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『研究の再現性を高めるための事前登録の実際』チュートリアル・セミナーに登壇しました:話題提供スライドの公開,振り返りコメントの共有

2022年8月~9月にかけてオンライン開催された「日本教育心理学会第64回総会」で,学会企画チュートリアル・セミナー『研究の再現性を高めるための事前登録の実際』に登壇しました!


話題提供スライドの公開

セミナーで用いた話題提供スライドを公開しますので,ぜひご覧ください。


セミナーの振り返りコメント

セミナーが終わってからかれこれ3か月,振り返ってみていろいろと思うことがあったので,気ままに書き記してみます。「スライド資料に書いた内容とはまた別に思ったこと」を中心に書きます。

「心理学を半歩ずつ良くしていく」という姿勢が重要なんだ

本セミナー内で言及されていた「再現性の危機 (replication crisis)」をはじめとして,現代の心理学では様々な「危機」が叫ばれています (個人的に一番なるほどと思うのは「理論の危機 (theory crisis)」)。それらの「危機」をどの程度深刻に捉えるかは人それぞれですが,「確かに心理学の研究ってあやふやだな」という実感をもったことのある心理学者はきっと山ほどいると思います。

僕自身は,心理学の「危機」を扱った論文やシンポ等に触れるたび,「このあやふやな心理学を良くするために自分は何ができるだろう?きっと何もできないな」と思ってきました。諦めや無力感というよりは,「割り切り」という言葉が一番近い心境だったと思います。ちっぽけな自分が「危機」に対してできることは何もございません,自分の手に負えることを粛々とがんばります・・・と。

そんな自分が何のご縁か,「再現性の危機に対処できるよう,プレレジをちゃんと知ろう」という方向性のセミナーにお呼ばれしたというのは,なんだか不思議なことです。セミナー本番も,「プレレジをやったからって再現性は担保されない。でもプレレジするといろいろ良いことがあるから,やっといた方がいい」という形で,企画主旨に合っているかはともかくマイペースにやらせていただきました。一緒に登壇した先生方には,そのマイペースさを受容してくださり,感謝感謝です。

そのスタンスで発表し,他の先生の発表に耳を傾けている中で,ふと「ああ,みんな『少しでも研究を良くしよう』と願って試行錯誤しているんだなあ」ということに気づきました。結局,何をどこまで頑張れば再現可能な結果が得られるかとか,再現可能な結果が得られるのが「本当の意味で良い研究」なのかとか,誰にもわからないわけです。それでもなお,半歩でも研究を良くしようとプレレジに手を出し,プレレジした先で生じた不具合に対処して汗をかき,そのプロセスをめちゃくちゃ楽しそうに語る・・・そうした先生方の姿に希望を見た思いでした。

いま僕の思っていることを,2段落前に書いた文章を改変して表現してみます。「プレレジをやったからって,再現性は『完全には』担保されない。でも,『再現性があるかないか』を『0か100か』で考えることはないんじゃないか。自分の研究を半歩良くしようと努力したら,『再現可能性につながる要素』はきっと増えていく。そうした努力を積み重ねれば,『心理学研究全体の再現可能性』も少しは向上するかもしれない。心理学を半歩ずつ良くしていくという意識で,多くの人が少しずつ新しいことにチャレンジしてくれると嬉しい」


「業績にならないけど発信しておく」って大事なことなんだなあ

セミナーを企画した村井先生たちに,樫原を呼んだきっかけを尋ね損ねていました・・・。過去に「プレレジやってみたらこんなだったよ」という文章を気ままに発信しており,それが直接的なり間接的なり影響して,呼んでいただけたのかなと想像しています。

こういうnote記事そのものは正式な業績にならないけれど,自分の思考の整理には役立ち,クリアな頭で次の研究に臨みやすくなります。また,誰かの目に留まれば,「あの人があのテーマについて何か言ってたから呼んでみよう」ということで,正式な業績の機会につながるかもしれません。その先に様々な気づきもきっとあります。

それぞれ研究活動に励む中で,日々たくさんのことを実感していると思います。「研究者という生き物」や「他でもないあなた」がどんなことを考えているのか,知りたい人って意外と多いんじゃないかな。ぜひぜひ,片手間でいいので表現してみてほしいです (僕自身も,この記事を「授業資料でも作ろうと思ったけど気が乗らないや~」という理由で片手間で書いています)。表現しないことには,伝わらないのでね。


学会のセミナーやシンポって,ジェンダーバランスえぐくないか?

私がお呼ばれした教心総会2022の登壇者リストは,リンク先の3ページ目で確認できます。

https://www.edupsych.jp/wp-content/uploads/2022/08/f3cd704775be14253bc07ae5e5ca9306.pdf

いやほんと,このメンバーの学会企画に呼んでいただけるってすごく嬉しかったです。尊敬する先生方に囲まれて,沢山やり取りさせていただいてね。

光栄だったんですけれど・・・。間をおいて冷静に振り返ってみると,登壇者7名が全員男性って,ジェンダーバランスえぐいなという思いがしました。このセミナーには,内容に興味をもった人が登壇者とオンラインで直接やり取りできる「アフタートークセッション」というのもありましたが,その場でご発言いただいた先生方もみな男性の先生方だったかと。

誤解のないように強調しておくと,このセミナーがピンポイントで偏っていたとかではないんです。心理学全体のあるあるだと思っています。また,このシンポに登壇した先生方は1人1人適任で,素晴らしい研究者だと思っています。

ただ,あえて雑な言い方をすると,遠目には「おっさんたちの,おっさんたちによる,おっさんたちのためのセミナー」という体裁になっていたのは事実なのかなあと (僕も34歳になったので,「おっさんたち」の立派な構成要員です)。アカデミックな刺激の多いセミナーだったけれど,もしかしたらそれは「価値観の偏りを含んだセミナー」だったかもしれません。また,「なんかおっさんだらけで発言がためらわれる・・・」とか感じた方もいたかもしれません。

別に,「女性を増やせば,価値観が多様化して創造的な企画になるはず」という安易なことを言いたいわけではないです。ただ,やっぱりバランスが極端だと違和感は覚えるし,「男性だらけの学会企画」という形式が意図せぬ暗黙のメッセージを放っていないか,一度考えてみても良いと思うのです。

研究をやっていく上で,ジェンダーバランスについては,半歩ずつでも良い方向に転ぶよう努力してみたいと思います。「心理ネットワークアプローチですでに有名な人って,日本だと男性ばっかりなんだよな~」とか頭の痛い事情もあって,僕自身も「男性ばかりのセミナー,シンポ」を企画することもこの先あると思いますが,長い時間をかけてでも変えていきたいなと。特に,臨床心理学そのものが,女性比率の圧倒的に大きい分野ですからね。「臨床心理学の,ごく限られた一群」だけで盛り上がるのではなくて,沢山の人に面白がってもらえるように,少しずつ努力したいと思います。


最後にちょっと宣伝

私が登壇したチュートリアル・セミナー『研究の再現性を高めるための事前登録の実際』を論文化したものが,2022年度の『教育心理学年報』に掲載される予定です。

このnote記事を執筆している2022年12月時点で原稿の校正が始まっていないので,刊行はだいぶ先になると思いますが,気長にお待ちいただけると幸いです。より多くの人に届きますように。


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