エピソード大喜利＃74　お題：街中で芸能人に声を掛ける時、絶対喜ばれる言葉とは？

『あぁ～、疲れたぁ～』
独り言なのに大きな声が出てしまい、思わず周りを見るが、近くには誰もいないことを確認し安心する。
取引先との打ち合わせが終わり、東京タワーの近くを歩いていた。
時間は昼をとうに過ぎ、まもなく太陽はきょうの仕事を終え、姿を消す準備に入る時間だった。打ち合わせが伸びに伸びてまだ昼ごはんは食べておらず、お腹が悲鳴を上げていた。
こんな毎日が何年も続いていて、今年36歳を迎えた私は「哀しくなるから自分と向き合わない様にする」を今年のテーマに掲げていた。
 
『どこかでお腹を満たさねば…』
オフィス街ということもあり、飲食店は見当たらない。
何かファーストフード店でもあればササっとお腹に駆け込むのに…。
 
遠くに全国展開しているカフェの看板を見つけた時、思わずガッツポーズが出そうになったが、何とか堪えた。靴の音をカッカカッカと響かせながら急ぎ足でお店に向かい、自動ドアが開けて店内に入る。
見渡すとテーブルはすべて埋まっているが、カウンター席は空いていた。
2人席に1人で座って暇そうに携帯イジッてる客はとっとと帰れよ！という思いは顔だけに留めておく。
 
気持ちのこもっていない「いらっしゃいませ」の声を受け流し、カフェラテとタマゴサンドを注文した。席についてとりあえず一口齧る。ようやくお腹にものを入れることができ、自分が空腹だった事に改めて気付かされる。
一瞬でタマゴサンドは無くなったが、２０分程かけてゆっくりカフェラテを飲もう、この時間をきょう一番の幸せな時間にしようと一息つきながら窓の外を見ていると、聞いたことのある声が耳に入ってきた。
 
固まった体をほぐすという動作を利用してチラッと背後のテーブル席を見ると、テーブル席に座っている3人組の1人は何個も冠番組を持つ人気芸人で、スタッフと思しき人たちと打ち合わせをしている。実はこの芸人、私が毎朝通勤時にYouTubeを見ていて、この動画を見ることが私のやる気スイッチを押すキッカケになっているメチャクチャお世話になっている芸人なのだ。
 
『声を掛けたい、いつもありがとうございますとお礼を言いたい』
ただ打ち合わせをしている相手に声を掛けるなんて非常識なことを出来るはずもなく、体勢を戻して、視線を窓の外に映す。
疲れ切った顔が窓に映っていて、ため息が出る。打ち合わせの声が気になって気も休まらない。ここに居ても落ち着かないないし、お店を出ようと残りのカフェラテをグビッと飲み干し、席を立って、ごみ捨て場に向かうと、ちょうど向こうも打ち合わせが終わったようで、ゴミ捨て場の前で鉢合わせしてしまった。勇気を振り絞って、声を掛けた。

『あなたに逢うために生まれてきました！』