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【マルタの猫スポット】ある猫スポットの発展とその後

noteでは何度も言っていますが、私は地中海の島国マルタが大好きです。

マルタはかつて留学していた思い出の地であるからと、猫天国だからです。

マルタには、旅行者でも訪ねやすい猫スポットが多く存在しています。

そもそも猫スポットとは、どうやってできるのでしょうか。

おそらくは特定の場所に集まって来た猫たちを、地域の人やボランティアさんが世話するようになり、より多くの猫たちが寄って来て、より大きなコミュニティーになって行くのだと思います。

今この瞬間も、世界のどこかで無数の猫スポットが誕生しているかもしれません(笑)

そして時に、その猫スポットは大きく発展し、より大きな注目を集めるようになる。

一方、何らかの事情で衰退し、消滅していく猫スポットもあるかもしれません。

今回は、私が見てきたマルタのある猫スポットの顛末について語りたいと思います。



カジノからの帰り道で

その猫スポットを初めて見たのは、留学中のことでした。
そう、今から20年以上前のことです(笑)

ある時私は、語学学校の日本人女性の友達と、セントジュリアンのカジノへ行くことになりました。

彼女の滞在先のホストファーザーがカジノで働いていて、一度遊びに来るよう言われていたのです。

私たちは週末の夜、高級ホテルの中にあるそのカジノを訪ね、束の間の豪遊を楽しみました(笑)
(ちなみにこの時、スロットでちょっとだけ勝った記憶があります)

程々に遊んでカジノを出た私たちは(ギャンブルは程々にしましょう笑)、セントジュリアンの夜道を散歩しながら帰ってきましたが、その途中妙なものを見つけました。

暗い道端の植え込みの中に、手作り感満載の小さな小屋がいくつか並んでいたのです。

そしてそこには、cat village と書かれているのが見てとれました。

よく見ると植え込み内には猫皿が置かれていて、小屋からは何匹かの猫が顔を出しています。

その名の通り、ここは地域猫たちの住むコミュニティーだったのです。

一体誰がこんなものを造ったんだろう?

私たちは珍しがって、記念写真を撮りました。

キャットビレッジ
住猫の姿が見て取れる


後で知りましたが、キャットビレッジは地元の人が自費で造った保護猫施設だったそうです。

公共の場所の植え込みの中に手作り感満載の保護猫施設を造ってしまうなんて、自由で猫愛の国マルタらしくて微笑ましいです(笑)

進化したキャットビレッジ

マルタ留学から十数年経ったある時のこと...…

私は、マルタの猫について取り上げた、日本のあるTV番組を観ていました。

その中でセントジュリアンのキャットビレッジを紹介していたのですが、映像を見ておったまげました。

初めて見たときの簡素なキャットビレッジからは想像がつかないほど、ド派手に進化していたからです。

小屋の数は増え、より多くの猫皿や猫ベッドが並べられ、猫のためのたくさんのおもちゃやぬいぐるみが植え込みいっぱいに置かれていました。

まるで、童話の世界に登場する子供部屋です。

十数年の年月で、これほど大きく発展するとは。

これは実際に訪れて見てみたいと思い、次のマルタ訪問の機会にキャットビレッジを再訪しました。

2018年1月のことでした。

キャットビレッジへようこそ
これが進化を遂げたキャットビレッジ
このスペースには常時何匹かの猫の姿が見られる


ホテルもキャットビレッジから徒歩5分程度の、「ロクナ・ホテル」を取りました。
(2024年現在閉館済み)
これで滞在中は、いつでも好きな時にキャットビレッジを見に行けます(笑)

キャットビレッジは、ロクナ・ホテルからスピノーラ湾に向かって坂を下りてくる途中にありました。

スピノーラ湾の海に続く坂道
この先にキャットビレッジがある
あの猫もキャットビレッジの住猫か?


その坂道を下って、キャットビレッジを目指していたときのことです。

別の方向から、一人のスレンダーな女性がやってきました。

女性はカメラを抱えた私と目が合うと、
「向こうにおもしろいものがあるわよ」
と声をかけてくれました。

ああ、この女性も目的地は一緒だな?とピンときました(笑)

女性は、キャットフードの大袋を小脇に抱えていました。

そしてキャットビレッジに着くと、キャットフードの袋を開け、その場に置いてあった猫皿に出してあげました。

猫たちにキャットフードを与える女性


私は女性に、
「いつもここで、猫にごはんをあげているんですか?」
と訊いてみました。
 
すると彼女は、
「いいえ、私はツーリストよ。今日はたまたまキャットフードを持って来ただけ」
と答えました。
 
地元の人が、定期的にキャットビレッジに給餌に来ているのかと思ったけど、違いました。

さらに女性は、
「寄付はいつでも歓迎されているみたいよ」
と言って、スペースの中の一角を指さしました。

するとそこには募金箱が設置されていて、「寄付と食べ物をありがとうございます」と書かれた紙が貼り付けられています。 
その脇には、猫に与えてよい食べ物・悪い食べ物を記した注意書も置かれていました。

