【渡辺の本棚】コミュ障だった僕を激変させた公務員の「伝え方」の技術

倉敷市職員の牧野浩樹さんの新刊を学陽書房さんの読者モニターに応募して当選したので拝読しました。

本を読んで思ったこと、感じたことは、

・言葉、コミュニケーションはアーカイブ化できる(言葉のやりとりを記録化できる)

・言葉は、伝え方の方法論として、いろいろ試せるのではないか

ということ。

言葉のよい伝え方は、試行錯誤して、OK集・NG集を積み重ねて蓄積していくと、記録として残っていくのではないか。また、言葉の伝え方は、成功・失敗を重ねながら、相手にどう伝わっているか、観察や検証をしていくといいのではないかと思いました。

言葉を相手に伝えること、意思疎通すること、コミュニケーションを上手に取ることは、難しいなと思いますが、どのような言葉を選ぶと、相手に「伝わる」かを丁寧に解かれている一冊でした。本の中で、牧野さんの伝え方の体験から、対住民&対上司にケースごとにOK・NGの例が分かりやすく載っており、これがとても可視化されていて良かったです。そして、新人・若手時代の牧野さんが、優秀な先輩や住民対応に揉まれながら成長していく過程を追っていくことができます。要所で伝説的な先輩が現れ、話しかけてくれる言葉に含蓄があります。

新人の頃の牧野さんの述懐からこの本は始まります。子どもの頃から口下手で人見知り。学生時代はクラスでまともに話しかけられず、就職活動は30社以上面接で全滅、就職浪人して入った会社では1件も契約が取れずリタイア、帰郷して入庁した市役所の配属先は納税課。無理無理無理無理無理無理!...悲痛な叫び。

予想通りの現実は、住民からの「何が言いたいの?」、上司からの「わかりにくい!」、話し下手では公務員としてやっていけない!

牧野さんの体験は、20代に就活で大苦戦した挙句、警察・市役所に就職した若い頃に、上司に対してコミュニケーションで悶絶した自分自身と重なる思いでした「。タイムマシンがあれば、当時の自分に読ませてあげたいと思いました。コミュニケーションの取り方って、公務員の職場では習うより慣れろ、のような文化を感じます。それか元々コミュニケーション能力の高い人間が多くて、既に就職して配属される時点で備わっていて然るべき、という風潮が強いように感じます。

牧野さんの悪戦苦闘、トライ&エラーの日々から、ようやく見つけた「伝え方の公式」を、「伝え方」に悩む公務員に贈る本でした。牧野さんが新人当時、上司や窓口・電話対応で心がズタボロになり、仕事に行くのが憂鬱になり逃げていたのが、伝え方が下手だと悟ります。逃げてはいけない、話を伝えるのが上手な人を観察し、研究し続けたそうです。2,000人以上の住民、50人以上の職場の先輩と対峙すること5年、「わかりやすい伝え方」「納得させる伝え方」「相手を動かす伝え方」の3パートを伝授してくださっています。

第1章には、「公務員の世界はコミュニケーションの戦場である」と書かれてあり、住民に説明責任を求められるから、上司を納得させなければならないから、とありました。「話が伝わらない公務員人生ほど、辛いものはない」「うまく話を伝えられない公務員は淘汰される」話は揺さぶられました。しかし、伝え方には公式があり、生まれつきのセンスではなく、誰でも鍛えることがが可能という発見がありました。

本を読みながら、地方公務員法の第30条、第32条などの条文が出てきます。大事な法律なのですが、私もこれを忘れてしまっていると、何のために働いているのだろう?となってしまいます。法を知り、自分の法的な存在の根拠は何か、考える必要が時々あると思いました。法を知ること、それが働く意識を変えることになります。

第2章では、どんな相手にも理解される「わかりやすい」伝え方が書かれています。第2章では、タイトルスタート、KK法、お役所言葉NG、数値化法、イエス・ノー質問法、モノマネ話法、ワンペーパー提示法の7つが書かれています。タイトルスタートは「お前、何が言いたいの?」を避けるために本題の前に何かの予告を入れて話すこと。KK法は、結論&根拠のみ話すこと、話に雑音を入れないこと。お役所言葉NGは、例えば特徴(特別徴収)を給与・年金から天引きされることと言い換えようということ、人間は頭の中にある言葉しか理解できないこと。数値化法とは、なるべく早くではなく「1週間以内」「1か月以内」と期限を数字で区切ること。イエス・ノー質問法は、質問に答えやすいように「はい」か「いいえ」で答えられる質問をすること。モノマネ話法は、話す相手によって、話すスピードや声の大きさを変えること。ワンペーパー提示法は、1枚の資料を作成し口頭の説明を補うこと。自分に置き換えて振り返ってみました。タイトルスタートやKK法を取り入れると、話が相手に伝わりやすくなると感じました。お役所言葉NG、私も税所管課なので「特別徴収」をそのまま使ってしまうことが多いので言い換えを工夫しようと思いました。数値化法とイエス・ノー質問法で、いつまで、はい・いいえ、と応対できるやりとりを試みようと思いました。そしてワンペーパー提示法で、話し言葉を資料で補足する方法を取り入れてみようと思いました。

