安田鋲太郎

安田鋲太郎

記事一覧

リソース管理ゲーム、システムシンキング、無政府資本主義の実生活への応用

 クレタ島で三人の男が言い争っていました。  A「わたしは仕事が大好きだ。わたしは嘘つきクレタ人ではない」  B「いやAは嘘つきクレタ人だ。こいつは俺と同じで仕事…

安田鋲太郎
10日前
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コミュニケーションに難がある人と居場所のことなど

 先日、フォロワーさんのスペースを聴いていて、コミュ力が低くトラブルメーカーになりがち、あるいはそこまで行かなくても他人に避けられてしまう人を如何せん、という話…

安田鋲太郎
3週間前
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10分で支度しろ!(おすすめ酒本二種)

 日付が変わる前にnoteを更新します、とフォロワーが云っていたので、なるほどそれもいいかも知れん、自分もやってみようと思って時計をふと覗いたら23:50分。ありゃ、こ…

安田鋲太郎
3週間前
3

酔生夢死試論、またはエンタメと死の超克

 もう10年以上前になるが、母のガンの再発・転移が発覚し、前途の明るいとはいえない病床生活に入るさいに、僕が母に買ってきてくれと頼まれたのは「日本のむかしばなし」…

安田鋲太郎
4週間前
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座談会、マッチメイク、スペース

 ほらあの、「座談会」とか「対談」とか「共同討議」といった、言論誌の目玉となる、論客を招いて議論させるああいうコンテンツ。僕などは格闘技を観戦するような感覚で、…

安田鋲太郎
1か月前
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正しい狂人のなりかた

 百目鬼恭三郎『奇談の時代』は、なかなか直接読むのは敷居が高い古典文献を膨大に読みこなし、そこから現代の読者に向け、面白い奇談をテーマ別に次々紹介してゆくという…

安田鋲太郎
1か月前
10

文章は書けないものだから心配するな

 さて、この春からばりばり書くぞ、と意気込んでいたのだが、「ものを書く」ということをあまりに本質的に考究した結果、ついに一丁字も書けなくなってしまったので慌てて…

安田鋲太郎
1か月前
13

窮鳥の論理

 窮鳥懐に入れば猟師も殺さず。  『顔氏家訓』「省事」にみる「窮鳥入懐 仁人所憫」を原文とするこの成語は、私見ではたいへん普遍的な人の心を言い当てている。  猟…

安田鋲太郎
2か月前
21

妄想父さん 現実父さん 父娘の形而上学

 川端康成の弟子筋にあたる文学者、桝井寿郎の身辺に起こったという怪談のなかに、とても短いが印象的な話がある。短いといっても6頁ほどあり丸ごと引用するわけにはいか…

安田鋲太郎
2か月前
14

温故知新への疑い

 仕事がら、いわゆる「読書家」という人種とよく接する。するとやはり「最近は若い人が本を読まなくなっちゃって…」というれいのぼやきを耳にすることが多い。たぶん、僕…

安田鋲太郎
3か月前
17

「スペース飲み」がヤバい

 『日本全国酒飲み音頭』、あれちょっと変なんですよね。「一月は正月で酒が飲めるぞ」「二月は豆まきで酒が飲めるぞ」「三月はひな祭りで…」と続いていくわけですが、酒…

安田鋲太郎
3か月前
8

島宇宙とアテンションエコノミー

 きょうは今後の思考のための、ちょっとした覚え書きです。  *  このところ東浩紀の初期のテクストを読み返していた。そこでしきりに彼は、次のような話を繰り返して…

安田鋲太郎
3か月前
12

栄えるのじゃ!

 日曜日の夕方に愛聴している、一話完結の大河ラジオドラマ『NISSAN あ、安部礼司 〜 beyond the average』、通称「安部礼司」は、前半はまったりした笑い(ゲラゲラ笑う…

安田鋲太郎
3か月前
17

ペンは剣よりも強いというけれど

 「ペンは剣よりも強し」というのは、通常は「言論は暴力に勝る」という意味に理解される。だが「ペン」もまた暴力になりうる。  つまり、「ペンは剣よりも強し」という…

安田鋲太郎
3か月前
13

フナのように雌伏すること

 noteをやっているとこれはこれで、Twitterとは別の川が流れているのを感じるときがある。noteにもそれなりに他の人の気配というのはあって、何人かTwitterからは姿を消し…

安田鋲太郎
4か月前
16

人は冷酷な生き物なのか

 いまではもはや珍しい話ではないが、我々の社会にはたまにインターネットを使って公開自殺をくわだてる者がいる。  たとえば2013年――当時はかなり衝撃を巻き起こした…

