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道を極めるという職人魂を垣間見た一冊〜神田ごくら町職人ばなし/坂上暁仁


職人技術を目の当たりにした体験

技術職と言われる分類のうち、自分はそこそこの大企業の土木建築関係の仕事に従事しております。

新入社員の頃に驚いた出来事がありました。
自分はいわゆる「現場」に配属され、戦前に建てられた施設の改修工事を担当していました。
毎日のようにコンクリートの打設や鉄筋組をしている作業員の方々が、多くの重機を日常的に見る毎日は、研究室に閉じこもっていた大学時代とは異なり、刺激的な毎日でした(もちろん、大学も大学で色々と学びがありました)。

ある時、古い石積みのトンネルを閉塞(コンクリートによって充填して、機能をなくす)する工事の作業に立ち会った際、年配の作業員さんが、
「こんなすごい技術、今の職人にできる人いない」
といった発言をしていました。

確かにその石積みのトンネルとみると、1つとして同じ形のない石が綺麗に積み重なり、綺麗なアーチを描いていました。それでいて、トンネルの内面は凸凹していない。
それが、戦前という時代に作られ、今もその形を保っている。
その作業員さんほど「凄さ」を感じられているのかは不明ですが、ぱっと見でも、どうやって石を選別し、接着剤の役割のモルタルが乾くまで固定したのか。
上部のアーチのところはどうやって作ったのか。
なんでこんなに内面を平滑に施工できたのか(材料である石は非常に硬く、削ったり人工的に形成した痕跡がない)。
今の重機や技術を使っても、現代の職人さんに「真似できない」と言わしめた技術。

驕り高ぶりではありませんが、全ての技術は日進月歩で進化しており、昔の技術を飲み込む形で全てが発達していると思い込んでいた自分にとって、昔の職人さんの技術>現代の技術 を目の当たりにした経験でした。

丁寧な取材と考証に基づく珠玉の1冊

曲げわっぱ、江戸切子、漆塗り。無形であれば寿司職人など。
日本には長期に渡り大切にされてきた技術がたくさんあります。
近年では、そういった技術を後世に残そう、素晴らしさをアウトリーチしようという取り組みが盛んに行われています。

生物ではありませんが、文章だけで伝えきれない部分を包含する技術については、人が媒介しないといけない部分があり、一度途絶えると復活させるのが難しいという側面があります。

本書は、江戸神田のごくら町という場所を舞台に、職人の生き様を描いた作品。

日本の伝統芸能、伝統技術というと、固有名詞と作品のみが目立ち、なかなか「職人」にスポットライトが当たることはなかったように思います。
それを漫画を通し、わかりやすくかつ魅力的に伝えるというだけで、価値あることだと思います。

本書で取り上げられているのは
・桶屋
・刀鍛冶
・藍染
・畳屋
・左官
といった、比較的現代の我々も(成果物に)触れる機会の多い職人たち。

今まで考えたこともありませんでしたが、プラスチックのない次回の桶。
もちろん木製ですが、
”直線的な気のパーツを組み合わせて水が漏れないにする”
って、ものすごい技術だと思いませんか?
どんな木材を使い、どうやって接合し、漏れない桶にするのか。

本書を読んでいくと、職人の息遣いと共に、それらの工程を追体験することができ、知識も同時に得ることができるという雑学マニア垂涎(?)の作品。

その他にも、日本刀が二つのパーツから構成されていたことや、染め物でどうやって柄を出すのかなど、無知な自分は知的好奇心を満たしつつ、一気に読了してしまいました。

伝統工芸品への興味が増した

これまで、旅行などで各地を訪れた際に「伝統工芸品」を見ても
・最新技術のものより性能は悪い
・手間がかかってるから高い
・購入者はステータスシンボル、所有欲を満たすために勝っているのでは・・
と非常に性格の悪い(?)見方をしていて、見向きもしませんでした。

本書を読みながら、わからない単語を調べたり、技術の概要をみるにつれ、そういった思いは吹き飛びました。
シンプルに「すごい」。
限られた材料でより綺麗なものを、便利なものをと突き詰めていった先にこういった工芸品が残っていることを再認識し、思わずネットで長時間調べてしまった・・・友禅染めやたたら吹きなんて、狂気の沙汰と言っていいようなこだわり具体と細かさ。

次回、旅行に行く楽しみが一つ増えました。

教養は人生を楽しむためにある。
そんな言葉を耳にした記憶がありますが、その通りだなぁと思った一冊でした。
続編に期待。

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