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電波凸爺メモリー 第二話

第二話 無音の交番

会話にならない会話が続いたので2人で交番へ向かうことになった。

家の前からエレベーターホールに向かう途中、凸爺がさっきとは違うテンションで声かけて来た。

凸爺「傘平気ですか?小雨降ってますよ」と、

確かにこの凸爺はビニール傘を持っていた。そして急な温度差の気遣いに戸惑うワイ。

ワイ「平気っす」

戸惑いを隠せず返事をした。
あぁ…きっとこの人は実は真面目でいい人で、ほんの何かの勘違いで凸爺化してしまったんだな…話せばわかってくれる…うん。
少しの希望を感じエレベーターホールの前に着いたその瞬間、

凸爺「私はね!やめてくれればそれでいいの!今ここでみんな呼びます!?」

と急に叫んだ。

希望は絶望に瞬時に変わり、少しの優しさという名の隙を見せた自分自身を恥んだ。

ワイ「あなたが警察に行くと言ったんで、大人しく交番いきましょう」

マンションから交番は運よく?徒歩3分位の距離にある。

なので交番にはすぐ着くはずなのに、左後ろからブツブツと凸爺のマスクと厚いメガネでこもった声が、まるで呪文の様に首周りに絡みつき交番を遠ざける。
舞い散る霧雨でその声を洗い流し、信号の無い道を進んだ。

交番に入ると大きくパトロール中の看板が出ていた。

凸爺「駅前のに行きましょう。私は構いませんよ」

何がどう構いませんのか知らないがシカトして交番の中の電話をとり、警察へ繋いだ。

警察「はい。どうされました?」

ワイ「夜分遅くすみません。簡単に言うと近所のマンションで隣人トラブルがありまして、今張本人と2人でこちらの交番へ来てます。ここの交番の方を呼んでくれませんでしょうか?」

警察「10分ほどで向かわせます。お待ち下さい。」

電話は切れ、ここでワイはマンションを出てから初めて凸爺に話しかける。

ワイ「10分程で来るそうです」

ワイは心の中で思う。(10分…長ぇぇぇー!正直こんな意味不ジジイと個室にいたくねぇ〜っ!)

そこでワイは起こされてからここに来るまで興奮もあり喉がカラカラだった。幸い20メートル位離れた場所に自動販売機があったので、水を買いに行こうと外に出た。

凸爺「逃げるんですか?逃げるんですね!?」

ブチギレても体力の無駄だ。冷静に答える。

ワイ「水買いに行くだけです」

しかし返ってくるフレーズは2行上と同じだった。

ワイ「うるせぇな。じゃあ俺が水買ってる所ずっと見てろよ」

初めて乱暴なフレーズがでたなぁと思いながら自動販売機まで歩きいろはすを買った。
同じゾーンで水を飲みたくなかったので1/3は自動販売機の前で飲んだ。キンキンに冷えてやがった。

喉をうるわせ交番に戻ると急に鼻が効いて来た。
なんだこの匂い…あぁ…あれだ爺さんとかのタンスの匂い。
あの独特なすえた臭い。もちろん発信者は凸爺だ。

自然と口呼吸に変える。

そして凸爺を明るい場所でなんとなく見てみた。

年は60代、分厚いメガネと不織布のマスク。白髪混じりの髪。見た目は普通の引退サラリーマン風。
グレーのフィールドコアのジャケットとグレーのパンツ、そして多分ニューバランスの1400(だと思う)。なんで割といい靴履いてんだよ!と思った矢先自分のiPhoneが震えた。

iPhoneをポケットから出しロックを外したとき、またも凸爺は急に喋り出す。

凸爺「またそんな物をだして!あれでしょ!ライブ配信とかして切り抜いて私を悪者にするんでしょう!」

ワイ「や、あの仕事のLINEです」

凸爺「こんな時にそんな物で仕事なんてできる訳ないでしょ!なんですかこんな時に仕事って!」

ワイ「すみません。あの、黙ってもらっていいですか?俺喋りたくないんで」

凸爺「あなたが喋って来てるんでしょう!」

ワイ「あーじゃあお望み通り動画撮りますね」

そうしてiPhoneを向けると急に身を乗り出し手でスマホを遮り体を押して来た。

ムカつくと言うより正直iPhoneを触られたくなかったので普通に振り払った(※ここのリアル動画あり)

ワイ「わかったよ。ほら、もう撮ってないから安心しろよ」

凸爺「そーやって切り取って都合のいいようにするんだろ」

そんなこんなしてると警察官がやって来た。

10分もかかっていなかったと思うがかなり長い時間に感じた。

つづく

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