第3章では、説得力ある根拠で「納得させる」伝え方が書かれています。第3章では、結論後出し法、前例法、法令パワー、損得明示法、選択の自由、超具体化伝達法、価値観インストールの7つが書かれています。結論後出し法は、根拠を先に言い結論を後で言うこと。わかりやすい伝え方をしても、相手が納得するとは限らないから。前例法は、管理職に決裁を仰ぐ際に前例を提示して納得させること。管理職に当たる決裁者には「改革派」と「慎重派」の2タイプがいるため。法令パワーとは、起案が通らないときに前例法だけではなく、法令を根拠にする必要があること。公務員にとって最大のリスク、「法令」に反することを避けること。損得明示法は、住民を「正論」ではなく「損得勘定」で動くこと。メリットとデメリットを説明すること。選択の自由は、1案だけではなく2案以上提示すること。超具体的伝達法は、パンチ力のある言葉を使うこと。延滞金が1か月で3万円ずつ加算されます、あなたの給与を差押えします、と説得力ある言葉を使うこと。価値観インストールとは、考えや意見を「自分の価値観」ではなく「相手の価値観」に合わせて説明すること。結論後出し法は、住民に対する説明として根拠→結論の順に話すと納得してもらえるという視点に気付かされました。前例法・法令パワーでは、決裁権者が、何を基準に決裁をするのか、上司の立場から考えるきっかけになりました。損得明示法では、ルール・法令を頑として押し通すのではなく、デメリットを伝える方法が納得してもらえるという発見でした。選択の自由では、上司の説得方法が橋下徹さんの著書の例を出されていました。上司の心の中には自分で考えて決めたいという欲求がある、提案する数は多くても3案までがよい、複数案を提示することで根気強くアイデアを考える習慣が身に付く、とありました。決裁を仰ぐための案を考えることはじっくり取り組んでみたいです。超具体的伝達法での「固有名詞」や「数値」を入れること、具体的な数字を入れて説明することも取り入れてみたいです。価値観インストールでは、「相手の価値観」に沿って説明すること、相手の価値観を覚えておいて説明することが重要だと気付きました。

第4章では、感情を刺激することで「相手を動かす」伝え方が書かれています。第4章では、名義借用法、共感の相槌法、期待値コントロール、譲歩マジック、承認欲求満たし、言い切り法、宣言縛り、親友のアドバイス法、本音アタックの9つが書かれています。名義借用法では、「何を伝えるかより、誰が伝えるかのほうが重要である」、私たちは「何」を伝えられるかより「誰」に伝えられるかで話を受け入れるかどうかを決めていること。共感の相槌法では、人は共感してくれる人には好感を抱き話を聞こうとする。一方「否定」してくる人には嫌悪感を抱き、話を聞こうとしない。まずは相手の話を「否定」せず、「共感の相槌」を打つこと。期待値コントロールでは、人が怒るのは期待を裏切られたときであり、事前の相手の期待値を下げることで、クレームは避けられる。譲歩マジックでは、譲歩することを前提に、最初の要求は高いところから始めること。あえて高い要求を突きつけ、相手が否定したら譲歩する。承認欲求満たしでは、〇〇さんにお願いしたいと、周りの同僚に協力してもらう伝え方。言い切り法では、「思います」と中途半端な言葉をつけないこと。相手に「この人は何を言ってもダメだ」と思わせれば相手が承認する確率が高まる。「公平に対応するため、要望は受け入れない」という強い自信を持った言葉だからこそ相手の心が動く。宣言縛りでは、人は宣言すると自分の言葉に縛られる。自分から時間や期限を設定したり相手にさせると縛られ約束が守られる。親友のアドバイス法では、あなたのために言うけど、あなたならできると思って言わせてもらう、と「何」を伝えるかよりも「どんな気持ち」で伝えるかが大事ということ。本音アタックでは、これまでの伝え方の技を合わせて、前例の壁を壊し「建前」ではなく「本音」をぶつけること。「自分の意見」のないし仕事ほど、つまらないものはないとありました。第4章ではコミュニケーションの技法が高度になる感じがしました。名義借用法の「本市としては」と名義や組織を借りると信頼度が高まるという技でした。続く共感の相槌法では、前項の「本市としては」が通用しない場面で、「そうですか」「そうでしたか」と相手に共感を抱いてもらう伝え方でした。期待値コントロールは結構難しい方法だと感じましたが、相手の期待値を下げてクレームを防ぐというものでした。さらに譲歩マジックの高い要求から始めて、譲歩の余地をつくるという方法も難しそうだと感じましたが、このような方法があるのかという発見がありました。承認欲求満たしの、周りの同僚に協力してもらう伝え方も自分には難しいと思いましたが、協力してもらうコツがあると書いてあり頼り方も大事だと思いました。言い切り法の「思います」は口癖になりやすいと思いましたが、「頑固」に押し通す場面が必要な場面で活用してみたいです。宣言縛りで、約束通りの時間に行くこと、その約束を守るために必死に全力疾走した牧野さんがいました。「君のために言うけど」という親友のアドバイス法は、「気持ち」で相手に伝える方法でした。その人にために言う、という場面で使ってみたいです。そして、本音アタック。いろいろな方法の合わせ技で困難に挑むこと。コミュニケーションを追求して、これは読者が最適解を探すことができると思いました。

本の途中に4つのコラムがありました。「公務員は自分で自分を褒めよう」「伝わらないのは誰のせい」「公務員はやりたいことにこだわるな」「伝え方の公式を編み出す方法」。このなかで私は「公務員はやりたいことにこだわるな」のコラムが気に入りました。公務員は人事異動があり、異動の希望が叶うとは限らず、人事異動に人生を委ねるのは危険。なので、「やりたいこと=to do」よりも「ありたい自分=to be」を意識すること。ありたい自分とは何か、自問自答していきたいです。

書評を書くことは、難易度が高いと感じましたが、それゆえ本を書いている公務員は凄いなと圧倒されます。多種多様な公務員が、惜しみなくその知識や技術を活字に残してくれるというのはありがたいことだと感じます。書いてまとめてみて、読了した感覚を共有していただけたら嬉しいですが、伝え方は本当に難しいと実感しました。分かりやすく、かつその場に適した伝え方を体得できるように、日々の業務での伝え方を記録したり、工夫を積み重ねたいと思いました。

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