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ペライチ小説~カフェ~

郊外にある駅から歩いて5分のところにある大手チェーン店のカフェ。
先週派遣されてきた社員の方が突如来なくなってしまい本社から“また”新たな社員が送られてきた。
“また”というのは毎回我こそはという気概を持った社員が送られてくるのだが、すぐに辞めてしまい、今回で何人目なのか数えきれないぐらいだ。
過去最短の方はその日の朝に来て、夕方にはいなかった。
 
そんな中で私たちアルバイトの面々は踏ん張って店をやり繰りしている。
どんなお店かと言うと駅が近いため色んなお客さんが来るのと、一日中満席状態で慌ただしい時間が続くのと、少々不可解なことが起こる、それぐらいだ。
少々不可解なこと」いうのは・・・、また起きた。
 
きょう新たに来た社員は本社直営の店舗で業務をこなしてきた現場を知っている男性。
初日だからどんなお客様がいるのか見たいというのでレジと商品の受け渡しを担当してもらった。
『カフェモカのホットでお待ちのお客様、お待たせしました』
『出来立てのクロワッサンはいかがでしょうか』
『キノコの和風パスタセットのお客様、お待たせしました』
 
ハキハキとした声でテキパキと業務をこなし、お客さんとの会話でも自然なやり取りですぐにお店に順応していた。本社からお送り込まれて来ただけあって仕事はできるほうなのだろう。
『カフェモカのホットでお待ちのお客様、お待たせしました』
 
レジを捌きつつも隙を見て店内を歩いてテーブルを拭いたり、砂糖やミルク、紙ナプキンの補充をしたり、休むことなく頭と体を動かし続けている。
『先ほどご注文されましたカフェモカホットのお客様、お待たせしました』
 
困り顔で店内をウロウロしているお客さんや食器を片付けようとしているお客さんには積極的に声を掛けて、早く馴染もうとしていることも言動から読み取れた。
『30分程前にカフェモカのホットを頼まれたお客様、お待たせしました』
 
私は社員さんの肩を叩いて声を掛けた。
『そのホットのカフェモカはもう捨ててしまって大丈夫です。このお店、出るんですよ。きっとそのホットのカフェモカを頼まれた方はもうこのお店にはいないと思います』
社員さんは私の顔を見てからもう一度これまでよりも大きな声で店内に声を掛けた。
『カフェモカのホットでお待ちのお客様、お待たせしました』
 
混雑して賑やかな店内だが社員のあまりに大きな声掛けにお客さんが一斉にこっちを見た。しかし誰も商品を受け取りに来る人はいない。反応のない店内に対してもう一度社員の方は声を掛けようと息を吸った時、私はカウンターに置かれたカフェモカを取り、流しに捨てた。
社員は私を見たが私はすぐに先ほどまでやっていたパスタを作る作業に取り掛かった。
店内は再び喧騒を取り戻した。
 
 
 

ひとり~の小さな手~♬なにもできないけど~♬それでもみんなの手と手を合わせれば♬何かできる♪何かできる♪