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11/22(木)23(金)全財産が7円になった

昨日の話だ。
財布の中の小銭を数えてみたところ、お金は178円しかなかった。
そして、家にある食料はおよそ6食分しかなかった。絶望だ。
僕は頭を掻きむしりながら部屋中をひっくり返し、昔使っていた財布(そういえば両親から成人の祝いでもらったものだ)や、昨年引っ越してきて以来そのままだった段ボールを開けてみたりしたが、金目の物は見つからない。
30分ほどの探索のあと、「これじゃまるで自分の家に空き巣に入ったみたいだな」と半笑いを浮かべて呆然としていたとき、ふと閃いて机の上の小さな木箱を開けた。
この箱には、もう使わなくなった各種ポイントカードや診察券、もう会わないであろう人の名刺などが乱雑に放り込まれているのだ。
その中には、見つけてもらうのを待っていたかのようにJCBのギフト券1,000円分があった。そうだ。今まですっかり忘れていたが、これはJCBのクレジットカードを作った時に送られてきたものだ。しかし、使えるお店がよく分からず、調べるのも面倒だったためこの箱に放り込んでいたのだ。
僕はようやく見つかった宝物に興奮しながらこのギフト券について調べ始めた。うちから自転車圏内のスーパーマーケットだと、使えるお店はマックスバリュと生協だということが分かった。

あとは、この貴重な1,000円をどう使うかだ。

翌日、つまりこれを書いている今日、僕は朝7時に起床してから1時間ほどギフト券と睨めっこをしていた。
ギフト券の使い道について考えるうえで、どうしても頭に浮かんだでしまったのがタバコのことだ。
こんな困窮してる時にタバコなど!と誰しもが思うだろう。
確かにその通りだ。
ただ、完全にニコチン中毒になってしまっているので、急に辞めることができないという点、そしてタバコは、外食もお酒も映画も音楽も本も買えない僕の数少ない楽しみのひとつであるという点を考慮すると、やはり確保しておきたいのだ。節約しながら吸っていたが、今朝でついにタバコの買い置きは無くなってしまった。

1時間に及ぶ緻密な計算の結果、ギフト券1,000円+現金178円の使い方として僕が立てた計画は

・500g 108円のパスタを4袋=432円
・タバコ1箱=480円
・残りの266円でかつおぶしetc


というものになった。
調べたところ一番気を付けなければならないのは、ギフト券ではお釣りが出ないらしいという点だ。
つまり、1,000円以下の金額では損をしてしまうし、なおかつ、全財産である1,178円を1円でも超えてしまってはならないのだ。
なかなか緊張感のある買い物になりそうだ。
僕はまず風呂に入って身を清め、混雑が予想される昼時を外して14時頃に家を出た。思えば久しぶりの外出だった。

家の中で予想した通り、外は晴れていたが非常に風が強く気温は低かった。
せっかくの外出なのでポケモンGOを起動したが、操作ができないくらい手がかじかんでしまったので、5分ほどで諦めてポケットにしまった。
ゆっくりと自転車をこいでマックスバリュに向かった。タバコを扱っているかを確認するために電話をしようか悩んだが、気づいた時にはもう走り出してしまっていたのでとりあえず向かってみることにした。

祝日の町はほんの少しだけ活気づいているようだった。紅葉が終わり落ち葉が積もった公園で、見るからに風の子!といった感じの子供たちが薄着で遊んでいた。
できるだけ人通りが少ない路地を抜けて、目指していたマックスバリュへたどり着いた。思っていたより近く感じたので時間を確認したら家を出てから20分ほどが経っていた。おそらく久しぶりの外出で町をあちこち見ながら走っていたのであっという間に感じたのだろう。

