見出し画像

2021年のホロライブから見る「VTuber×マーチャンダイジング」前編

◆はじめに

 本記事は、2021年の「ホロライブプロダクション」におけるVTuber×マーチャンダイジング(以下MD)/グッズ販売に関する出来事を時系列順にまとめ、分析することで「VTuber×MD」の今後の展望を考えようというものです。

 「VTuber×MD(グッズ開発)」の概要は拙稿『「VTuber×マーチャンダイジング」を考える』にて述べたところでありますが、2021年は登録者数の多いVTuberの卒業/引退・新たな事務所の登場・「配信者」の参入/コラボの増加などによりVTuberシーン全体が波乱を迎えた年であり、これは「VTuber×MD」の展開のされ方・在り方にも大きな影響を及ぼしたと言っても過言ではありません。

 日々新しくなるVTuberシーンを追いかける一人のファンとして、「VTuber×MDを考える」の第2弾!とまでは行きませんが、現状をまとめることで今後へ繋げることに何か価値があれば、そう考える次第です。

 さて、さまざまなVTuber/プロダクションが大きく変動した一年でしたが、特にホロライブプロダクション(以下ホロライブ)のそれは大きく、とても興味深いものでした。
 また、公式からのプレスリリースやイベントの展開幅も多く(個人的に深く追いかけているというのもありますが)、分析・考察の価値が大いにあると感じたため、ホロライブを対象とします。


 分析に際し、2021年のホロライブにおけるグッズ展開を見ると、「オフィシャルショップ」「コラボ/店舗販売」の二種に販売手法を大別することができます。
 したがって特性上より記事を全2編に分け、前編では、2021年上半期はBOOTH・下半期はオフィシャルショップで展開していた誕生日/デビュー記念グッズを、後編では株式会社COVERが対外的に実施・販売したコラボグッズ現地(店舗)販売されたオリジナルグッズを対象とし、 下記2021年「ホロライブ×MD」年表 を元に2021年のVTuber×マーチャンダイジング(MD)を考えていきます。

 なお、本記事の執筆・年表制作にあたり、ホロライブプロダクションによる各所プレスリリースのほか、ホロライブ公式および所属タレント本人の投稿/発言などを典拠としました(2022年4月30日時点)。


◆2021年「ホロライブ×MD」年表

 2021年の1年間でホロライブが展開したグッズは以下の通りです。

年表。現行グッズはホロライブ非公式Wiki (https://seesaawiki.jp/hololivetv/d/%A5%B0%A5%C3%A5%BA%A1%A2%BD%F1%C0%D2%C5%F9)に詳しいです。

(2022/5/16:「hololive ERROR 青上高校からの脱出」ほか2件追加したデータに更新しました。)


 なお、ここではグッズを「データではなく、体験や実用ができ、それらを通してコンテンツへの愛を再確認できるモノ」として定義したいため、体験が比較的伴わない飾り物の類であるアクリルスタンド、ポスターなどは年表には記載しましたが、本記事では深く言及しないものとします。


◆販売手法

「コラボ/店舗販売」では,主に現地(店舗)あるいはコラボ先のWebサイトでの販売という形が採られていることがわかります。

 また,公式BOOTHとhololive production OFFICIAL SHOP(以下「オフィシャルショップ」)を除き,ネット上でホロライブのグッズを恒常的に購入できる場所は以下が確認できました:

 ・VTempo
 ・AZKi OFFICIAL STORE  ←2022年2月28日に取扱終了

 また,ライブイベントに伴う公式物販はソニー・ミュージックソリューションズの運営するライブ特設ストアで販売されていました。
 ソニー・ミュージックソリューションズはVTuberプロジェクト「にじさんじ」を展開するANYCOLOR株式会社とも協業を行っているため,VTuber関連グッズ事業について実績がある企業といえます。
 なお、ライブグッズがライブ当日に現地で販売された事例は確認できず、いずれもライブ特設ストアからライブ事前/事後購入可能・受注生産対応という形が採られていました。

 いっぽうで海外からの購入はトランスコスモス株式会社のEC通販・geekjackで可能で,ここでは誕生日記念などのオフィシャルショップで販売されている商品も購入ができることがわかりました。

◆オフィシャルショップの開設とBOOTH

 2021年のホロライブにおけるMDを語る上で、オフィシャルショップの開設は欠かせないほど大きな転換点であるといえます。

 2021年9月6日、ホロライブは公式オフィシャルショップ「hololive production OFFICIAL SHOP」を開設しました。

 プロダクション/グループ名を冠してECサイトを展開しているVTuberプロダクションには、「にじさんじオフィシャルストア」「774 inc.公式ショップ」「深層組ストア」が挙げられ、ホロライブのオフィシャルショップ開設はこれらに次ぐものといえます。

 一般的に自社サイトでのネットショップ運営は開設に際しての初期コストが大きく、成果が出るまでに時間がかかりますが、他ECサイトのサービスを利用するよりも利益率が高いため、収益増加の観点から有効です。

