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ネクストブレイク若手女優の戦国時代を考える

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いまや「若手女優」は群雄割拠の時代である。次から次へと新しい人材が出てきては観客に鮮烈な衝撃を与える。ことしで言えば「この恋あたためますか」で一気にスターダムへ駆け上がった森七菜。2019年公開の「天気の子」主演をはじめ、広瀬すずと共演した岩井俊二監督「ラストレター」で映画ファンには知られた存在だったが、民放ドラマでもトップクラスの注目度を誇る「火曜ドラマ」枠でその人気は全国区になった。あるいは、朝の連続テレビ小説「おかえりモネ」で主役に抜擢された清原果耶。彼女は「ちはやふる - 結び - 」で映画版オリジナルキャラクターというなかなかプレッシャーの掛かる役回りを好演した2018年頃から注目を浴びた。そのあと「透明なゆりかご」「なつぞら」とNHKドラマで着実に実績を積み、満を持してことし「朝ドラ主演」に登板となったのだ。森七菜も清原果耶もすでに大手企業のCMやイメージキャラクターに起用されており、もはや完全に「ブレイク」したと言っていいだろう。さらにふたりの上の世代には有村架純吉岡里帆広瀬すず永野芽郁…とそうそうたる顔ぶれが並ぶ。いずれも主演する映画やドラマは公開・放送のたびに話題を呼び、大手携帯キャリアや製薬会社といったナショナルクライアントの「顔」として活躍している。老若男女から幅広い支持を受ける「国民的女優」と言っても過言ではない。

ただし、今回考えるのは、あくまで将来の活躍を期待される「ネクストブレイク」に分類される「若手女優」である。先に挙げたようなすでにお茶の間の人気者としての地位を確立したタレントは対象外にしている。なぜかというと、もともとは「坂道出身者の女優業」というテーマでnoteを書くつもりだったからだ。しかし、それにはまず彼女たちが飛び込む「若手女優」の世界の海図を描いてみる必要がある。「若手女優」戦国時代に、アイドル出身の彼女たちはどのように食い込んでいけるのか。その立ち位置を考えるための下ごしらえがこの「ネクストブレイク若手女優の戦国時代を考える」だと捉えてもらいたい。また、あくまで僕は映画・ドラマのファンであり、演劇やミュージカルは全くの門外漢だ。したがって、あれこれと納得のいかない部分や抜け漏れはあるだろうし、必ずしも重要なポイントを網羅しているとは言えないだろう。あくまでいちファンの「ネクストブレイク期待女優リスト」程度に捉えてくれればと思う。ちなみに先にふれた通り、坂道(乃木坂46、欅坂・櫻坂46、日向坂46)出身者の女優業については後日別立てで書く予定なので、西野七瀬平手友梨奈は今回のnoteでは触れないことを予め断っておく。


1.「ブレイク」の定義から始めよう

ところで、本題に入る前にひとつだけ確認しなければならないことがある。「ブレイク」ということばの範囲だ。「ブレイクした」とは一体どういった状態を指すのだろうか。本来の語義でいえば「一気に露出が増えて人気が出る」状態を指すだろう。だが、ひとことに露出が増えると言っても女優にはさまざまなキャリアパスがある。たとえば、ここまで名前を挙げてきた女優は自他ともに認める「国民的女優」とも言うべきポジション、あるいはその予備軍である。近年はこの枠にハマるパターンも定まってきた。低予算映画の主演や連ドラの助演で実績を積み、ある程度知名度が上がったところで「朝ドラ」や、民放連ドラの主演で一気にその名前を全国区に売り出し、あとは事務所の看板女優として主演ドラマ、大企業のイメージキャラクター、舞台の座長と「国民的女優」の地位を固めていく…という具合だ。この流れのなかで朝ドラは新人の登竜門ではなく、むしろ彼女たちのように事務所が売り出したい「ネクストブレイク」の全国区お披露目枠、ここをくぐれば一丁上がりの最終関門になっていると言えよう。もちろん、このパターンが絶対というわけではない。出世ルートに乗りかけて伸び悩んでしまう女優がいる一方、浜辺美波橋本環奈川口春奈のように「朝ドラ」主演を通らずとも高い人気を誇る女優はいる。