店の前に自転車を停めて意気込みながら入店したが、いきなり出鼻を挫かれてしまった。タバコを売ってはいるのだが、レジではなく少し離れたサービスカウンターで販売しているようなのだ。
これでは食料+タバコを合わせて会計することができないのではないか・・・?
不安を感じながらも、とりあえずカゴにパスタ2kgとかつおぶしを入れてカウンターの方へ向かう。
勇気を出して、できるだけ変な人だと思われないようにカウンターの女性に聞いてみた。

僕「すみません、タバコってコレ(カゴの商品)と一緒に会計できますか?」
女性「タバコは別で、このカウンターだけでの会計になりますね~、すみません~」

終わった。入店時の懸念は正しかったのだ。
そして質問をすることに集中していて、返答を受けてどう応えるかを全く考えていなかったので焦ってしまった。
アワリヤッシャ、という曖昧かつ変な人丸出しな返事をしながらそそくさとカウンターを離れたが、さてどうしたものかとマックスバリュのど真ん中で考え込んでしまった。
ギフト券でお釣りはもらえない。そして食料とタバコを同時に買えない、ということは、僕のとれる選択肢はこの3つだ。

①ギフト券と現金で1,178円分の食料を買う。タバコは諦める。
②ギフト券で1,000円分のタバコを買う。食料は諦める。
  (もしくは現金の178円で何かを買う)
③マックスバリュを諦め、他の道を探す。

僕が選んだのは②のタバコパターンだった。読んでいる人はオイオイオイと思うかもしれないが、この決断にはひとつの理由があったのだ。
このマックスバリュの近くに、こないだ行った業務スーパーがあるということを思い出したのだ。そこなら所持金178円でもパスタを1kg買えるはずだ。
そこでパスタを1kg買い、もし足りなければ家に残っている野菜を全てナベにぶち込んで困窮野菜スープでも作ってお茶を濁してしまおう・・・。
そんな無計画、無鉄砲、無想無念と三拍子揃った逃げ腰型ソリューションを考えついていたのだ。
そうと決まれば話は早い。
カゴに入れていたパスタとかつおぶしを棚に戻し、再びカウンターに戻り、先ほどとは違う女性店員にタバコの番号を伝える。
「ま、もちろん現金も持っているんですがね・・・」という顔をしながら、「これ使えますか?」とJCBギフトカードを出すと、店員は少し困った顔をしてこう言った。

「使えるんですけどね~、この券だとお会計が1,000円以上じゃないと使えないんですよ~」

??!
一瞬頭が真っ白になってしまった。
1,000円以上とはつまり480円のタバコだと3箱だ。しかし3箱だと所持金1,178円を大幅にオーバーしてしまう。
ん?ということはまさかえーと、買え、ない・・・。
まさかの返答に完全にパニクってしまった僕は、アージャーイース、ダイジャブッス、という自分でも気持ち悪いとはっきり言えるような声をあげながらあたふたとマックスバリュを後にしてしまった。
とりあえず自転車置き場まで戻り、店の入り口に繋がれた茶色い犬がブルブル震えているのをしばらく眺めていたが、すぐに我に戻った。

マックスバリュはもうダメだ・・・ということで、もう一つの可能性、生協に賭けてみることにしたのだ。さすがに二度も失敗したくないので、マックスバリュから一番近い生協に勇気を出して電話をかけた。
タバコを扱っている事、JCBギフトカードが使える事、タバコの支払いにも使える事の3点を確認し、ようやくマックスバリュから自転車をこぎだす。
そうこうしているうちに日が傾き始めていた。

気温も下がってきていたのでいつもより急いだが、少し距離があり15分ほどかかってしまった。
情報どおり、生協ではレジのところにタバコを置いているのが入り口からも見えた。マックスバリュではタバコ食料会計分離問題により選択肢が限られてしまったが、ここでなら本来の目的であるパスタ2kg+タバコ1箱パターンが実現できそうだ。最初からこっちに来ていれば良かった。
初めて入る店舗だったが、広くは無かったので目的のパスタゾーンをすぐに見つける事ができた。しかし、値段が高い。業務スーパーでは500g79円だったパスタが、ここでは軒並み120円以上だ。

