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電波凸爺メモリー 第四話

第四話 暖かくなる

警察官と目があった時また俺のiPhoneが震えた。
反射でiPhoneをポケットから出すと凸爺がまた叫ぶ。

凸爺「ほら!見てくださいよ!またこの人はあの機械でライブ配信始めてますよ!あぁやっていい所だけ切り抜いてライブ配信するんですよ!」

どうやら凸爺はスマホを見ると反射で叫び出すアレルギーがあるらしい。
画面にはLINEの通知が見えたがすぐポケットにしまった。
ポケットにしまったのにも関わらず凸爺のアレルギーは治らない。

凸爺「ねぇ!ほら!ライブ配信をやめさせて下さいよ!いい所だけ切り取ってライブ配信されますよ!」

いい所だけ切り取ったライブ配信。

それってつまり生に見せかけた収録番組の事だなぁ昔のTV番組によくあったなぁ〜と何故だかポカァーンと思った。

俺の呑気感とは逆にボリュームが上がってきた凸爺に警察官は冷静に言う。

警察官「落ち着いて下さい凸爺さん。ライブ配信は行われてないと思いますよ。スマホしまってるじゃないですか。とにかく問題の解決の為に味沢さんの部屋に行って確認します。味沢さんそれで平気でしょうか?」

ワイ「もちろん問題ありません。」

凸爺を家に入れるのはハッキリと明確な感情で「死ぬ程嫌」だが、こればっかしは仕方ない。
感情は捨てよう。

そして3人で交番を出て、マンションへ向かう。深夜0時半。
オレンジの街灯に霧雨が光る。
歩き出して数十m。

自然と俺と警察官が2人で並んで、その数m後ろに凸爺がついて来る形になった。俺は警察官と小話をはじめる。

ワイ「なんかすみません。こんな夜中に。」
警察官「いえ…。」
ワイ「今日は昼暖かったですね。もう春が来た感じでしたね。」
警察官「そうですね。」
ワイ「…まぁ暖かくなると…増えますからね。色んな人が…」
警察官「…。」

世間話にもなってない会話をしているとマンションの入り口付近までやって来た。
オートロックの鍵を外しエレベーターホールへ。
特に何も言わずいつも通りエレベーターすぐ横の階段で2階へ上がる。

2階に着くと凸爺は何故かさらに上に行こうとした。

ワイ「え、凸爺さん!確認しに行かないのですか?」

凸爺「私は部屋で待ってます。終わったら警察の方は報告しに来てください。」

そう言うとそのまま階段を上がって行った。

警察官とまた目が合う。

ワイ「…どうします?一応部屋来ます?」

警察官「…はい。行きましょう」

そう言うと廊下を少し歩き俺の部屋の前に着くと、上に行った凸爺を気にしながら少しボリュームを落として俺に言う

警察官「本当はそもそも家の中に入る気はなかったんです。」

ワイ「え?」

廊下だと他の部屋の人に迷惑なので家のドアを開け玄関まで入ってもらった。

ワイ「一応の一応部屋入ります?」
俺は来客用のスリッパを出しながら言うと、

警察官「いえいえ、ここで結構です。お気遣い感謝致します」
と玄関に留まった。

警察官「実際あの手の人は何言っても通じないですからね…」

警察官は凸爺の言いがかりなのは早めに勘付いていたらしい。やはりこの手の問題は割とあるので経験と警察の感ですぐ察したとの事。
そして警察としては何か傷害などの事件性がない限り民事には介入できないので、注意しかできず申し訳ない。これが続くようでしたら遠慮無く110か交番の方へ電話して下さいと。

警察官「さっき味沢さんが言ってた暖かくなると変な人が増えるってのはあながち間違いではないですよね…では異常はなかった事を凸爺さんに報告して戻ります。夜分遅く失礼致しました」

変な人とまでは言ってないけどな…そう思いながらも、俺も警察官に感謝と一礼をして送り出した。

バタン。

ドアが閉まるといつもの静けさが辺りを包む。
時刻は間もなく深夜1時。
突撃されてから約1時間しか経っていないが、濃厚な1時間だった。
しかしまだ根本的な解決にはなっていない。
これから始まるであろう凸爺とのストーリー。
こんな嬉しくない物語のスタートはあっただろうか。

もう一度シャワーを浴びて布団に入ったが、興奮のせいか寝たのは多分深夜3時前だと思う。

そして空が明るくなって来た頃、
玄関のドアの向こうで音がして目が覚めた。

つづく

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