しかし、事務所の看板女優として「CMタレント」になることが「ブレイク」の証とは限らないし、まして女優のキャリアの正解であるはずがない。企業の顔になれるような「華やかさ」がなくとも、高度な表現力や佇まいで観客を魅了し、決して派手ではないが着実にキャリアを築いていく女優は数え切れないほどいる。むしろ「国民的女優」になるのは人気度ピラミッドの頂点、上澄みの上澄みのそのまた上澄み…といった天上界の話であり、当然、そうでない人のほうが多い。ミニシアター系の作品では頻繁に主演を張るが、民放連ドラやテレビCMにはほとんど出ないタイプの女優だっている。門脇麦はどちらかと言うとこの分類に入るだろう。彼女の映画ファンのあいだでの人気や、表現者としての実力にケチをつける人はいないだろうが、いわゆる「国民的女優」の枠組みから距離があるのはたしかだ。

ここまでの話をまとめよう。このnoteでは「ブレイク」を「一気に露出が増えて人気が出る」と定義する。しかし「若手女優」のキャリアは「朝ドラ」→「大企業のCM」→「事務所の看板」といったタレント的要素の強い「国民的女優」ルートをたどるものもあれば、そうではなく、みずからの表現力や魅力を活かせるフィールドでしっかり根を張り、「彼女が出る作品ならハズレはないよね」と観客の支持を着実に得ていく「独自路線」ルートを行くものもある。この定義に不満を抱く人がいるだろうし、僕自身あまりしっくり来ていない部分もあるが、とりあえずは便宜上この「国民的女優」と「独自路線」の二パターンに分けて考えたい。そして、基本的には「独自路線」にハマりそうな女優を中心に私見を述べていく。「独自路線」的な売り方から「国民的女優」へと羽ばたいていくパターンも一定数あるからだ。「一気に露出が増える」や「人気が出る」と言うと、「どこで露出が増えたのか」「人気が出るとはどの程度の層までリーチできたことを指すのか」といった疑問が当然湧いてくるが、ここは開き直ってぜんぶ「僕の見た限りでは」で考えることにする。じっさいは事務所の裏方が「この女優はこういうキャリアで売り出しましょう」という戦略は立てているはずだし、「出演本数」や「CM単価」といった客観的な数値で「ブレイク」度合いを図ることもできるだろう。ただ、僕は専門家ではない。そのようなデータが手元にあるはずもない。だから、このnoteでは、ここまで整理してきた「ブレイク」の考え方を前提に、近年の映画・ドラマから「ネクストブレイク」の期待がかかる「若手女優」をリストアップしていこうと思う。


2.次の「国民的女優」候補:南沙良、上白石萌歌、小芝風花

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森七菜や清原果耶の次に「ブレイク」する気配があるのは、「ドラゴン桜」で知名度を上げた南沙良だ。nicolaのモデルとして活躍したのち、2017年公開「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」の志乃役で頭角を現す。転校初日のあいさつでうまく自己紹介が出来ず、そのまま学校で喋れなくなってしまった内気な女の子を熱演した。鼻水を垂らしながら泣きじゃくるクライマックスは衝撃的(ちなみに「もみの家」でも巧みに鼻水をコントロールしている)で、ほとんど演技経験はないにも関わらず、志乃ちゃんは彼女しかいないと断言できるぐらいすばらしい演技だった。どちらかというとシリアスで暗い役が多かったのだけど、「ドラゴン桜」では明るく天真爛漫な高校生・早瀬を魅力たっぷりに演じ、その表現の幅の広さを見せつけた。これが民放連ドラ初出演だったらしいが、来年は大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の大姫役が決まっているし、いずれは「朝ドラ」や民放連ドラの主演もあるかもしれない。個人的に彼女の演技はものすごく好きで、観るたびに新鮮な驚きがあるので、このまま映画やドラマの演技仕事でキャリアを築いてほしい。「次のガッキー」なんてもてはやす記事も読んだけど、「CMタレント」化は避けてもらいたいところだ。

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南沙良は必ずしも「国民的女優」のルートに乗らないかもしれないけれど、来年の朝ドラ「ちむどんどん」の出演が決まった上白石萌歌は、同じ事務所(東宝芸能)の先輩・長澤まさみのようなキャリアが狙える位置にいると思う。僕が彼女をはじめて知ったのは2018年公開「羊と鋼の森」だった(実の姉である上白石萌音と姉妹役で出演し話題を呼んだ)が、このあと「義母と娘のブルース」「3年A組-今から皆さんは、人質です-」「いだてん〜東京オリムピック噺〜」と連ドラ出演が相次ぎ、映画ファン以外にも名前が知れ渡るようになった。「adieu」名義で歌手活動もしているので、もしかしたら歌番組経由で知った人もいるかも知れない。最近はやたらと女優にむかしの歌をカバーさせる流れがあるが、彼女は、カネコアヤノ、小袋成彬、君島大空…と豪華アーティストから提供してもらったオリジナル曲で勝負している。なぜレーベルのソニー・ミュージックがここまで力を入れているのかは正直良くわからないものの、たしかに上白石萌歌の歌声は透明感があって魅力的だし、それだけ彼女のポテンシャルに多くの人が期待しているのかもしれない。全国区の知名度があるかと言うとまだ微妙なラインだが、このペースで行くと来年再来年はいろんな映画やドラマが控えていると思う。これからの情報解禁が楽しみだ。

