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ことしの春ドラマは何を見よう?:「大豆田とわ子と三人の元夫」や「コントが始まる」について

2021年の春ドラマがひと通り出揃った。まだ「ドラゴン桜」や「着飾る恋には理由があって」など待機中の話題作も控えているけれど、とりあえずこれまでザッピングしてきた感想をまとめてみようと思う。

テレビ東京「珈琲いかがでしょう」:月曜23時台「ドラマプレミア23」枠

中村倫也主演の一話完結ドラマ。中村倫也演じる移動コーヒーショップの店主・青山が、花の里の女将よろしく、コーヒーを飲みに来た悩めるお客様たちを迎え入れる。毎回異なるゲスト俳優が出演し、さまざまな彩りのエピソードを展開するようだ。第一話ゲストの夏帆は、とてもきれいな人なのにオーラを消すのがうまい。本当に地味なOLに見える。しかし、残念ながら僕は第一話で脱落。このスケール感とテンポなら30分の枠で見たい。ツイッターで感想を漁る限り、中村倫也のゆったりした喋り方と声に癒される人が多いようだ。謎の青年(磯村勇斗)は青山を追いかけており、どうやら青山とは何者か?という一本の柱が物語を貫いているらしいが、特に興味は惹かれず。「コタキ兄弟と四苦八苦」ぐらいのゆるさでいいと思うんだけどなあ。妙に重いのが疲れる。

TBS「ガールガンレディ」:火曜25時台「ドラマイズム」枠

「左利きのエレン」や「荒ぶる季節の乙女どもよ。」などコンスタントに良作を送り出している「ドラマイズム」枠の新作。プラモデル作りが趣味の女子高生が、不思議なパラレルワールドに送り込まれ、ガールガンファイトに参戦するはめになる。白石聖主演の特撮ドラマと聞いて気になっていたものの、第一話の途中で挫折。テレビアニメでやるには少々古臭い設定ながら、あえて実写のオリジナル企画としてこれに挑むのは面白い。しかし、大原優乃が安っぽい衣装を着て胸を強調しているのを見て、関心を失ってしまった。正直、まじめに見るには粗いし、肩の力を抜いて見るにもモッサリしている。石井杏奈(元E-girls)や出口夏希(Seventeenモデル)など、これから売れるであろう女優さんも出ているので、いまから注目して損はないと思う。

テレビ東京「生きるとか死ぬとか父親とか」:金曜24時台「ドラマ24」枠

あまりドラマが強くないテレビ東京だけど、昔から安定してヒット作を呼ばしている「ドラマ24」。「孤独のグルメ」や「勇者ヨシヒコ」など人気シリーズも多い。今回はコラムニストにしてラジオパーソナリティのジェーン・スーの同名エッセイをドラマ化。プロデューサーはこの春に独立し、これまでバラエティ畑を歩んできた佐久間宣行が担当する。監督に山戸結希を迎えるほか、助演にヒコロヒーやDJ松永など他ジャンルの話題の人を起用、さらにはハライチ・岩井やアルコ&ピース・平子といったラジオモンスターが本人役で出演。とにかく話題に事欠かないが、ドラマとしては堅実な作り。日本中の悩めるリスナーたちが、「ジェーン・スー 相談は踊る」をモデルにしているであろうラジオ番組を聴き、まるで心のマッサージでもしてもらったかのようにほっとした表情で日常に戻っていくオープニングシークエンスは絶品。これがラジオだよなあと思わず目が潤んでしまった。

しかし、ラジオというテーマに期待しすぎてしまったがゆえに、肝心の主人公・トキコと父親とのエピソードには心惹かれず。「波よ聞いてくれ」のようにラジオを主軸にしてくれると思っていた。ほかに見たいドラマも多く、優先度が下がってしまったのは事実だ。時間足りなかったら続きは見ないかも。

フジテレビ(カンテレ)「大豆田とわ子と三人の元夫」:火曜21時台

みんな大好き坂元裕二の新作ドラマ。松たか子を主演に迎え、三人の元夫に振り回される新任社長の奮闘を描く。三人の元夫が松田龍平、角田晃広(東京03)、岡田将生、ナレーションは伊藤沙莉という豪華な座組。雰囲気が「カルテット」に近いと思ったら、同作に関わっていた元TBS社員がカンテレに転職してプロデューサーをやっているらしい。「水曜日のダウンタウン」プロデューサーの藤井健太郎がエンディング曲の監修に携わっているのも納得だ。STUTSとKID FRENSINOを起用した「Presence I」は最高だった。どうやら二話目以降はエンディング曲も変わる?らしい。どうせならPUNPEEも…と思ってしまうのは贅沢だろうか。

肝心の中身もすばらしい。いまのところ今クールでいちばん面白い。坂元裕二らしい小気味のよい会話劇は健在だが、さらに芸達者な役者陣がいきいきと暴れまわることで、びっくりするぐらい濃密でたのしいドラマになっている。かつてのトレンディドラマのルネッサンスを志向しているのだろうか、主人公たちの職業や生活環境は非常に景気がよく、映像もリッチである。近年は日本社会の経済格差や、弱い立場に置かれた人たちへの目線も欠かさなかった坂元裕二作品がここにきてアッパーミドルの生活を描くのだ。正直、どのような意図があるのかは測りかねる。もしかしたら特に意味はないのかもしれない。とにかくこの先の展開がたのしみな作品だ。

