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【マルタの猫】古都ムディーナのキジ猫の思い出

猫好きな人は、旅先でも猫の写真を撮ったり、猫との出逢いを求めたりするかと思いますが、時にはすごく印象深くて、忘れられない猫に出逢うことがないでしょうか?

今日は、私がマルタ留学中に出逢ったある猫の思い出について語りたいと思います。

そう、もう二十年以上も前のことです。

これだけ長い年月が経ったのに、その子のことは今でもよく憶えていますし、ちょっとした後日談的な「オチ」がありました。

そんな私の思い出話に付き合っていただけると幸いです。



ムディーナにて

ムディーナは、バレッタが建設される前、マルタの首都だった街です。

マルタ島のほぼ中央に位置し、堅固な城壁で囲まれた中世都市です。
バレッタからは#51~53のバスで、25分程度で訪れることができます。

遷都後、ムディーナは人が流出し、「静寂の街(サイレント・シティー)」と呼ばれるようになりました。

そんな静かな古都は、私の大好きな街の一つです。

堅固なムディーナのシティーゲート
(撮影は2023年)
逆光になってしまったが、ムディーナの歴史的建築物・聖パウロ大聖堂
ムディーナの周辺はのどかな田園地帯
二十数年前から変わらぬ景色
同じくムディーナ周辺の田園風景
旧市街メイン通り

留学中のその日も、私はムディーナに一人でふらりとやってきました。

そして、旧市街のメイン通りを歩いていたときのこと……。

目の前を、1匹のキジ猫が通り過ぎました。
 
旧市街の石畳を颯爽と横切っていく、立派な体躯のキジ猫。
貫禄のある胴体は、焦げ茶の大きな渦巻き模様に彩られています。

颯爽と現れたキジ猫
しっぽが切れてしまいました(汗)

私はそのキジ猫を見た瞬間、ビビッ!!と来るものを感じました。

キジ猫に魅せられて

途端に旧市街の名所も、中世の街並みも目に入らなくなり、視線が完全にキジ猫にロックオンされたのです!
 
私は、キジ猫の後についていきました。

キジ猫の方は、私に構わず石畳を歩きまわっています。
散歩の途中だったのか、うろうろと石垣にのぼったり、道端のベンチへ上がったり。

石垣に上って一休み

 私はキジ猫の後にぴったりついて歩いては、カメラを向けてシャッターを切りまくりました。

時々立ち止まって振り返る
凛々しい顔に、大胆な模様が美しい

想像してください。
当時はまだデジカメもスマホもなく、カメラといえばフィルムカメラだったのです。

今でこそ猫を見かければ、デジカメやスマホで好きなだけ撮影するものの、当時は貴重なフィルムを何枚も消費して1匹の猫を撮りまくるなんて、尋常ではありませんでした。

キジ猫は、私に甘えるような仕草は見せません。

ただ、こっちから近寄ってなでなですると、私からのアプローチを受け入れるように、悠然と腰を下ろしたままちょっとだけ目を細め、気持ちよさそうな表情をします。

そのなんと気高いこと!

見知らぬ外国人が近寄ってきても、怯えるでもなく、媚びるでもない。
ただそこに居座って、堂々たる存在感を醸し出している。
 
私はいつまでも、その貴すぎるキジ猫のそばにいたいと心から思いました。
 
やがてキジ猫はベンチから飛び降り、再び石畳を歩き始めます。

そして後を追いかけてくる私をしり目に、とある小さなお土産屋さんの中へと入っていきました。

私もキジ猫に続き、店の中へ入ります。
キジ猫はお土産屋さんの床の上で、ゆったりくつろいでいました。
 
その後は、なかなか外に出て行く様子はありません。
店番をするように、どっしりと床に腰を下ろしたままです。 

確認はできませんでしたが、おそらくキジ猫はお土産屋さんの飼い猫、あるいはこの店を行動拠点としている半ノラなのでしょう。
半ノラだとしても、キジ猫の気高さは本物です。

お店の中で一緒に記念撮影


キジ猫が動く様子がないので、私は後ろ髪引かれながらも、静かに店を立ち去りました。

帰国後の話

留学中は、その後も何度かムディーナに遊びに行きましたが、あれ以降キジ猫を見かけることはありませんでした。

そのうち帰国の時がやってきて、私はキジ猫に再会することのないまま日本へ帰りました。

せめて、もう1回くらい逢いたかったなあ……。

そして、帰国から2~3年経ったある日のことです。

私は日本の思いがけないところで、あのムディーナのキジ猫に再会したのです!

……といっても、日本で生のキジ猫に逢えたわけではありません(笑)。

その日、書店を物色していると、マルタ猫の写真集を見つけました。
写真集の題名は、「マルタ 幸せな猫の島(河出書房新社)」。
犬猫写真家・新美敬子氏の、マルタの猫を撮影した作品です。

「おお、マルタだ、懐かしいなあ」

私はすかさずその本を購入しました。
 
当時出版されていたマルタ関連の書籍は今よりもずっと少なく、たまに見かけるとついうれしくなって手に取ったものです。

それはA4版の大型書籍で、マルタの地域別に現地で撮った猫のカラー写真が掲載されているものでした。

猫ばかりか背景の路地や街並みもきれいに写っていて、私は本の中の写真に見入られながら、留学当時のマルタを懐かしく思い出していました。
 
そして、ムディーナのページをめくったときのこと……。
 
「あっ、この猫は……!」

なんと留学中に出逢った、あの気高いキジ猫の写真が掲載されているではありませんか?!

堂々とした大きな体、黒い大きな渦巻き模様……。

私は当時自分が撮った何枚ものキジ猫の写真を持ち出し、写真集の中のそれと丹念に見比べてみました。
やはり、どこにも違和感はありません。
 
写真集の中のキジ猫はお土産屋さんの前に座り、悠然と空を見上げています。
おそらく、通りがかりの観光客を見上げているのでしょう。

そして全体は写っていませんが、このお土産屋さんこそ、あのときキジ猫が入っていったお店ではないでしょうか。
 
書籍の初版は、2002年10月。
取材時期は、もう少し前かと思われます。 
私のマルタ留学期間は、2000年12月から2001年3月なので、おおよそ時期はかぶっています。

間違いありません!
この子が私が留学中に惚れた、古都ムディーナのキジ猫です。

一体、なんという巡り合わせでしょう!
あのキジ猫を日本の写真家が現地で撮影し、日本で写真集となって出版され、それを私が手に取ることになろうとは……。
 
キジ猫はいつも、このように古都の石畳で、訪れる人々を見守ってきたのでしょう。
あの悠久のムディーナの空の下で……。
思い出のキジ猫に日本で逢わせてくれた写真集と、写真家の新美敬子氏には感謝でいっぱいです。

なお、この写真集「マルタ 幸せな猫の島」は、残念ながら、2023年現在は既に絶版となっています。
興味のある方は、ぜひ中古で見てみてください。


あれから20年以上経った2023年も、石畳に颯爽と現れたキジ猫に逢った
あの時の子の子孫だったら面白い(笑)


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