キャットビレッジにあった、猫の食べ物に関する注意書


女性はやがて、残ったキャットフードの袋の口を閉め、脇に置いて去っていきました。

私は、キャットビレッジがなぜ大きな進化と発展を遂げたのかわかった気がしました。

キャットビレッジの知名度を上げ、募金箱と貼り紙を設置し、誰もが寄附や猫の世話を気軽にできるようにしていたのです。

その結果、キャットビレッジの創設者を始めとする地元の人ばかりか、彼女のような通りすがりのツーリストも、猫のためのちょっとした協力をして行くようになる。

みんなの猫愛に支えられ、猫たちが不自由なく暮らし、キャットビレッジはここまで大きくなったに違いありません。

私は現金払いのたびに増え、財布の中で持て余していた釣銭のコインを、キャットビレッジの募金箱に入れてその場を後にしました。

立派になったキャットビレッジ


キャットビレッジのその後

次のマルタ訪問は、コロナ後の2023年1月となりました。

その旅行の終盤、スリーマに滞在した私は、最終日に隣町のセントジュリアンを訪れてみることにしました。

セントジュリアンといえば、もちろんキャットビレッジは外せません。

前日の夜、キャットビレッジの場所を確認しておこうと、ホテルの部屋でGoogleマップの検索を開始しました。

早速、キャットビレッジの地図と一連の情報が出て来ましたが、それを見た私は目を疑いました。

なんと、赤字でくっきり、「閉鎖」の文字が書かれています!

えっ、どういうこと?!

キャットビレッジは屋外に設置された保護猫施設。
それが「閉鎖」って何?

慌てた私はインターネットを駆使し、地元のサイト等から情報をかき集め、リサーチを開始しました。

するとキャットビレッジは、2021年にセントジュリアンの再開発に伴い、取り壊されたらしいことがわかりました。

じゃあ、今現場はどうなっているの?

あの場にいた猫たちは……?

そう思うと、たとえ「閉鎖」と聞かされてもその場を見ずにはいられず、予定通り翌日にセントジュリアンに行ってみることにしました。

この日、やたら波が高かったスピノーラ湾
キャットビレッジは湾から坂を上った途中にあったはずだが……


スピノーラ湾から私は、記憶を頼りにキャットビレッジのあった坂に向かいました。

当時滞在した「ロクナ・ホテル」は既に閉館していますが、その周辺にはヒルトン・マルタの広大な敷地があったはず。

ヒルトン・マルタの方向へ向かって上り坂を来る途中、見覚えのある小道に差し掛かりました。

キャットビレッジはこの道の角の植え込みにあったはずですが、今は植え込みなどどこにもありません。

ああ、やっぱりあの場所は取り壊されてしまったんだ……

一抹の寂しさとともに、自分の目で現状を確かめたことによる納得感が湧き出てきて、潔くその場を立ち去ろうと思いました。

が、そのとき、同じ道の旧キャットビレッジから数メートル先に、「妙なもの」を目にしたのです。

それは……

キャットビレッジと同じように、植え込みにぬいぐるみや小屋が置かれている
これは明らかに猫皿と猫ハウス!


そして足元を見ると……


植え込みの前の道を、1匹のキジ猫が歩いてきた


また、植え込みの中にも1匹の猫がいました。


植え込みの中の白黒猫
このあと、石垣を上って去って行った


なんと、キャットビレッジのあったすぐ近くに、新たな猫コミュニティーができていたようです。

そしてこの子たちは、新コミュニティーの住猫でしょう。

植え込みには旧キャットビレッジ同様、募金箱も置かれていて、猫への寄付とケアを呼びかける文言が書かれていました。

植え込みの募金箱
一番上に書かれた「彼らに家はありません。でもまだ彼らは生きているのです」の文言にグッとくる


これは私の想像ですが、行政の意向で旧キャットビレッジが取り壊されたあと、地元の愛猫家のせめてもの抵抗で、同じ通りに新たな地域猫のためのコミュニティーが造られたのではないでしょうか。

おそらく旧キャットビレッジの住猫たちは、そのほとんどが里親に引き取られるなり他の施設に移されるなりして、保護されたんだと思います。

そして残った猫たちが、今もこの地で人々のケアを受けながら、細々と暮らしているのでしょう。

この場を見て私は、旧キャットビレッジは消滅したものの、人々の猫愛は今もしっかり受け継がれているのだと確信しました。

私は以前と同様に、財布から小銭を取り出し、募金箱に投入してその場を立ち去りました。

今はまだ小規模な新コミュニティーですが、かつてのキャットビレッジのように、また年月をかけて発展していくかもしれません。

数年後、どうなっているか楽しみです(笑)



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