安田鋲太郎
4か月前
18
リソース管理ゲーム、システムシンキング、無政府資本主義の実生活への応用

リソース管理ゲーム、システムシンキング、無政府資本主義の実生活への応用

 クレタ島で三人の男が言い争っていました。
 A「わたしは仕事が大好きだ。わたしは嘘つきクレタ人ではない」
 B「いやAは嘘つきクレタ人だ。こいつは俺と同じで仕事が嫌いだ」
 C「いやBこそが嘘つきクレタ人だ。こいつは仕事が大好きだしわたしも仕事が大好きだ」
 さてこのなかで正直者が一人だけいます。それは誰でしょうか?(答えは文末)

 どうもこんにちは、お仕事大好き安田鋲太郎です(・ω・)ノ 

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コミュニケーションに難がある人と居場所のことなど

 先日、フォロワーさんのスペースを聴いていて、コミュ力が低くトラブルメーカーになりがち、あるいはそこまで行かなくても他人に避けられてしまう人を如何せん、という話が出てきたのだが、これはかなり以前から随所で持ち上がっている話であり、僕も長年、いや長年ではないか、まあ折にふれ考え続けてきたことではあった。
 その方はなんでも、リアルで居場所的な空間を運営していたのだが、やはり困った人が居着いてしまい、

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10分で支度しろ!(おすすめ酒本二種)

 日付が変わる前にnoteを更新します、とフォロワーが云っていたので、なるほどそれもいいかも知れん、自分もやってみようと思って時計をふと覗いたら23:50分。ありゃ、これは無理だな。いやまてよ? 10分で更新できなくもないか、と思ってこれを書いている。もう一度時計を見るとまだ23:50だ。
 さて話題に迷っている暇はない。最近何があった? そうそう昼から飲んでしまったのだ。酒といえば『ルバイヤート

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酔生夢死試論、またはエンタメと死の超克

酔生夢死試論、またはエンタメと死の超克

 もう10年以上前になるが、母のガンの再発・転移が発覚し、前途の明るいとはいえない病床生活に入るさいに、僕が母に買ってきてくれと頼まれたのは「日本のむかしばなし」の本と「古典落語のCD」、それに「PUFFYのアルバム」だった。
 そのことを今でも時々思い出す。「日本のむかしばなし」には、死を前にした人が求めるなにかがあるのではないだろうか?
 「日本のむかしばなし」と「古典落語」との繋がりで、おぼ

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座談会、マッチメイク、スペース

座談会、マッチメイク、スペース

 ほらあの、「座談会」とか「対談」とか「共同討議」といった、言論誌の目玉となる、論客を招いて議論させるああいうコンテンツ。僕などは格闘技を観戦するような感覚で、それ目当てで雑誌を購ったりするのでれっきとしたファンである。

 さて、その最初期の代表たる『新潮』の「新潮合評会」は、ある時期に注目すべき変貌を遂げたという。
 大澤聡『批評メディア論』によれば、一九二〇年代後半に、いくつかのメルクマール

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正しい狂人のなりかた

正しい狂人のなりかた

 百目鬼恭三郎『奇談の時代』は、なかなか直接読むのは敷居が高い古典文献を膨大に読みこなし、そこから現代の読者に向け、面白い奇談をテーマ別に次々紹介してゆくという、大変お得な本である。
 これ自体で楽しむもよし、ちゃんと各話に出典がついており、巻末にはそれらの出典の簡単な解題も乗っているので、自ら古典世界に分け入るガイドにするのもよし、ぜひ座右にお勧めしたい一冊だ(ちょいちょいタネ本にするのであまり

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文章は書けないものだから心配するな

文章は書けないものだから心配するな

 さて、この春からばりばり書くぞ、と意気込んでいたのだが、「ものを書く」ということをあまりに本質的に考究した結果、ついに一丁字も書けなくなってしまったので慌てて路線転換する。ぐっと敷居を下げて適当に書いていこう。

 *

 しかし、この間考えていたこともまったく無駄ではないと思うんですよね。まずはそれについて述べますと、

 だいたいこういうことになります(念のために言っておくとこれは批評的文章

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窮鳥の論理

窮鳥の論理

 窮鳥懐に入れば猟師も殺さず。

 『顔氏家訓』「省事」にみる「窮鳥入懐 仁人所憫」を原文とするこの成語は、私見ではたいへん普遍的な人の心を言い当てている。

 猟師は鳥を殺して暮らしを立てている。平素ならば、彼が鳥を殺すことになんの躊躇もないだろう。だがそのような猟師でさえ、いきなり(他の獣などに?)追い詰められた鳥が懐に逃れてきたならば、これを殺すことは出来ない。そればかりか、彼はこの鳥を救お

