見出し画像

電波凸爺メモリー 第三話

第三話 ハイメガキャノン

警察官が自転車でやって来た。

警察官は30代半ばといった所だろうか、雫の溜まった透明のカッパを脱ぎ机の内側へ入る。
内容の全く知らない警察官がバインダーを手に取り内容を聞くスタンスに入る。

警察官「え〜っと…」

ワイと凸爺を交互に見る。
この雰囲気だと第一印象からのイメージは湧きにくいだろう。
とりあえず先行のヴァースは俺からいく。

ワイ「あ、先ほどこちらの電話で連絡した味沢と申します。パトロール中にすみません。先ほど深夜にこちらの方がいきなりピンポン連打とドアドンをされまして、オタクのところから電波が出てるから止めろと。それでラチが開かないのでこちらに来たと言う一連の流れとなってます。」

警察「…なるほど。すみませんそのマンションはどちらに〜」

ワイはマンションの住所や名前、電話番号など個人情報を警察官に伝えた。

警察「そちらの方もいいでしょうか…?」

凸爺は住所と名前を答えた。住所は当たり前にワイと同じだった。
とりあえず個人情報を得た警察官は質問を続ける。

警察官「…それでどーいった内容でしょう?」

や、だからさっき言ったじゃんと思ったが、俺は何度でも言う。

ワイ「さっき俺の家にこの人が夜中ピンポンとドアドンドンして、お前んとこになんかだか電波が出てるからやめろ!と急に言われ、訳わからないので交番で話を聞こうと言う事になりました」

警察官「…なるほど。そちらの方はこの内容でここに来られたと言う事で間違いないですか?」

警察官は電波の単語が出てもまだ中立な雰囲気だ。すると凸爺が食い気味に答える。

凸爺「全然違います(キッパリ)」

ワイ&警察官「え?」

凸爺「まずですね、この人が言った電波と言うのは低周波です。高周波ではありません。」

警察官「あ、あぁ、はい…それで?」

凸爺「その低周波がもう私の頭と耳にギーンと響いて寝れないんです。何度も何度も言ったんですが全然やめてくれないし、今日はもう特に酷くて直接言いに言ったんです。私はその装置を止めてくれればそれでいいんです!」

警察官「なるほど…何度も注意と…」

警察官はバインダーに情報を簡素化して鉛筆で書いていく。

警察官「え〜何度も注意って事は味沢さんは凸爺さんとは…」

ワイ「今日初めて会いました(キッパリ)」

警察官「え?」

今度は俺が食い気味に返す。

ワイ「俺としては高周波だろうが低周波だろうが特殊な電波だろうが、そんな人体に影響を及ばす機械は持ってないし出してもいない。何度も何度も言ったとおっしゃってますが、この人とはさっき初めて会いました。いきなり夜中に突撃してきたんです。しかもこの人は4階で俺は2階。仮にその低周波が出てたとしてもまず3階とか5階の上下を疑いません?なんで1つ階を飛ばして俺んとこに?全てがおかしいでしょ?」

そう。俺が住んでるのは2階の2××で、その真上の3××があり、さらにその真上の4××にこの凸爺が住んでいる。

警察官「え、あ、味沢さんの真上に凸爺さんがお住まいでは無く、間の階があってその上に凸爺さんがお住まいなんですね」

ワイ「そっす。」

警察官「凸爺さんは確実に味沢さんの部屋からその低周波が出てるという確信はあるんですか?」

凸爺「それはもちろんです。3階を通り越して私の部屋に真っ直ぐ、まーっすぐ突き抜けて下から低周波が来てるんですよ。しかも3階は空き部屋なので3階には誰も住んでない。だから2階から出てるのは間違いない」

俺は3階が空き部屋なのは知らないし、そもそもなんで空き部屋だと知ってるのかも恐怖だが、どうやら下から突き抜けてくる位の強烈な低周波を感じているらしい。
まるでハイメガキャノンだな。
すまんな凸爺。凸爺は話を続ける。

凸爺「私が下に向かってやめろーって床をノックすると止めるんです。で、またしばらくして鳴るんですよね。そしたらまた私がやめろー!って言うと治るんです。でも今日は言っても言っても全然鳴り止まなくて。私はその装置を止めてくれさえすればいいんです!」

警察官「…なるほど。大体わかりました。ではどうしたら解決しますかね?私がその低周波の装置を見つけてスイッチを切るとか装置を回収すればいいですか?凸爺さんはその耳に響く音が止まればいいんですよね?」

少し老人を宥めるような優しい言い方で警察官は凸爺にそう言った。

警察官はずっと中立な立場かと思っていたが、最初の「電波」のフレーズを聞いてからずっと「俺より」だったらしい。そりゃそうだ。
この手の事件は珍しくはないだろう。

凸爺「行ったって無駄ですよ。隠しますから。警察官が帰った後にまた鳴らすんですよ。そうやって今までやってきてますからね!」

そこで俺はじめて警察官と目が合い無言でこう感じた。

お互い大変ですね

と。

そして3人で俺の部屋に向かう。

つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?