果たしてここでパスタ買っていいものか。
無理してパスタを買うよりやはりタバコ2箱の方がよいのではないか。
いや、パスタは1kgにして、他の何かを買うか。
待て、そういえば家のコーヒーも少なかった。
コーヒー(18杯400円)+タバコ(480円)+パスタ500gならどうだろう。
しかしこうして見るとコーヒーも高い。400円あったらパスタを・・・。
いや、そもそもタバコを安い「わかば」にすれば1箱あたり120円浮くのでそうすれば・・・。
しかし「わかば」はいくら何でもマズすぎる・・・。
いや、うまいとかまずいとか言ってる状況じゃないのではないか・・・。
だがあんなにマズいタバコを買うくらいなら食料に全振りした方が良いのでは・・・。
しかしギフト券のお釣りが出るならこんなに悩まず適当に駄菓子でも買って換金できるのにな・・・。

などと、スーパーの中で「いや、待て、しかし」を繰り返す自問自答地獄に入り込んでしまった。
店に入ってからもう15分以上過ぎただろうか。
いよいよ店員さんに不審がられるレベルに近づきつつあったので、僕はついに腹を決めて手ぶらでレジへ向かった。
マックスバリュでの選択と同じく、タバコ2箱を買うことに決めたのだ。食欲より煙欲が勝った瞬間であった。
タバコの番号を伝えてJCBギフトカードを出すと、店員さんは少しだけ迷ってからレジを操作し、僕に思わぬ一言を放った。

「ではお会計いたしますのでお釣りはこちらの機械でお受け取りくださいありがとうございました~」

???
レジ入り口のタバコ棚ばかり気にしていたのでよく見ていなかったが、レジの出口に見慣れない機械があった。
どうやらこのスーパーはお釣りを手作業で返すのではなく、別の機械から払い出すシステムのようだ。
しかし僕が「???」となったのはそのシステムのことではなく「お釣り」というフレーズだ。
ギフト券ではお釣りが出ないはずではなかったのか。そのお釣りナシ問題によって僕は今まで悩みに悩んできたのではなかったのか・・・。
腑に落ちなかったが、もちろん悪い話でも無いので、機械からお釣りの40円を受け取り、生協を後にした。

これでタバコ2箱を手に入れ、所持金は218円。税込み108円の商品なら2つ買える金額だ。

その足で業務スーパーへ向かった。もちろん使い道はパスタだ。生協から5分の距離にある業務スーパーへ入ると、残念ながらパスタは少し高かった。とはいえ218円で2袋は買える値段だったので迷わず手に取り、素早く会計を済ませた。
店を出てから財布を確認すると、所持金の残りは7円だった。
紆余曲折を経て結果的には当初の予定とは違う使い道になったが、半端を出さずにほぼ1,178円を丸々使い切って買い物を終えることができた。

再び15分ほどかけて家へ戻るころにはすっかり夕方になっていた。
買ってきたタバコを1本吸い、パスタを作って食べ、この記事を書く今に至る。
パスタを作る途中で、戸棚の奥にクスクスの箱があったのを発見した。クスクスとは簡単に言うと米粒状のパスタで、水とお湯で戻して使う。
以前働いていたあるお店ではサラダに混ぜて使っていて、気になり購入したのをすっかり忘れていたのだ。
340g入りなのでこれも2食分くらいにはなりそうだ。運が向いてきた。

こんな調子で今日も1日が終わろうとしている。ここ数日は本当に目も当てられないような情けない話ばかりで申し訳ないが、これが今の僕の生活だ。
なんとか今月末まで無事に過ごして、来月からは何か新しい動きができればいいなと思っている。
さすがにこのまま年を越してしまうのは避けたいところだ。

こんな生活なのでサポートして頂けると少額でもとても大きな助けになります。もしこのノートを気に入っていただけたら、ぜひよろしくお願いします。羊肉