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妄想父さん 現実父さん 父娘の形而上学

妄想父さん 現実父さん 父娘の形而上学

 川端康成の弟子筋にあたる文学者、桝井寿郎の身辺に起こったという怪談のなかに、とても短いが印象的な話がある。短いといっても6頁ほどあり丸ごと引用するわけにはいかないので、僕なりに要約して話すと…

 日光の深い山中に、先祖代々庄屋をつとめていた旧家があり、そこには二尺ほどの大きな天狗の面があった。
 雪子というこの旧家の娘は、幼い頃から、この天狗の面が怖くてしようがなかった。友達と校庭で遊んでいて

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温故知新への疑い

 仕事がら、いわゆる「読書家」という人種とよく接する。するとやはり「最近は若い人が本を読まなくなっちゃって…」というれいのぼやきを耳にすることが多い。たぶん、僕はフォロワーさんの誰よりもそういうぼやきを日常的に耳にしているんじゃないかと思う。
 しかし、そういう物言いにはあまり共感できない、というか疑問山積なのである。なにぶん接客なんで「そうですねー」なんてニヤニヤと曖昧な受け答えをせざるを得ず、

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「スペース飲み」がヤバい

「スペース飲み」がヤバい

 『日本全国酒飲み音頭』、あれちょっと変なんですよね。「一月は正月で酒が飲めるぞ」「二月は豆まきで酒が飲めるぞ」「三月はひな祭りで…」と続いていくわけですが、酒ならべつに毎日飲めるじゃん、と思った事はないですか。
 でも本当はべつに変なわけじゃなく、ようするに日々の晩酌は数に入っていないわけです。そりゃお勤めしたあと、寝るまえに手酌でちょっと飲むということはあったでしょう。しかし「酒が飲めるぞ」と

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島宇宙とアテンションエコノミー

島宇宙とアテンションエコノミー

 きょうは今後の思考のための、ちょっとした覚え書きです。

 *

 このところ東浩紀の初期のテクストを読み返していた。そこでしきりに彼は、次のような話を繰り返している。
 僕なりの言葉で要約させてもらうと、いわく、今は「大きな物語」(リオタールの言葉で、人々が共有する世界観や価値観のようなもの)が失われ、文化全体を見渡せるような特権的な視点が不可能になった。浅田彰の『構造と力』は、あたかもそのよ

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栄えるのじゃ!

栄えるのじゃ!

 日曜日の夕方に愛聴している、一話完結の大河ラジオドラマ『NISSAN あ、安部礼司 〜 beyond the average』、通称「安部礼司」は、前半はまったりした笑い(ゲラゲラ笑うものではなくおなじみのキャラがおなじみのボケやツッコミをする程度)、後半になると泣かせる、エンターテイメントのツボを抑えた逸品だ。
 「前半は笑い、後半は涙」というと吉本新喜劇を思い浮かべるが、涙(感動)の方向性が

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ペンは剣よりも強いというけれど

ペンは剣よりも強いというけれど

 「ペンは剣よりも強し」というのは、通常は「言論は暴力に勝る」という意味に理解される。だが「ペン」もまた暴力になりうる。
 つまり、「ペンは剣よりも強し」というのは、必ずしも善悪や倫理的な次元を含意していない。たんに「剣」が表象する軍事力からゲンコツに至る直接的暴力よりも、「ペン」が表象する論争からお前の母ちゃんデーベソといった言語的暴力(ここでは「暴力」という意味を極力ニュートラルに理解していた

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フナのように雌伏すること

フナのように雌伏すること

 noteをやっているとこれはこれで、Twitterとは別の川が流れているのを感じるときがある。noteにもそれなりに他の人の気配というのはあって、何人かTwitterからは姿を消した人がnoteで発信していたりする。またTwitterをやりながらnoteでは少しキャラを変え、別の話題を書いている人もいる。

 もちろんTwitterに比べると人が少ないのは否めない。まあnoteにかぎらず、ブログ

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人は冷酷な生き物なのか

人は冷酷な生き物なのか

 いまではもはや珍しい話ではないが、我々の社会にはたまにインターネットを使って公開自殺をくわだてる者がいる。
 たとえば2013年――当時はかなり衝撃を巻き起こした――スティーブンと名乗るカナダの学生が、画像掲示板サイト4chanで自殺を宣言し、それを見ていた別のユーザーが提供したビデオチャットルーム(最大200人視聴可能)で、「死の生配信」を行なった。

 〝僕は最後に最善の方法でコミュニティに

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