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第79期名人戦第1局大盤解説会レポ その2

久しぶりの再会と、くわっちさんの名刺

1日目の大盤解説会。

私が受付開始40分前に椿山荘に着くと、既に待機列ができていた。早く並んでいる人の大半は、将棋イベントで顔なじみのいつものメンバーだった。互いに久しぶりの再会を喜び合い、近況を報告し合った。

撮る将でもある私にとって、席取りは非常に重要である。早めに並んだおかげで、無事に良席を確保できた。

また、事前に、朝日新聞社のくわっちさんこと桑高克直さんが、自作の両対局者イラスト入り名刺を現地に持参しているとツイートしていた。会場後方に立っていたそれらしき雰囲気の男性に、思い切って「あの、くわっちさん……」と声を掛けると「はい」と早速名刺を取り出して渡してくれた。

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ツイッターにイラストや対局者の貴重な写真、現地レポを投稿して将棋ファンを楽しませてくれるくわっちさん。ご挨拶と日頃のお礼ができて、ひとまずほっとした。

1日目大盤解説会開始

午後2時30分、大盤解説担当の野月浩貴八段、聞き手の安食総子女流初段が登壇し、深々と一礼した。参加者は2人を大きな拍手で迎えた。

野月八段は鮮やかな黄色のネクタイに札幌コンサドーレカラーの赤いチーフを合わせたおしゃれなスーツ姿。安食女流は明るいベージュのジャケットに濃紺のブラウスとスカートの上品で落ち着いたモノトーンコーデ。

野月八段と安食女流が大盤の駒を動かして初手から丁寧に解説するのを聞いているうちに、私は現地大盤解説会に来ている実感が湧いてきた。解説を生で聞くことができるわくわくした気持ちが懐かしく思えた。

戦型は、先手の斎藤八段が土居矢倉を採用し、後手の渡辺名人も堂々と応じて相矢倉になった。

野月八段の話では、斎藤八段が土居矢倉の形を完成させた時、控室にいた髙見七段から喜びの声があがったという。髙見七段の矢倉好きは有名で、昭和初期以来ほとんど指されていなかった土居矢倉を研究し、公式戦で指している。安食女流は「珍しいですよね、控室で棋士が喜ぶって」とほんわかした口調で相槌を打ち、にこにこと微笑んでいた。

雑談と「ここだけの話」

2日制のタイトル戦では、1日目の午後は長考合戦になり指し手がなかなか進まないことが多い。現局面までの解説をひととおり終えると、おもむろに解説と聞き手の雑談や、参加者からの質問タイムが始まる。

雑談は、両対局者にまつわるエピソード、最近の将棋界のトピックから、解説聞き手の交友関係まで多岐にわたる。

観る将の注目ポイントであり、タイトル戦ならではの話題でもある「おやつ」について、野月八段は「昔、うちの佐藤康光会長が必ず頼んでいたおやつ、知っていますか?キウイですよ」「加藤一二三先生は、ポットにカルピスを入れてもらっていたことがありましたね。おやつにチョコレート10枚とかもありました」と過去のエピソードを披露した。チョコレートの話を聞いた安食女流は「鼻血が出そうですね」と返し、会場は笑いに包まれた。

また、中継カメラが入っていない時に「これはここだけの話ですけど」と解説の棋士や聞き手の女流棋士が将棋界の裏話をしてくれることがある。SNSが発達して昔ほどは無茶苦茶な解説はなくなったよ、と長年の将棋ファンに教えてもらったが、それでも「ここだけの話」を聞けるのは現地大盤解説会に参加した者だけの特権である。もちろんSNSには載せないし、本稿にも書かない。

副立会人・髙見泰地七段が登壇

休憩を挟んで、2回目の解説タイムが始まった。聞き手は安食女流が続投し、解説に副立会人の髙見七段が登壇した。私は、1年以上ぶりに髙見七段の顔を見られた喜びと、自分の読みが当たった気持ちよさで、心の中でガッツポーズをしていた。

髙見七段は「土居矢倉を、以前には藤井さん(藤井聡太王位・棋聖)、今日は斎藤さんと、強い人が指してくれて嬉しいですね」と喜びを全面に出し、土居矢倉がいかにいい形なのかを熱く語った。「詳しいところだけぺらぺらしゃべるなって控室で言われました」などと、髙見七段らしい自虐ネタを織り交ぜて、会場の雰囲気を盛り上げた。対局者の次の指し手もばんばん当てていた。

いきいきと楽しそうに大好きな土居矢倉の話をしている髙見七段を見て、私はとても楽しかった。推しが嬉しいときは、ファンも無条件で幸せなのだ。

質問タイムでは、参加者から髙見七段の順位戦B級2組昇級を祝う声が寄せられ、湧き上がる拍手の中、髙見七段は「ありがとうございます。嬉しいです」とにこにこして頭を下げた。ABEMAトーナメントドラフト会議で髙見七段が藤井聡太王位・棋聖に指名され、チーム藤井最年少+1のメンバーになった話題でも盛り上がった。

解説を終えた後の休憩時間も、髙見七段は会場の入口付近に立ち、ファンとの記念撮影や会話に気さくに応じ、新型コロナ感染対策を取りつつ、可能な範囲で最大級のファンサービスをしていた。いかにも髙見七段らしい光景だった。

立会人・中村修九段が登壇

次に大盤解説会に登場したのは、立会人を務める中村修九段。和服姿がよく似合っており、多数のシャッター音が鳴る。ダブル解説の野月八段が「たくさんの方が中村先生にカメラを向けていらっしゃるので、10秒間だけマスクを外して記念撮影タイムを取りましょう」と提案した。臨機応変の心遣いがありがたかった。

中村九段の独特のユーモアがある語り口と、話題を膨らませるのが上手な野月八段とのやり取りに、会場は大いに沸いた。

私は午後5時30分に大盤解説会場を出て、タクシーに飛び乗り、駅に向かった。髙見七段に会えた嬉しさはもちろん、野月八段、中村九段、安食女流それぞれの味わい深い話を、目の前にいるご本人から直接聞くことができた喜びに浸っていた。もう明日が楽しみでたまらなかった。

#将棋 #名人戦 #大盤解説会 #渡辺明名人 #斎藤慎太郎八段 #椿山荘

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