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第十五話 コレクター 2

一点でも二点でも、好きになってもらい、購入してくれたその方のお名前と作品を大体記憶している。
初めて個展を開いてから二十年以上が経つが、今も変わらず居間に飾って眺めています、と感想を頂く一方で、捨てられたり、行方不明になったり、処分に困っている絵もあるだろう。

ご自宅に私設のギャラリーを開設して、数点も常設展示をしていただくという幸せなこともある。
私にとっては購入いただいたすべての方がコレクターだ。ざっと数えてみたら、五十名くらいの方々に絵を預かって頂いている。
お金を工面して購入してくれた方もいるだろう。思い切った決断をされた方もいるだろう。絵は必需品ではないし、インテリアとも言えない。
その場所で役目をちゃんと果たしているだろうか。

私の唯一のコレクションは薬師寺章雄さんの版画だ。水色の布地で装丁された本型のカバーに収められた5枚の版画は、ギャラリーURANOが限定出版したものを買い求めた。日光にあたらないように引き出しにしまい込んでいるが、時々、昨夜見た夢を確認するようにそっと開いてみる。
「River Side Drive」と名付けられた小さな版画の世界にすっと引きこまれては、私の心は描く情熱を失ってはいないか、と気持ちの在り処を問うてみるのだ。




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