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電波凸爺メモリー 第五話

第五話 酒屋のおっちゃん

時刻は朝の5時57分。眠りが浅い。体のダルさは寝不足もあるだろう。玄関の扉の奥から足音のような音で目を覚ました。

…まさかな。さっきのさっきだぜ。

1人寝起きで呟き、玄関のドアスコープを覗くと凸爺がウロウロしていた。

ワイ「マジかよ…」

ダルさは瞬時に倍増した。

15秒ほど見ていたが、手を後ろに組みわざと足音を立てるようにパタパタ…パタパタと行ったり来たりしていた。

俺は一応凸爺にぶつからないタイミングで思いっきりドアを開けてまさに開口1番叫んだ。

ワイ「おい!ジジイ!何してんだよ!!」

凸爺はビクッとしたが冷静を装い俺に言う

凸爺「はい?いや、ただ私は歩いてるだけですよ?何か問題でも?」

凸爺は昨日、いや…さっきと同じグレーの洋服とまだビニール傘を持っていた。

ワイ「気持ち悪いからやめろよ!マジで!!」

凸爺は動きをやめず呟く

凸爺「そっちがその気ならこっちだって…そっちがその気ならこっちだって…」

凸爺の恐怖は朝日に照らされても倍増していた。

俺はドアの間からiPhoneで動画を撮り始める。
すると凸爺は素早い動きでiPhoneを取り上げようとしてくる。

昨日は遠慮したが、力ずくで動画を撮り続けると凸爺はビニール傘でアタックしてくる。
その瞬間昨日の警察官の言葉を思い出した。
このままいけば傷害になるかも。
俺はわざとらしくそして大袈裟に言う。

ワイ「いてぇ!いてぇ!やめてください!いてぇ!指折れちまうよ!!」

凸爺はその言葉が効いたのか、まるでドラクエばりに逃げて行った。

これじゃあ傷害にはならないけど、なんらかの素材にはなるだろうなとiPhoneをみると、ジジイの素早い対応で画面をタッチしてしまったのか、動画はうまく撮れていなかった。

ワイ「チィィ…」

しかし今あった事を第三者に伝えておく必要があると思い、人生で数回目であろう110番をかけた。

警察「はい警察です。事件ですが?事故ですか?」

昨日の事と今起こった事を簡素化して伝える。そしてとりあえず警官を1人こちらに向かわせるとの事で顔を洗い歯を磨いた。

ちょうど歯を磨き終わった頃インターホンがなる。

ワイ「はい。」
警察官「警察です」
ワイ「開けます」

オートロックを開け警察官が部屋までやって来た。
昨日の警察官ではなく50代のガタイのいい警察官がジャンパーを羽織っている。

昨日と同じく玄関まで入ってもらい会話がスタートした。

警察官「え〜110番されたのは〜?」
ワイ「あ、俺っす。」
警察官「すみませんが、一応身分証確認させてもらっていいですか?」

俺は免許証を出した。

そしてバインダーでメモをとりながら身分を確認して警察官は続ける。

警察官「その玄関をウロウロしていた方は…?」
ワイ「あ、もう上に多分戻ったかもしれませんね。」
警察官「その時お怪我はありませんでしたか?」
ワイ「怪我っていう怪我はないですね。」

iPhoneわざと落とすとか、爪剥ぐとかしとけばよかったなぁと思いながら警察官はひとしきりメモを書いてから俺に言う。

警察官「えっとですね。わたくしこの近くの交番から来ておりまして昨夜の件はしっかりと引き継ぎして内容は確認しております。昨日も言ったかと思いますが事件にならない限り注意だけとなります…」

ワイ「はい。それはわかってます。でも今起こった事を誰かしらに伝えておいた方がいいと思ったので110番させてもらいました。」

警察官「はい。その行動は間違いありません。全部記録に残りますから大事な事だと思います…。」

こんな会話をした後に警察官が少し会話のリズムを変えた。

警察官「俺はね。こーゆー意味わからない奴が大っ嫌れーなんすよね。家って1番心が安らげる場所じゃないっすか?そこをね、深夜とかましてや連続して早朝なんかに来て、嫌がらせされちゃーたまったもんじゃない。」

急になんか近所の酒屋のおっちゃんみたいな人情味溢れるフレーズに変わったので俺は少し安心した。

ワイ「そーなんすよ。俺も連続はちょっとやばいんじゃないかって思ってます」

警察官「今度来たらドアから出なくていいですからね。こうなると本当にいつ何をして来るかわからないですから。来たらすぐ110番して下さい。」

なんかされた方が解決しそうだけどなぁ〜、と思いながらもその言葉には少しの勇気をもらえた。

さすが酒屋のおっちゃん。
フローが熱い。染みたぜ。

警察官「んで、今から一応その上の人注意しに行きます?人によっちゃぁ逆効果の場合もあるから味沢さんが行けって言えば注意しに行きますけど」

ワイ「うーん。どう思います?」

警察官「今のパターンだと、もしかしたらだけど注意はしない方がいいかもね。興奮状態だとは思うし、そこまで被害がないならこのまま様子見でもいいかもしれませんね。通報があった事や私がここに来たのは記録に残りますし。」

ワイ「わかりました。では今回は注意はせずこのままで問題ありません。またこの事件は大家さんにも管理会社にもまだ言ってませんので、今日連絡してみます。」

そして警察官から昨日あの後起きた事を聞かされて俺は驚愕した。

つづく

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