 以前拙稿では、「VTuberビジネスにおけるMDは、収益が主たる目的ではなくファンの需要に応える副次的なもの」という見方をしていましたが、VTuberカルチャーそのもののファンの増加に伴ってMDによる収益獲得が以前より見込めるようになったため、各プロダクションが、ホロライブが自社ストアを展開するようになったものと考えられます。

 ただし、ホロライブはそれの全てをオフィシャルショップに移転したわけではなく、Tシャツやステッカーなど、無在庫販売が可能なグッズについてはBOOTH上で販売を継続しており、並行販売が実施されていることを確認できます。
 「限定記念グッズ」「完全受注生産」という触書きによって購入の機会が少ない印象を受けるVTuberグッズですが、ホロライブは無在庫販売が可能なアイテムと並行、BOOTHと自社オフィシャルショップを同時に運営することで、恒常的にグッズを入手できる環境が実現されています。

 また、2022年1月5日より、国外(アメリカ・カナダ・メキシコ)への配送対応が始まったことで、グッズ供給の基盤は国外対応も含め強固なものになったといえます。


◆「誕生日/デビュー記念グッズ」の分析

 BOOTH・オンラインショップでは2021年中に107件のグッズ企画が実施されました。
 タイトルを見ると、その殆どが誕生日やデビューの「記念」を冠したもので、毎日が誰かの記念日といっても過言でない状況であることがわかります。
 かなりの短スパンでグッズを展開する中でも、株式会社COVERはVTuberの個性や背景を十分に活かしたMDを展開しており、企画力の高さが窺えます。

 さて、2021年に販売された「記念」グッズを分析することで、株式会社COVERの考える「VTuber×MD」のコンセプトや方向性がわかり、今後の「VTuber×MD」の手掛かりになるものが得られると考えます。

 この節ではグッズ展開の傾向・特徴を分析し,(私的)好事例を紹介していきます。

○グッズ展開の傾向・特徴

〈販売手法について〉
 記念グッズを見ると、「ポスター系+アクリルスタンド+α」セットで計1万円前後、という展開が多く確認できました。
+αはVTuberに因んだ、ストラップやポスターのような既存のグッズの枠に囚われないオリジナルグッズで、目覚まし時計からビールジョッキ、果てはペナントまで、バラエティに富んだグッズが販売されていました。

 また、記念グッズにおける受注生産品について、BOOTH・オフィシャルショップともに、その殆どは受注開始から締切までの期間はおよそ1ヶ月、締切から発送予定時期までのスパンはおよそ3~4ヶ月、最長6ヶ月ほどとされていました。
 これには例外も存在し、「湊あくあ2022年版壁掛けカレンダー」では受注受付が2週間、発送時期はその締切から1~2ヶ月と、ある日時まで(カレンダーは2021年中)に届くように発送時期を調整していたものも見受けられました。


〈グッズデザインについて〉
 グッズとはコンテンツへの愛を再確認できるものであると同時に、自分とコンテンツとを繋ぎ止める存在にもなり得ます。
 これは版権イラストをアイテムに刷るだけでも実現されますが、キャラクターデザインや世界観に沿ったグッズであるとより愛着が増すものです。

 VTuberの世界観が反映されている・あるいはグッズ制作にVTuber本人が介入しているグッズには、獅白ぼたんさんの「麺屋ぼたん」どんぶり&お箸 や 尾丸ポルカさんの「おまる座」をモチーフにしたグッズなどがありました。
 「麺屋ぼたん」も「おまる座」も彼女たちのファンネームや動画中の発言に由来するもので、この設定がグッズと合わさることで、ファンとVTuberが(依代的に)グッズで繋がっているという感覚を確からしいものにしてくれるのではないでしょうか。

 その他、戌神ころねさんのグッズからは、「お揃い」「本人デザイン」を謳うアイテムを複数確認できました。

戌神ころねさんによるオリジナルキャラクター「ホソイヌ」「ころねすきー」などがデザインされている。

 われわれオタクが「お揃い」「本人デザイン」といった文言に弱いのは明らかですが、彼女のキャッチーでポップなイラストにはつい食が動いてしまうものです。

 とくに「お揃い」を冠するグッズには、VTuberの新衣装と「お揃い」である傾向がみられ、戌神ころねさんや後述の宝鐘マリンさんのグッズは新衣装公開と同日に販売が開始されていました。
 これより、新衣装制作の段階からグッズを展開する構想があったものと考えられます。

 ここでの新衣装は水着+パーカー部屋着といった軽装であり、比較的グッズ展開がしやすいと思われる衣装デザインでありましたが、今後はグッズ化を前提とした衣装デザインがより求められていくのではないでしょうか。
(この「グッズ展開のしやすい衣装デザインを!」というのはアニメ制作における「数字を取りたいから人気声優を起用したい!」という考えと本質的には変わりはないため、自然な流れでなり得ると考えます)



〈広告・販促デザインについて〉
 グッズ販売の中核がBOOTHからオフィシャルショップへ移ってから、記念グッズを告知する際のサムネイル・タイトルロゴが意匠を凝らしたものに変化した印象を受けました。