最後にもうひとり名前を挙げておきたいのが小芝風花だ。彼女は2014年公開「魔女の宅急便」実写版の主演に大抜擢されたが、残念ながら作品自体の評判が悪く(というより「ジブリ映画の実写化」に対するアレルギー反応と言った方がいいかもしれない)、将来を嘱望されながらも出鼻をくじかれた印象だった。しばらく音沙汰がなく、キャリア的には目立った実績もなかったのだが、2019年のNHKドラマ「トクサツガガガ」でコメディエンヌとして再評価され、2020年4月開始の「美食探偵 明智五郎」以降、「妖怪シェアハウス」「モコミ〜彼女ちょっとヘンだけど〜」「彼女はキレイだった」と現在に至るまでほぼ毎クール民放連ドラの主要キャラに起用されている。表情筋をいっぱいに使った演技で、どちらかというと「周囲に振り回されるちょっと芋っぽい女の子」的な役回りを任されることが多い。あのドタバタと落ち着きなく子犬のように動きまわる姿は観ているだけで面白く、視聴者にツッコミの余地を残すあたり映画よりはテレビドラマに向いていると思う。まだまだ出演ラッシュも続くだろうし、CMで見かける機会も増えてきた。これからもっと羽ばたいていきそうな女優である。

ところで彼女のWikipediaを読んでいたら「人物・エピソード」欄が尋常じゃない文字数で書かれていた。文章の組み立てを見るに、複数人がちまちま書き足したと言うよりは、ひとりの熱心なオタクが一生懸命まとめたもののようだ。もはや小芝風花研究本を書けるレベルである。引くぐらいボリューミーなのでぜひ読んでほしい。

ここまで名前を挙げてきた女優たちは、いずれもすでに主演の映画やドラマを何本も経験しており、有名企業のイメージキャラクターにも起用されている。「若手女優」という大きな括りで言えば、最初に整理した「国民的女優」の枠に近いと言えるだろう。いまの時点ではまだ映画やドラマを熱心に追いかけているエンタメファンや、若手タレントの活躍に関心がある人たちの中で知名度が高まっている程度だろうが、そのうち有村架純や広瀬すずと肩を並べる日が来るかもしれない。少なくともこれから数年のスケジュールがびっしり埋まっていると思うので、映画やドラマで見かける機会は増えそうだ。


3.ネクストブレイク女優のキャリア交差点:「街の上で」と「賭ケグルイ」

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あとから振り返ってみると何人ものスターたちのターイングポイントになっていた、キャリアの交差点とも言うべき作品が存在する。一作目の「ドラゴン桜」は、山下智久新垣結衣長澤まさみ…などのちのスターが集結した運命的な作品になった。同世代でいえば「花より男子」も同じカテゴリーに入るだろう。この傾向は学園ドラマに多い。売り出し中の若手俳優(とその事務所)がステップアップのために勝負をかける場なのだ。最近では土屋太鳳松岡茉優北村匠海が出演した「鈴木先生」、 菅田将暉永野芽郁上白石萌歌萩原利久今田美桜…と若手の注目株勢揃いとなった「3年A組-今から皆さんは、人質です-」が挙げられる。特に「鈴木先生」はテレビ東京の学園ドラマで、当時は著しく視聴率も低かったのだが、同じ年に主演の長谷川博己が「家政婦のミタ」で「ブレイク」したことでその内容は再評価された。他と比べて若手俳優の売り出しを全面に出したような作品ではなかった(最終回のテーマは鈴木先生の「中出し」である)ので、却ってそのキャストの豪華さが際立つのだ。

