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ペライチ小説~この男は地獄行き~

『なんで俺が地獄行きなんですか?』
『俺は良いことはそんなにしてないかもしれないですけど、悪いことも特にしていない平凡な男ですよ』
『俺が地獄行きって何かの手違いじゃないですか?』
 
必死に閻魔様に弁明しているこの男。もう地獄行きは決まっていて、覆ることはないのに納得がいかず粘りに粘っている。それもそのはず、普通の人生を普通に歩んできて、人様に顔向けできないことをした覚えのない極々普通のどこにでもいる男だ。
もしも地獄に行くことになったらどうなるのか。そこに行った者の話を聞いたことがないので分からないが、とにかく行かないで済むのなら全ての人間が行くことを拒むだろう。この男も必死さに拍車が掛かる。
 
『弁明しているこの行為が気に障ったのなら謝ります。ただ僕が地獄行きって絶対に何かの間違いだと思うんですよ』
『書類とかあるならもう一度その書類見てもらえませんか?』
『僕の名前ってありきたりなんで同姓同名の誰かと混ざっちゃった可能性もあると思うんですよ』
『知ってると思うんですけど、僕捕まったこともないですし、もちろんバレてないってことじゃなくて、法律を犯したことなんて一度もないんです。誰にも迷惑を掛けてないのに、地獄行きってあんまりじゃないですか』
『自分のことを善人だとは言わないですけど、決して地獄に行かないといけない様な人生は歩んでないと思うんですよ』
『もう一度だけ、お願いします!もう一度だけ!確認してもらえませんか?僕の一生が掛かってるんですよ』
 
特に悪いことも良いこともしていない男の地獄行きの理由はなんなのか。
それは、とにかく話が長い。歩んできた人生の中で実のない話を延々としており、聞いている側に地獄の様な思いをさせた。そしてその話がつまらない、更にしつこい。同じ話を何度もする。そんな諸々が重なって地獄行き決定。
その事にまったく気付いていない時点で罪はかなり重い。
罪を犯したわけではないが、罪にならないが故にとてつもなく重たい罪と言える。
こんな奴は地獄行き。

閻魔様『次の方どーぞー』
無機質な声が閻魔様の部屋に響いた。


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