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祝来日! 再結成ブラック・クロウズはドラムがいい

 ブラック・クロウズが今年の11月に、およそ17年ぶりに日本でライブをやる! 彼らのインスタで知って、テンションが上がったのだ。そこには東京公演として立川の文字が……意外なチョイスだなと思ったが、サム・ゲンデルや坂本慎太郎が出たフェスをやったステージだ。

 各音楽ニュースやスポーツ紙にも取り上げられていた。

 クロウズは活動休止と再結成を繰り返していて、今回が3度めの再結成中となるようだ。ロビンソン兄弟以外のメンバーはそのつどラインナップが異なり、バンド活動期間中でも入れ替えがあって流動性が高い。

 どの時期のバンドサウンドがいちばん好きかは、好みが分かれるところだろう。特にリードギタリストによる差が大きいと感じる人も多いと思う。オードリー・フリードは、私も好きなギタリストだ。
 それでも、先に言ってしまうと、私は「いま現在」のラインナップがいちばん好きだ。バンド史上最高のグルーヴ、演奏ではないかと思っている。

 音楽的にもメンバー構成的にも、それまで私が好きだったのがアルバム「Before the Frost...」を出した2009年ころ。ノースミシシッピ・オールスターズのルーサー・ディッキンソンがリードギターを務めていた。スワンプ志向が強い時期で、自作への影響のみならず、ライブでは渋いカバー曲(王道のジョー・コッカー『Space captain』などだけではなく、「...Until The Freeze」では、たとえばマナサス『So many times』とか)も演奏していた。

 「Before the Frost...」もよく聴いたし、このヴェルヴェット・アンダーグラウンドのカヴァーなどとにかく最高だった。テデスキ・トラックス・バンドとの共演やクリスが客演する姿がYoutubeで見られるが、「Before the Frost...」でつかんだこのノリは、さらにジャムバンドっぽさと軽妙さが加えられて、クリス・ロビンソン・ブラザーフッド(CRB)につながっていく。それはリッチの指向性とは似て非なるものだったに違いない(クリスのマリファナ志向も嫌だったか??)。リッチはクロウズの元メンバーらと結成したマグパイ・ソリュートで来日もしているが、そのバンドや他のプロジェクトで聴かれたのは、もっとヘヴィなロックンロールだった。
 私は完全にクリスよりなので、CRBが大好きだった。ニール・カサールの死は、大変にショックだった。

https://youtu.be/il-leLROKnI

 残されたメンバーで続けられている、サークル・アラウンド・ザ・サンの演奏もYoutubeで掘って聴いているし、インスタもチェックしている。

カサール存命時代のサークル・アラウンド・ザ・サン

 さて、すでに書いたように、また本稿タイトルにもあるように、クロウズの現行ラインナップによる演奏は素晴らしい。その変化をもたらしているのが、間違いなくドラマーのブライアン・グリフィンだ。彼はインスタもやっているので、ぜひ見てほしい。

 以前のクロウズのドラマー3人はわりと突っ込みぎみのリズムで、かつ直線的に叩くプレイヤーだった。そのためか、なんとなく性急で、走ったように聴こえることもあった。
 だが、グリフィンのドラムは懐が深く、ちょっとしたバンドの揺れは吸収してくれる。そのグルーヴのしなやかさは、やわらかく動く手首の動きからも見てとれる。何よりオープンにしたハイハットの音色もきれいだ。セットされているシンバルの枚数も多めなので、シンバルの音にこだわりがあるのかもしれない。

 新作EP「1972」に入っているこういうアレンジの『Papa was a Rolling stone』は、グリフィン抜きではできなかったのではと思わせる。

 あるいは、同アルバムに収められているリトル・フィートの『Easy to slip』を聴いてみても、そのドラミングはぴったりフィットしている。ベースのスヴェン・パイピーンとの相性も抜群だ。

 上記のライヴでは「1972」の楽曲にヒット曲が組み込まれている。ローリング・ストーンズとロッド ・スチュワート(+フェイセズ)という、彼らがもっとも影響受けた音楽家のカヴァーも収められている。
 このライヴをウィスキー・ア・ゴーゴーというトポスで体験することには、幾重にもなった歴史を聴くことと同義だろう。

 クロウズはリトル・フィートのカヴァーを以前から演奏していた。どちらも渋いセレクトだ。

 それにしても、「1972」は”まんま”だ。クロウズまんまだし、原曲まんま。だが、それを両立させているのがブラック・クロウズというバンドの力だ。スタジオ版はサンセットサウンドで録音しているので、サウンド面でも1972年のヴァイブスを最新テクノロジーで蘇らせた、といったところだろう。

 件のグリフィンは、パティ・スミス、ブランディ・チャーリー、ラナ・デル・レイ、リチャード・マークスなど異なるタイプのミュージシャンのドラマーを務めてきた。もう少し詳細に共演歴を見ていくと、ロドニー・クローウェル、ウォール・フラワーズ、ドリー・パートン、ルーマー、アイヴァン・ネヴィル、アンダース・オズボーン(大好き)、ブルース・トラべラーなど、カントリーやブルースなど、いわゆるルーツ系のミュージシャンとの演奏の機会が多かった。イギー・ポップの名もある。また、ジャズやブラジル音楽の教育も受けているので、音楽的な幅は相当に広い。あのしなやかなドラミングは、こうしたバックグラウンドのたまものだったわけだ。
 このドラムが確実にバンドサウンドを変え、のびのびしたオープンな雰囲気すら醸しているように思える。

 ぜひこのラインナップで来日してくれたなら、立川まで駆け付けたいものだ。ドラムはもちろん、クリスのヴォーカル、リッチが交換しまくるギターサウンドも間近で堪能してみたい。(了)

※写真はuDiscoverMusicより

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