テレビ朝日「桜の塔」:木曜21時台「木曜ドラマ」枠

30年近く前から続く伝統のドラマ枠。最近だと「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」がヒット作。「相棒」みたいなドロドロの権力闘争を期待して第一話を見たが、途中で挫折。玉木宏の辛気臭い顔に一時間耐えられなかった。そもそも公務員でしかない刑事が銀座の高級クラブにふらっと遊びに行くことなどあるのだろうか。「珈琲いかがでしょう」や「生きるとか死ぬとか父親とか」を見たときにも思ったけど、僕みたいな人間をターゲットにして作っている番組ではなさそうだ。そういえば、テレ朝の刑事ドラマ自体、ふだんからそんなに見ていないし。「半沢直樹」ぐらいポップな方がいい。いまの時代、「男たちのシマ争い」はコメディで粉飾するか、ある程度批評的な視座を入れないと持たないと思うのは僕だけだろうか。

テレビ東京「私の夫は冷蔵庫に眠っている」:土曜23時台

殺して冷蔵庫に詰め込んだはずの婚約者が、なぜか翌朝何食わぬ顔で現れ…というホラー・サスペンス。主演は本仮屋ユイカ。タイトルに惹かれて鑑賞した。隣人の斉藤由貴がやたら怪しかったり、殺された婚約者にもどうやら裏があるらしかったりと、それなりに興味を引く伏線がまかれている。僕は婚約者には双子の兄弟がいて、殺したのは偽物のほうだったと睨んでいる。ながら見ながら、それなりに楽しめたので録画の枠は残しておいた。これから先に放送がはじまるドラマ次第では、続きを見ようと思っている番組だ。

日本テレビ「コントが始まる」:土曜22時台

今シーズン最注目の作品のひとつ。菅田将暉、仲野太賀、神木隆之介という同世代(1993年生まれ)の三人が、解散寸前のお笑いコンビを演じる。助演には同じく28歳の有村架純、それから中村倫也、芳根京子、「街の上で」で話題の古川琴音…と、相当気合の入ったキャスティング。第一話から見せ場盛りだくさんだったが、正直、まだドラマの輪郭が見えてこない。これはなにをゴールにドライブする話なのだろうか?いきなり解散話や結成に至るまでの経緯を描いてしまったので、これから先どうなるのか全く読めない。毎回オープニングに入るという三人のコントも、売れない芸人の「ヘタクソ」なネタという設定があるとはいえ、お笑い芸人のそれには見えない。台本のせいなのか、それとも演出によるものなのか。いまのところ期待より不安が上回っているが、大きく外すこともないだろうとも思っている。終盤の仲野太賀の泣き笑いの演技や、ラストの春斗(菅田将暉)と中浜(有村架純)のやり取りは最高だった。

キャストが「花束みたいな恋をした(菅田将暉&有村架純」や「この恋あたためますか(仲野太賀&古川琴音&中村倫也)」と被りまくっている。特にファミレスの菅田将暉と有村架純の組み合わせは、麦くんと絹ちゃんに重ねざるを得なかったが、まったく別人同士に見えるのは、ふたりの演技力あってのことだろう。菅田将暉はここでも自分の夢と社会の現実の摩擦に苦しんでいるが、こんどは仲間もたくさんいる。麦くんみたいにネクタイ締めて死んだ目でパズドラやるだけの人間にはなってほしくないと切に願っている。

これから放送される注目作

来週からスタートする期待作を最後に三本紹介しよう。

TBS日曜21時「日曜劇場」枠の「ドラゴン桜」は大注目だ。2005年放送の前作は長澤まさみや 山下智久などたくさんのスターを輩出し、その後伝説となった。今回も南沙良、鈴鹿央士、平手友梨奈など将来を期待される若手俳優たちが集結。かなりのプレッシャーを背負わされた作品だが、きっと期待を超えてくれるだろうと信じている。

ほかにはTBS火曜22時「火曜ドラマ」枠の「着飾る恋には理由があって」。「MUI404」プロデューサーの新井順子、監督の塚原あゆ子という安定の組み合わせ。主演も横浜流星と川口春奈だし、それなりに面白いのは確実だ。ただ、このシーズンはライバルが強すぎるので、その中でどの程度存在感が発揮できるのかは未知数だ。あとNHK土曜21時「土曜ドラマ」枠の「今ここにある危機とぼくの好感度について」も注目だ。「ニッポンムラ社会」がテーマのドラマらしい。時々ニュース番組よりしっかりジャーナリズムしているのがNHKドラマなので、こちらも大いに期待している。

全体を通してみると、やはり近年まれに見る豊作のシーズンであることは間違いない。まだまだしばらくのあいだは自由に外を出歩けないだろうし、せっかくおうち時間を長く過ごすのであれば、自分でお気に入りのドラマを探すのも悪くはないのではないだろうか。

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