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ことし公開の今泉力哉監督「街の上で」は、ネクストブレイク女優のキャリア交差点として注目の作品だ。「37セカンズ」や「佐々木、イン、マイマイン」など数多くのミニシアター系映画に出演し、すでに映画ファンの間では「ブレイク」中の萩原みのり、「この恋あたためますか」や「コントが始まる」といった民放連ドラの出演も多い古川琴音、枝優花監督「少女邂逅」で独特の存在感を放った穂志もえか、「ミスミソウ」のいじめっ子から「君が世界のはじまり」の気だるい友人まで幅広く演じる中田青渚。四人とも一定の評価は得ていたが、「街の上で」で一同に介したことによりその知名度は高まった。見方によってはすでにこの作品をもって「ブレイク」を果たしたと言うこともできよう。みんな「国民的女優」の路線ではないが、絶対に独自のポジションを築ける位置にはついている。僕もこの人たちが出る作品なら絶対に追いかけようと思うし、いずれは「街の上で」の印象を上書きするようなステキな「主演映画」が作られるだろうと期待している。ちなみに、今泉力哉つながりで言うと「mellow」や「かそけきサンカヨウ(今秋公開予定)」に出演した志田彩良も、今後は活躍の幅を広げそうだ。「ドラゴン桜」では南沙良と共演している。ミニシアター系作品ではよく見かける女優だったが、これからは民法の連ドラにも出るのかもしれない。


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「賭ケグルイ」シリーズの出演者も今後の活躍が期待できる。岡本夏美(西洞院百合子役)は、先日公開の「ハニーレモンソーダ」で主人公の友人役を好演。ともするとファンタジーに振りきってしまいがちな少女マンガの世界観にリアルな肉付けをしていた。軸足はどちらかというと本業のモデルにあるようだが、コンスタントに脇役で出続けているので、今後は女優業に本腰を入れる可能性もある。福本莉子(愛浦心役)は、「思い、思われ、ふり、ふられ」や「映像研には手を出すな!」に出演。女優業と学業を両立しており、作品数は多くないのだが、上白石萌歌と同じく「東宝グランプリ」出身なので、どこかで一気に勢いが増す可能性はあると思っている。「賭ケグルイ」キャストの中で個人的にいちばん好きなのは中村ゆりか(五十嵐清華役)だ。キリッとした顔立ちが特徴で、お母さんは台湾の人らしい。劇場版第二作「映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット」では、「半沢直樹」ばりの顔芸大会で唯一の清涼剤的ポジションとして輝いていた。彼女もまだ脇役が多く、大きな役での起用は少ないものの、これから人気が出るべきだと思っている(僕は「絶体絶命ロシアンルーレット」を観たその足で本屋に寄り、彼女の写真集を買った)。


4.ファッションモデルから女優へのキャリア転身

いまではすっかり大御所女優の風格すら漂う広瀬すずもキャリアのスタートはSEVENTEENのモデルだった。当初から役者を志していたわけではないにもかかわらず世代トップクラスの表現力を誇るのだから相当な努力を重ねたのだろう。もっとも彼女は最初から演技がうまかったので、土台の才能からして別格だったことは想像に難くないけれど。また、永野芽郁や清原果耶も同じSEVENTEEN出身だ。SEVENTEEN出身で現在はnon-no専属モデルの横田真悠も、今後は女優業に力を入れる可能性がある。2020年公開「踊ってミタ」の田舎ヤンキー演技にそれほどのインパクトはなかったが、先日公開された「いとみち」では成長した姿を見せている。お昼の情報番組「ヒルナンデス」のレギュラーを務めるなどバラエティ方面での印象が強いものの、女優としてのポテンシャルもありそうだ。現役のSEVENTEENモデルでは秋田汐梨も映画・ドラマの出演が続いている。「賭ケグルイ」シリーズや、井口昇監督「惡の華」が代表作だ。まだ観客に強烈な印象を与えるだけの役どころは回ってきていないが、もし女優業へのシフトがあるならば要注目だと思う。

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個人的に「ポスト市川実日子」になり得ると思っているのが、モトーラ世理奈中島セナのふたりだ。モトーラ世理奈は穂志もえかとともに出演した「少女邂逅」で注目を集めた。「ブラック校則」ではヒロインを務め、2020年公開「風の電話」で第94回キネマ旬報ベスト・テン 新人女優賞を受賞。掴みどころのないアンニュイなルックスは、唯一無二の魅力である。彼女は市川実日子とおなじく装苑のモデルとして活躍しており、生活感のない雰囲気も似ている。また、「WE ARE LITTLE ZOMBIES」で鮮烈な衝撃を与えた中島セナは、「資生堂」や「ポカリスエット」のCMに起用され、徐々に一般的な認知も獲得しつつある。そのミステリアスなオーラは他の誰にも真似できない。起用する側のセンスが問われるが、ハマったら人気が大爆発しそうだ。