左:BOOTH販売期のサムネイル、右:オフィシャルショップ移行直後のサムネイル

 特に題字のデザインについて、フォント選びやあしらい(装飾)が洗練され、VTuberのイメージ・グッズのコンセプトにさらに沿ったものになったことがわかります。

 これは、カバー株式会社がグッズデザイナーを募集し・採用したことで実現されたのではないかと考えます。 

"VTuberの魅力を引き出すグッズデザイナー募集!カバー株式会社", Wantedly

 ファンならばグッズは誰しもが欲しくなるものですが、その第一印象的役割を担うサムネイルが良いデザインであるとアクセス数の増加が期待でき、さらなる消費を狙うことが可能です。

 グッズの生産・販売の実施だけでなく、広告・販促に関する領域にも的確なアプローチをしており、以前よりもMDに力を入れていることが窺えます。

○私的名グッズ紹介

 本項では,「誕生日/デビュー記念グッズ」のうち,
 ・着眼点が面白いと思ったもの
 ・キャラ愛がグッズの用途を損なわず伝わるもの
 という観点から,「良い!」と感じたグッズを紹介していきます。

・森カリオペ 誕生日記念2021
 4月4日、森カリオぺさんの誕生日記念グッズとしてレコード・ポスター・缶バッジ・抱き枕カバーが販売されました。
 値段は死神である彼女に合わせてか、または誕生日に合わせてか14,444円とグッズの中でも比較的高い値段設定で販売されていました。

 抱き枕カバー・缶バッジ・ポスター、いずれもVTuberへの愛を確かめられる申し分ない展開ではありますが、このグッズ群の中でも特に「誕生日記念レコード」に着目したいです。

レコード概要。実物を手にしたら鳥肌必至なジャケ写

 ラップスキルに定評がありオリジナル楽曲の多いカリオペさんですが、彼女の音源をラップ、ひいてはヒップホップカルチャーに根付いているレコードという形で展開するのは、ディスプレイと使用、両方の目的を満たした上で森カリオペさんのキャラクター性を最大限に表現している、VTuber×MDの最適解とも言えるグッズであると感じました。
(カリオペさんのバイナルをアニクラで流すDJさん、一度は生で見てみたいですね・・・)

・宝鐘マリン 「宝鐘海賊団」関連グッズ
 ホロライブ3期生・宝鐘マリンさんのグッズについて、「宝鐘海賊団」をモチーフとしたものが複数回展開されています。

上2つ:宝鐘マリン 誕生日記念2021グッズ
左下:宝鐘マリン 100万人記念グッズ 右下:宝鐘マリン 活動二周年記念グッズ

 バンダナや海賊旗といった「海賊団」の世界観に徹したアイテム、先述の「お揃い」を冠したアイテム。いずれもVTuberへの愛を確からしいものにしてくれるグッズです。
 「海賊」という世界観はクリエイター側とファン双方に前提となるイメージがあるわかりやすいモノであるため、クリエイター陣によるグッズの制作/ファンがグッズを手にとって使っている状況のイメージ がしやすいです。
共通認識のある設定をベースとした展開は、その文脈(非公式Wikiを読まないとわからない過去の発言など)を追いづらいVTuberというコンテンツにおいてもライトユーザーにも手を伸ばしてもらいやすく、VTuber×MDの好事例であると考えます。

 また、ファンが集まる場所で身につけているグッズが被ったとしても、それはファンネームである「宝鐘の一味」同士の結束力の証にもなり得るため、ファン共通のアイコン的役割も果たせるでしょう。
(リアイベなどで宝鐘海賊団グッズを身につけた群衆を見られたらそれは壮観だろうなあと思う限りです・・・)

 したがって、これらは宝鐘マリンさんのファンであることを誇ることができる象徴として、その役割を十全に果たすグッズ群であるといえます。


◆前編まとめ

・VTuberカルチャー自体のファンの増加によって、VTuber事業の収益におけるMDの占める割合は増えたと考えられる。

・VTuber×MDにおいては無在庫販売が可能なECサイト上でのグッズ展開が中心だったが、次第に各VTuberプロダクションは独自のECサイトの運用を始めた。

・VTuberの設定は勿論、「お揃い」を謳うなど衣装デザインに忠実なグッズが多く確認できた。これらはファンの購買意欲の促進に有効であるといえる。今後はMD展開を前提としたキャラクター/衣装デザインが以前よりも求められるようになると考える。

・ホロライブはhololive production OFFICIAL SHOPを2021年9月に開設。さらに株式会社COVERはグッズデザイナーを起用し、グッズおよびグラフィックのクオリティ向上を図る事でMDの基盤を強固なものとしようと試みたと推察される。

 後編へ続きます。

◆出典
・ホロライブプロダクション BOOTH https://hololive.booth.pm/
・hololive production OFFICIAL SHOP https://shop.hololivepro.com/
・Shopify ホームページ https://www.shopify.jp/
その他文中に記載



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?