目の前を通りかかり、新年早々縁起のいいものを見たと興奮したのを覚えている。夜はサークル時代の友人と新年会。始発まで友人の家で飲み、ひとねむりするために彼女の家に泊まった。

2020年1月5日日曜、大学時代、語学のクラスが一緒だった4人でシュラスコ食べ放題。年末の韓国旅行土産をみんなに渡し、夕飯のヤンニョムチキンが辛すぎておなかを壊した話で盛り上がる。そのあと、カラオケでひとしきり騒いで解散。こうやって振り返ってみると、なんだか遠いファンタジーの世界のようだ。僕自身はなにも変わっていないのに、世界だけがどんどん地獄に向かって突進している。

2020年1月6日月曜、正月気分抜けきらぬまま仕事初め。取引先へのあいさつまわりで一日が終わり、夜は職場近くの神社で祈祷。そのまま有志(といっても若手の僕は強制的に幹事だが)の新年会に連行された。いつものように気の利かない立ち回りで先輩たちを苛つかせたあと、宴もたけなわというタイミングで参加者全員2020年の抱負を宣言する流れに。当然、僕にも出番がまわってくる。こういう場でみんながよろこぶことを言うのは苦手だ。さんざん悩んだ末に、いま付き合っている彼女に年内にプロポーズすることを約束した。部署のおじさんは飲み会のたびにやたら僕と彼女の関係を気にかけていたし、僕自身、そろそろ時期かもなと思い始めてもいた。だから、その場の空気を言い訳に、僕は結婚宣言をしたのだ。

しかし、約束を守ることはできなかった。その後ほどなくして僕は彼女に振られたからだ。そしてときを同じくして海の向こうから未知のウイルスがやってきて、世の中はメチャクチャになった。後厄の効果だろうか。それとも、1月4日にべつの神社で大吉が出るまでおみくじを引いていたら、結果は変わっていたのだろうか。もしかしたら、初もうでを適当に済ませたバチが当たったのかもしれない。もちろん辛いことばかりではなかった。家で引きこもっているあいだに辛くないヤンニョムチキンを研究してみたり、感染拡大が落ち着いてからしばらくはマッチングアプリでいろんな女性に会ってみたり、日向坂46つながりで出会った仲間と食事をしたりもした。だから2020年をなかったことにしたいとは思わない。

それでも、振り返ってみるとやはり、2020年はうまくいかなかった。そしてその原因は、僕自身が真剣に生きてこなかったからかもしれないとも思う。緊急事態宣言で家にいるあいだ、いろいろなことを考えた。自分がオトナになりきれていなかったこと、いまだに明確なキャリアプランが見えてこないこと、そういえばこれまで自分で設定したゴールに向かって努力した経験が、ほとんどなかったこと。考えれば考えるほどおのれの未熟さが浮き彫りになって、なんだか恥ずかしい気持ちになった。

こうやって分析をするのは得意だけれど、いざ実行に移すとなると足がすくむ。緊急事態宣言下で溜め込んだエネルギーであれもこれもと新しいことにチャレンジしていたときの勢いも、とっくの昔に尽きている。年が明けてもエンジンがかからない。3月以降が真っ白な2020年のカレンダーを眺めながら、ことしも去年と同じかなと諦めかけていた矢先、みーぱんがこんなブログを書いているのを読んだ。

よし。それでは来年って言いそうになったけど、もう今年か。2021年の目標を書きます!

目標は口に出すと叶うというので。
いつか叶ってるといいな。
でもね、何年前かのブログの目標を見るとね、叶ってるものがたくさんあるの。
しかも小さな目標と大きな目標を書いてたんだけど、その大きな目標も叶ってるの。
それがすごい嬉しいの。
あの時は夢のまた夢の話だったのに今じゃそれが叶ってる。
夢が叶うってなかなか言えない言葉。
でも今、私は夢が叶うと何度も言えている。
それが幸せだなって。
だからまた夢が叶ったと言いたいなって。

彼女は2021年に叶えたい夢をならべたあと、こんなことばでブログを結んでいる。

まだまだたくさんある気がするけど今思いつくのはこれかな。昔からね夢が多いの。やりたいことが沢山あって。

アイドルのブログでいちいち感傷に浸るのは痛いかもしれないけど、僕は素直に思った。「やりたいことが沢山あって」っていいなと。彼女はまだ自分に無限の可能性があると信じている。そして、そう確信が持てるだけの努力を積んできているのだ。僕にはその強さがあるだろうか。なにごともはじまる前から諦めていないだろうか。2020年は「有言不実行」だったけど、ウイルスのせいにしてふて腐れるより、「目標は口に出すと叶うらしい」と自分にプレッシャーを掛けてなにかしらアクションを起こすほうが、よっぽど建設的だ。

こないだ読んだ新聞の記事によると、世界が元通りになるには早くてもあと3年から5年はかかるらしい。2025年、僕は30歳になる。世の中がメチャクチャなのを言い訳にしているあいだに揚げ物は食べられなくなるし、徹夜でお酒を飲む体力もなくなる。人生の選択肢もだんだん狭まってくるだろう。そう考えたら、うかうかしていられなくなってきた。とりあえず動いてみよう。そして、もう少し自分のエネルギーを信じてみよう。

いまの会社でやりたいことが見つからないなら目線を外に向けてみようと思って、転職サイトに登録した。職務経歴の作文がなかなか難しい。これからブラッシュアップが必要そうだ。できたらマスに向けてサービスやメッセージを発信できる仕事に携われるといい。

新年早々僕の書いたnoteが引用元の本の著者の目に触れ、ツイッターで感想まで書いてくれた。ライターになりたいなんておおげさなことは言わないけど、自分の書いた文章をもっと多くの人に読んでもらえるようにいろいろ工夫してみよう。

去年はヤンニョムチキンの研究で終わってしまった自炊を極めたい。余り物の食材でおいしいおかずを作れるようになったら最強だ。あと、中華鍋を片手で振ってパラパラのチャーハンを作れる人になりたい。

ゆるみきったおなかを引き締めたい。しばらく外を出歩くこともなさそうだから、家でゴロゴロせず、ラジオを聞きながらランニングをしよう。せっかくだし目標は高く、ことし中に腹筋を割るんだとここで宣言してみようか。

2022年1月5日にこのnoteを読んだとき、僕はどんな気持ちになるだろう。この一年間よく走り抜けたと胸を張っているだろうか。それとも、またお前は変われなかったよと肩を落としているだろうか。いずれにせよ僕は言いたいことを吐き出して清々しい気分だ。いま、ここを新しい僕の出発点にしよう。

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