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音程についての大事なお話

こんにちは。ボイストレーナーの古川淳一です。

今回は、音程を取ろうとすればするほど歌が上手く歌えなくなる、というお話です。

一瞬でも「エッ!?」と思ったそこのあなた。そんなあなたに是非読んでいっていただきたい。

大事なことなのでもう一度言います。

音程を意識しすぎると歌が ヘ タ に な る というお話です。

そもそもポップス系のボーカリストは、【声を「前」に出してマイクに乗せる】という意識で歌うことを目指します。

マイクを使わない前提のオペラや合唱などとは違い、ポップスはマイクを使うのが前提なので、声をマイクに拾ってもらうためには「前」に出す意識、声を呼気と共に身体の外側に送り出す意識が大事なのです。

それでは音程を意識しすぎると何が起こるのか。

身体の外側に声を送り出したいのに、身体の内側で自分の歌声を聴こうとしすぎて(確認しようとしすぎて)声が前に出にくくなり、声がマイクに乗りにくくなって結果的に音量が小さくなるため、力みが生じて不自然な声(突如裏返る、美しくない叫び声になる、など)になってしまいます。

また当然リラックスもできないので、声帯の動きが悪くなり音程が上手にコントロールできなくなります。音程を気にしすぎると音程が取れなくなるというパラドックス。

頑張りすぎることでノドや声帯への負担が大きくなって声が嗄れやすくなるため、練習量も稼げません。たくさん練習できない人は上手くなれません。


また、自分の歌声を聞くことに集中しすぎて周りの楽器の音を聴く意識が低くなる、なんてこともあるでしょう。

カラオケで歌うにしても、後ろの演奏とズレズレの歌は聞いていて気持ち悪いです。

バンドならドラムやベースの創り出すグルーヴに乗れないでしょうし、ギターやピアノ、ストリングなどから紡ぎ出されるコード進行とボーカルのメロディラインの絡み合う美しさを感じられないでしょう。トランペットやサックスなどの管楽器や、ソロギターやパーカッションなどの「合いの手」にも乗れませんね。


バンドのスコア(楽譜)を例にとると、スコアには横軸(自分の持ち場)と縦軸(小節の区切り)があり、まずは自分の演奏するパートをある程度理解し、その後周りの演奏と合わせていくという順番で演奏を気持ち良いものにしていきます。これぞアンサンブル。で、実はその時にボーカルにとって最も大事になるのが、音程(横軸)よりもリズム(縦軸)なんです。

リズムの完成度が高ければ、ボーカルが少々音程を外していても「味がある」「個性的だ」と言ってもらえますが、リズムの完成度が低いと演奏の一体感が損なわれるため、聞いている方は非常に些細な音程のズレまでかなり気になってしまうのです。

自分の音程を取る意識が強すぎると、アンサンブル(合奏)はできません。音程の不安が無くなるまで、そして周りの音をしっかり聴ける余裕が持てるようになるまで、個人練習をゴリゴリやる必要があるということです。

最近のJ-POPはボカロ曲やラップ(ヒップホップ)が流行っていることもあり、スピードが早い上に言葉がギュッと詰まっている曲がとても多い印象です。

そんな曲をいざ歌おうとする時に、最初から最後まで全ての音程の正確性に神経質になりすぎることは、結果的に歌うことを難しくさせているということに気付いていない人がとても多い。合格最低点が取れていれば良いのにわざわざ満点を狙ってパンクしてしまう受験生を見ているようで、心が痛いです。

敬愛する鳥羽周作シェフの「家庭でアレンジする余白があるレシピ」には、コロナ禍のステイホーム期間に非常にお世話になりました。独学では到底無理な「レストランの味」にほんの少し近づくことが出来た喜びと幸せは、鬱鬱とした気分を救ってくれました。

要するに、現時点で既に備わっている技術や感性の中での最高到達点を狙いたいわけです。音程に囚われすぎて、音程以外にも目を向けられないのは勿体無い。音程至上主義、音程への一点集中は、素晴らしそうに見えて実はバランスを崩すリスク視野を狭くさせるリスクもあるのです。

じゃぁ正確に歌うべき部分とそうでない部分のメリハリをどうやってつけりゃいいのかというお話は、レッスンで私に相談してください。解決や改善に導く様々な方法論がありますし、個人の力量やレッスンの進み具合によってもかける言葉は変わってきます。レッスンや個人練習の中であなたがそのメリハリの付け方を発見することもあるでしょう。何はともあれ、あなたのことをよく知らないのに、あなたによく効く処方箋は出せませんからね。

ボイストレーニングのレッスンにおいて、私はあなたの才能を信じたい。あなたの可能性を信じたい。信じるために、あなたを深く理解したい。そしてあなたの特徴や進度(深度)に見合ったものを、その都度厳選して提案し続けたい。時間をかけて丁寧に、試行錯誤しながら、最終的にはあなたからの信頼を勝ち得たい…と思っています。

一般論を垂れ流して、生徒さんが出来てないことばかりを上から目線で偉そうに指摘して、何も成果が出ないままアッサリ終わってしまうような、ちょっと歌や音楽かじってれば誰でもできるようなボイトレは嫌なのです。それこそ一方通行でアンサンブルになってない。グルーヴの無いセッション(レッスン)ほど面白くないことは無いですからね。

さて。今回は、音程を取ろうとすればするほど歌が上手く歌えなくなる、というお話を長々とさせていただきました。ここまでお付き合いありがとうございました。

ただ一つだけ注意点がありまして、音程を気にすることは決して悪いことではありません。

音程が取り易い曲を歌っている、もしくは歌っていて音程が正確に取れて調子が良いと感じられている時は、バランスの良い発声が出来ている可能性が高く、そこを起点にして色んなチャレンジをしていくものでもありますから、音程の正確さはバロメータの一つとしての機能を十分に担うことができます。

ただ、そこにこだわりを持ちすぎないように、俯瞰で全体を眺めることを忘れずに、バランス良く練習しましょうね、というお話です。くれぐれも早とちりはなさらぬよう。それでは。


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