5.子役出身女優の躍進:山田杏奈、豊嶋花、蒔田彩珠

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子役出身の女優の活躍が目覚ましい。伊藤沙莉はその代表だが、「ネクストブレイク」の枠では、山田杏奈が挙げられるだろう。「ミスミソウ」で衝撃的なデビューを果たし、「小さな恋のうた」のヒロイン・譜久村舞で若手演技派の地位を確立した。彼女がギター片手に現れ、表題曲をうたいはじめた瞬間、この映画は「山田杏奈の出世作」になると確信したのを鮮明に覚えている。深夜帯ではあるが「幸色のワンルーム」「新米姉妹のふたりごはん」「荒ぶる季節の乙女どもよ。」と連ドラの主演もコンスタントに任されている。どちらかというと鬱屈とした女の子を演じることが多く、エンタメ大作やゴールデンタイムにハマるタイプの女優ではないかもしれない。そういう意味では自分の得意なフィールドですでに「ブレイク」した部類に入ると言ってもいいだろう。

「大豆田とわ子と三人の元夫」で主人公の娘・唄を演じた豊嶋花もことし一気に知名度を上げた女優である。「おいしい給食」や「名も無き世界のエンドロール」の助演でも存在感を示していたが、唄役の「ちょっと生意気な娘」演技はやはり別格だった。14歳とこれまで名前を挙げてきた中では圧倒的に若く、まったく今後のキャリアが想像できないという意味では、いちばんポテンシャルがあるかもしれない。あるいは「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」で南沙良と共演し、現在「おかえりモネ」で主人公の妹役を演じている蒔田彩珠。子役時代から切れ目なく活躍してきた。彼女も山田杏奈と同じく影のある役が多い。河瀨直美監督「朝が来る」では永作博美と堂々と渡り合う大立ち回りを見せ、圧倒的な表現力を示した。「朝ドラ」ヒロインを過去作の助演から起用する近年のパターンに則れば、いずれは永野芽郁や清原果耶のように主役の座を勝ち取るかもしれない。そのほか子役出身の女優では「ラーヤと龍の王国」日本語吹き替え版の主演(ラーヤ役)や「ハニーレモンソーダ」のヒロインを務めた吉川愛や、「女子高生の無駄づかい」ロリ役の畑芽育の名前が挙げられる。いずれも研音という事務所の所属だ。連ドラのゲスト出演が多く、これから先もさまざまな作品で見かけることになるはずなので、ぜひ名前と顔を覚えておきたい女優である。ちなみに子役出身ではないが同じく研音所属で「胸が鳴るのは君のせい」の怪演が記憶に新しい原菜乃華もあわせて注目しておきたい。


6.まとめ

はじめに「ブレイク」の定義を試みて結局中途半端な着地に終わってしまったように、役者のキャリアは十人十色であり、なにか特定の型にはめて整理するのはなかなか難しい。ただ、その中でも「朝ドラ」ヒロインやゴールデン・プライムタイムの民放連ドラ主演を経由して、ナショナルクライアントの顔を務める事務所の看板女優になる、いわゆる「国民的女優」への躍進が期待される「若手女優」と、そうしたルートへの可能性を残しつつも、あくまでおのれの持ち味で唯一無二の地位を狙う「独自路線」の「若手女優」というふたつの枠組を前提に、個人的に気になる人たちをピックアップしてみた。こうやって振り返ってみると、身もふたもない話だが「国民的女優」の地位を狙う位置につけている女優は、SEVENTEENやnicolaなど大手ファッション誌の看板モデル(新垣結衣の系譜。広瀬すず、永野芽郁、清原果耶など)や、東宝シンデレラオーディションの最終選考者(長澤まさみの系譜。浜辺美波、上白石萌音など)のパターンが多い。そのほか有村架純(フラーム所属)や川口春奈(研音所属)など女優のマネジメントを得意とする有力な事務所のバックアップを受けて強力に売り出されるパターンもあるだろう。弱小事務所からオーディションで勝ち上がった森七菜(最近ソニー・ミュージック・アーティスツという大手事務所に引き抜かれて波紋を呼んだが)や、ネットのクチコミでローカルアイドルから一気に時の人になった橋本環奈のキャリアはやはりレアな部類に入ると思う。

