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西葛西の中華料理屋で食べる硬派オムライス

 東京メトロ東西線の西葛西駅南口を降りて左手に進んですぐ、高架下に西葛西メトロセンターという、飲食店街がある。その中には商店もあるにはあるが、食べ物屋のほうが多いので、商店街というよりやはり飲食店街の趣だ。 
 駅前の繁華街の動線からはやや外れていても、ひなびているわけではなく、人通りもあってガード下の暗さはない。普段使いの、街の人たちの生活の場ならではの雰囲気なのだろう。

 初上陸の西葛西駅から仕事の打ち合わせに向かう途上でこのガード下を通り抜けたときに、気になる店を見つけた。中華料理屋の「萃寿(すいよし)」である。ちらりと店内をのぞくと、使い込まれてはいるが清潔さがわかる。昼飯はここで、と狙いを定めて打ち合わせ先へ急いだのだった。

 入店は12時を過ぎたばかりで、まだお客さんはまばら。メニューをたぐると、写真付で気になる料理が並んでいる。オリジナルらしき「タレ焼きそば」がうまそうだし、ラーメンと半チャーハンのセットも捨てがたい。しかし、目にしたとたん食べたくなったのは「オムライス」だった。
 「オムライスあるじゃん!」
 店ののれんには中華と洋食をうたっているし、いわゆる町中華のラインナップとして、オムライスを出す店はそれなりにある。それでも初見の中華屋でのチョイスとして、疑問を持たれるむきもあろう。

 中華料理屋のカレーがうまいように、中華料理屋のオムライスもうまい。しかし、オムライスでは「これ」という一皿には出会えていない。なので、見つけたら食べる……ようにしている。ちなみに、カレーは神保町の新世界菜館一択である(町中華ではないが)。

 しっかりとして破れない薄焼き卵で、ケチャップごはんが巻かれていること。中華料理屋で食べる場合に限らず、私の場合はこれがオムライスに求める第一条件である。
 卵はふんわり焼き上げたのでもなく、半熟どろどろでもない。しまりにしまった、いわば「硬派なオムライス」が好みだ。ただし、こちらに寄せてしまうと単に不出来なオムライスに当たるリスクが高まる。
 中華屋の場合は、ケチャップごはんが駄目なことがある。油の使い方が悪くて、べちゃべちゃで食べられたものではなく、時間が経つと胃には不快感しか残らない。写真ではうまそうに見える萃寿のオムライスはどうだったか……。

 果たして、これがとてもおいしかったのだ。少なくとも、私の好みど真ん中のオムライスであった。
 まず、薄焼き卵は照りっときれいに焼かれていて破れ目もなく、ケチャップごはんを包んでいる。上にかけられたケチャップの量もいい塩梅だ。
 ケチャップごはんの味付けは程よく、かけられたケチャップと卵とを一緒に食べれば至福の口中調味だ。そして、私が中華料理屋のオムライスが好きな最上の理由は、そのケチャップごはんにある。

 中華料理屋のオムライスの中身は「ケチャップ味のチャーハンであるべき」というのが私の見方で、萃寿のそれはまごうことなきそれであった。しっかりとケチャップ感がありながらも、嫌な酸味や塩辛さがない。ごはんはパラパラとほぐれ、油切れもよい。
 中華だとチャーシューを入れる店もあるが、それだと肉が主張し過ぎて、結果として全体の味が濃くなりがちだ。その点、萃寿は豚そぼろを入れている。これと玉ねぎくらいしか具は入っていないのだが、調味料はもちろんだろうが、そぼろの旨味もあってか味に奥行きがあるのだった。
 ……思い出すと、また食べたくなってしまう。

 一緒に出てきた同店の定番とおぼしき醤油ベースのもやしスープもあなどれない。なんとなくにんにくが香って、食欲が増すように感じる。付け合わせのちょっとした生野菜(レモン添え)もうれしい。

 食後はまったく胃もたれせず、萃寿のオムライスは、私に幸せな気分だけ残してくれたのだった。私の「これ」という一皿候補として、ぜひ再訪したい店となった。(了)



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