また、「キャリア交差点」「モデル出身」「子役出身」の3つの角度から、注目作への出演が続く女優たちについても考えをまとめた。キャリアの出発点はそれぞれ違えど、みんな表現力はずば抜けた人ばかり。ジャンル分けの都合で省いてしまったのだが、「いとみち」の津軽弁がステキだった駒井蓮や、「青葉家のテーブル」の栗林藍希上原実矩など、出演数は決して多くないながらも輝きを放っている女優はいる。あとはハマり役に出会ってキッカケをつかめるか、多くの観客を引きつける話題作に絡めるか、といった運の要素も大きいかもしれない。最初に書いたとおりまさしく群雄割拠なのだ。

これだけ雨後の筍のように才能ある女優が次々出てくると、「そろそろ飽和状態にならないか?」という懸念は当然出てくる。いち観客としては「いつものメンツ」で回されるより、さまざまな役者を観られる現状を歓迎すべきではある。しかし、新陳代謝が加速すればするほど、ひとりの女優に回ってくる打席数は少なくなるデメリットもある。さらに、かつて売り出し中の「若手女優」を世間に紹介してきた「少女マンガ原作映画」のブームは下火になり、ほとんどジャニーズJr.のお芝居披露会と化している。一定数の動員が見込まれるジャンル映画だからこそ、「ブレイク」一歩手前の女優でもある程度冒険した起用が可能だったと言えるし、有村架純や本田翼小松菜奈は「少女マンガ原作映画」で顔を売ったからこそ、次の作品への足掛かりを掴めたことはたしかだ。いまやターゲットをアイドルファンに絞った「少女マンガ原作映画」に、かつてのような拡散力は望めない。また、テレビドラマの領域でも最近「学園モノ」の比重が著しく下がっている。日曜21時の「日曜劇場」枠で放送された「ドラゴン桜2」はゴールデン・プライムタイムの連ドラとしては久々の編成だったと思う。一方、大手配給会社やテレビ局が製作幹事を務める、幅広い層をターゲットにした中規模以上の映画は、お金をかける以上それなりにネームバリューのある役者を起用する必要があるので、「少女マンガ原作映画」のように実績に乏しい女優にメインの役柄を任せるのは難しくなる。ここでも「朝ドラ」と同じ現象が起きていると言えよう。結局、全国数百館規模で公開される邦画や「朝ドラ」の主役はすでに名の売れた「いつものメンツ」で回されることになる。尤も「朝ドラ」は、ヒロインが知名度重視になった分、その妹や友人のポジションに「新人の登竜門」の意味合いがスライドしつつあるが、これもやはりNHKドラマで実績を積んだ「NHK御用達女優」の割合が高まっている。冒頭で紹介した清原果耶は2〜3年前から「朝ドラヒロイン」のレールが敷かれていたように思う。

一方、映画の制作・公開本数自体はここ数年ずっと増加傾向にある。かといって映画市場自体が大きくなったわけではないので、少ないパイを奪い合うことになるのだが、SNSのクチコミから観客の圧倒的支持を得て広がりを見せるパターンも増えている。一部の配給会社では、意図的に最初の公開館数を絞り、反響を見て規模を拡大する戦略を取っているらしい。興行は水物なのでスモールスタートでなるべくリスクを低減しようという狙いだ。邦画では「カメラを止めるな!」のシンデレラストーリーが記憶に新しい。濱津隆之やしゅはまはるみを映画・テレビで見かけると、いまだにあのときの熱狂と彼らの物語を思い出して胸に込み上げるものを感じるのは僕だけではないだろう。なかなかこのレベルの爆発はないものの、「メランコリック」や「いとみち」、あるいは最近話題の「ベイビーわるきゅーれ」のように、SNSのブーム起点で多くの映画ファンの目に触れる作品はある。作品自体にしっかりとした強度さえ備わっていれば、たとえ有名な俳優が出ていなかったり、当初の公開規模が小さかったとしても、観客は必ずその良さを見つけ出すのである。「ネクストブレイク」の女優が数百館規模の映画になかなか食い込めない状況であったとしても、その実力が正当に評価される場は整っていると思う。

ひとくちに「若手女優」と言っても、一人ひとり売り出し方が異なれば、目指す道もちがうので、同じラインに並べて比較できるものでもない。しかし、これから大きく羽ばたく可能性を秘めた「ネクストブレイク」の女優として、ここで一度彼女たちの現在地点を確認したかったのである。散々期待値を上げておいて体系立った分析はいっさいできなかったが、次は今回の整理を踏まえて「坂道出身者の女優業」を考えたいと思う。

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